105 「私をなんだと思ってるのかな!?」
ヨミと先生の言い合いを眺めつつも街に向かって駆けて行く。
今度は追い抜かす形になったモンスター達がこちらに気付くと襲い掛かって来るがヨミと先生の攻撃の前にあえなく散って行く。
うわあ、ヨミがトレントを転ばした所に先生の蹴りが入って飛んで行った先々に居たモンスターが轢かれていって道が開いて行ってる……。
「そっち行きましたルーネさん!」
「はいはーい!」
「右前方が薄そうです!」
「りょーかーい!」
先生の超火力をヨミが上手くコントロールして混乱を引き起こしているので周囲のモンスター達がこちらに目を向ける事は無くひたすら二人を狙い続けていた。
そのおかげで後ろで走っていた自分達に特に危機が迫る様な事も無く街にまで辿り着く。
外壁より少し離れた場所では大勢のプレイヤー達がモンスターと戦っていた。
際立って暴れている者達の中にはそれなりに顔見知りが混じっており「牙とか爪よりも盾の方が怖いんじゃああああ!」等とよくわからない事を叫びながら挑みかかっていた。
俺よりも目の前に居る二人の方が怖いと思いますよ?
本人達に言ったら笑顔でHPを消し飛ばされそうなので言えないが。
外壁付近にまで辿り着くとこちらに背を向けたゲンコツとその前に立つプレイヤー達。
集団の方がこちらを見て気付いたそぶりを見せるとゲンコツもこちらを向く。
「ん?群れの本隊は潰せたのか?」
「あ、ゲンコツさん。数が多かったんで一旦帰ってきました」
ヨミを見れば「行って来なさい」と言われたので近付いて行く。
ヨミと先生以外は外壁付近に座り休憩に入りだした。
「そうか。西も大分片付いたし主力級がこれから出る所だったんだがお前らも行けるか?」
「俺とヨミは大丈夫そうです。ただ他はそろそろ細かい点でキツイかと」
「そうか。そこで休憩してるメンバーに防衛を頼んどいて良いか?」
「大丈夫です。で、後ろに良い笑顔で武器構えてる人達が見えるんですが」
「ああ、守ってばかりなのは性に合わない奴の方が多いからな」
「それはなんとなく解りますが……。俺が戦った事ある人も多いような気がするんですけど」
「ビビッて死に戻りされても困るからな。肝が据わってる奴を選んだぞ?」
「そうなんですか」
「まあ火力は期待してくれ。それとそっちのNPCは……」
そこでゲンコツはヨミとルーネ先生の方を向くと何か言いたげに目線を向ける。
「ああ、彼女は連れて来ても大丈夫です。と言うか来て貰わないと自分達が全滅しかけます」
「……理由は?」
こちらが言った内容に眉をひそめ声を小さくしながら真面目な顔でそう言ってくる。
それに対しては具体的な内容を話した。
「パンチ一発でモンスターが三桁ほど消し飛びます」
「なんだそりゃ……。それじゃ、頼むとするか」
「それに本人戦う気満々なので止めた所で無駄かと」
「ただの美人にしか見えねけどなあ……」
「あの人は規格外なので、そのつもりでお願いします」
「お、おお、わかったが……。そういや東側が騒がしいんだがお前らなんかやったのか?」
「……いやあ、俺は何もしてませんよ?」
「……本当だろうな」
ははは、『自分は』何もしてませんよ。
師匠、貴方一体東側で何やってるんですかね。
そのまま進軍とかしてませんよね?
大丈夫だと思いたい。
そして数分後。
俺は外壁の上に立って眼下にプレイヤー達を見据えていた。
しかもご丁寧に鎧装備の上にマント付きで。
「それじゃいっちょ頼むわ」
「お願いね」
「お願いするよ」
目から光が消えた魔法使い組が後ろから各種属性魔法を使い禍々しいオーラを演出する前に立ちゲンコツ、ヨミ、シュンセツの三人からはよくわからないまま頼まれる。
そして横にはこちらを見つめて目をキラキラさせている先生の姿。
時折「これが魔王様ごっこ……!」なんて単語も聞こえて来るのだが貴女は一体何処でそんな知識を仕込まれて来たんでしょうか。
登る直前に渡された情報を読んでみれば街のNPC達もプレイヤーを助けてくれているらしい。
わかりやすく画像も込みで整理されたその中の一枚には師匠に似ている人の姿もあった。
若い頃ってこんな感じだったんですね。うん。細マッチョだ。
何故あんな筋骨隆々な老人に……。過程が恐ろしい、恐ろし過ぎる。
想像しない様にしとこう。
「さて、何を話せば良いのだろうか」
「こう言う時は味方を鼓舞するのが鉄板かなっ」
後ろからはさっさと話せと言う視線をビシバシ感じるがホントに思い付かないので口に出しながら考える事にすれば先生が反応して来た。
そちらを向けば先生の笑顔が見える。
数千歳だと肌の具合も神話級なのかな……。
なんて事を考える辺り自分は大分現実逃避がしたいらしい。
「文面思い付かないんですけど「我に続け!」とかどうでしょう」
「君は強いのかな?」
「防御力が高いだけですが」
「へえ……、今度手合わせして貰っても良いかな?」
「まだ死にたくないんで遠慮して良いですか」
「私をなんだと思ってるのかな!?」
「死神ですかね」
「あっれー、おかしいぞうー?何か重大なすれ違いが起こってる気がするぞー?」
「嘘です」
「もー!」
ぷんぷん!と言った擬音が聞こえてきそうな先生に向き直り真面目な表情を向ける。
そして自分は出来る限り真剣な声音で本当の感想を言い渡す。
「本当は……、厄災です」
「被害が大きくなったっ!?」
愕然としている先生を放置して下のプレイヤー達を首を傾けつつ見回す。
緊張していた様だがこちらのやり取りを見て緊張が強制的に解除されたようだ。
既に掲示板が炎上しているのが見える。どうやらまたハーレム要員が増えたらしい。
今は放置しておくとして後で修正をしておかないとな。
それとそろそろ後ろからも前からも圧力が掛かり始めてる。胃が痛くなって来た。
さて、何かを話そうか。
改めて腕を組み今の自分の願望を含め、声を張り上げる。
「諸君!ただ街にこもる事を強制されていた者達よ!」
大仰な身振り手振りを加えながら声を出し続ける。
こう言う時に大事なのは内容ではない、勢いだ。
「今、街の両翼は勝利を収めつつある!そして強力な援軍も到着した!」
そこでルーネ先生を手で差す。
疑問の目を向ける者が多かったが続く言葉に目を剥いた。
「彼女一人でも北側は勝利する事が出来るだろう!これは真実だ!」
何故そんな事を言うのか、と言った目をする者達に対して目線を流す。
ああそうだ、そう思うだろ。でもなー。
「しかしだ!この戦は我等が行ってきた物だ!ならば我らが戦わずして終わる物か!?」
今日までの事を思い出させつつこれは自分達のイベントだ、と言う事を解らせる。
次はやれる事を言わないといけない。
「俺はただの1プレイヤー、されど一人分の戦力だ!ならば諸君は何人分だ!」
見下ろせば四桁に達する人々が見える。
これが全て戦場に出たのならどれだけ倒せるだろうか。
そして次の言葉は博打になるがさて、どうだろう。
「そして諸君!この一戦を勝てば、寝れるぞ!」
『うおおおおおおおおおおお!!!』
そこで静かにしていた眼下の人の群れから雄たけびが聞こえて来る。
どうやら当たりを引いた様だ。
「えええええ!?何その理由!?」
横から先生のビックリしている声も聞こえないような歓声の中さらに声を張り上げる。
そろそろ喉が痛くなって来た。
「ではアルタ街防衛戦、盾の魔王軍、出陣!」
『応!』
そうして次々と北側のモンスター達に向かっていく人の流れを眺めた後にさて自分も向かおうかと思い外壁を降りようとした所で肩を掴まれる。
振り向けば困惑した表情のルーネ先生の顔が見えた。
「どうしましたか?」
「いや、あの、さっきの最後のアレってなんであんなに効いたのかなって思って……」
「ああ、あれですか。理由はですね……」
街に居た中でも徹夜を何度もやる羽目になっていた人達も多かったんですよ。
そう言っても先生はピンと来ていなかった様だがプレイヤーならわかる事だ。
何しろ彼らは戦闘主体のキャラクター作りをしていなかった面々なのだ。
そんな彼らがする事と言えば生産が主体。そして防衛戦。作る物は幾らでもあった。
皆の目が軽くイっていたのもそのせいであり、後はヤケクソ気味に叫んだ感じだろうか。
「ともあれ自分達も行きますよ」
「まだ納得できてないけど……。うん、いこっか!」
さてと。何度目になるか解らないが、やってみますかね。
そこのけそこのけ龍が通るぞ、っと。
集まっていた人達は必要最低限な人員を残して出て来た戦闘職以外の人達です。
雑用などもこなしていたので戦闘職の面々より遥かに仕事量がありました。




