104 「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!」
アルタ街より北に数キロの地点。
森の中に浸透しきったモンスターの群れの中で一つだけ動き続ける空白地帯。
そこで14名の男女が戦っていた。
「タテヤ」
「どうした?」
「街からの報告によると変なNPC二人がこっち来てるみたい」
「性別は?」
「男女一組」
黒髪の少女がモンスターの群れを切り捨てる中誰かと話しており、その後話し掛けられた少年はモンスターを蹴り飛ばしながら返事をした。
「助かったと喜ぶべきか?」
「どうかしらね」
「ただ、まあ」
「なに?」
「ようやく撤退出来るな」
少年がため息を吐く様にして絞り出した声は疲れ果てた者が出す物だった。
それに対して逆に少女の笑みは鋭くなり何処か狂気を感じさせる物になる。
「余力残してるメンバーは続行だけど」
「え」
「え?ヨミちゃん、流石に僕らも辛くなって来たんだけど……」
「ヨミさん、これ以上はMPの事もあるし一度撤退したいんだが……」
「あの、ヨミ先輩?僕もですか?」
「タテヤと私ぐらいかしらね、残れるのは」
「「「それなら良いや」」」
「おいコラ」
少女が言った言葉に周囲で戦っていた者達の内三人が反応する。
いずれも男であり、少女の言った内容に慌てて問い返していたが巻き込まれないと解ると安堵の息を吐き再びモンスターとの対面に戻って行く。
「えっと…、タテヤさんもヨミさんも大丈夫なんですか?ずっと戦ってますよね?」
「魔王様は良いとしてもヨミちゃんは大丈夫なのかな?」
「他のゲームだけど一日中二人で経験値稼ぎとかもしたから慣れてるのよ」
「VRゲームでやる羽目になるとは思ってなかったんだが……」
「この状況まで引っ張って来たのは誰かしら?」
「頑張ります、はい」
目元を隠した少女と作業着を着た少女が問えば黒髪の少女はなんでも無いかの様に言い放つ。
それを聞いた少年が愚痴を言えば少女が返し確約させられる。
「しかしタテヤ殿とヨミ殿はどうやってそんな精神力を身に着けたので御座りましょうか」
「私も気になるかな?ゲーム廃人とはまた違う気がするし」
「ヨミ先輩たちは噂も相まって色々と情報が錯綜してるんですよ?」
「ヨミちゃんも凄いけど合わせられるタテヤ君も凄いよね……」
「初対面が二人ともモンスタートラップ踏んだ状態で背中合わせで戦ったって言ったら信じてくれるかしら?」
「二人ともキャラアバター男だったしな……」
お互いに連携をしながら堅実にモンスターの数を減らして行く女性や少女達。
少年と黒髪の少女は一地点に固まらない様に戦っているので時たま会話の機会が訪れる。
黒髪を頭の後ろでくくった少女が跳ねる様にモンスターを翻弄し。
緩くウェーブを描いた髪を揺らしながら金の髪を持った女性が魔法と共にモンスターを打ち倒し。
青の髪を持った女性が手に持った長剣をモンスターに叩き付け。
金髪を短く切り揃えた少女がステップを踏んで的確に急所を切り裂き。
一瞬の内にモンスターを二桁単位で吹き飛ばして行く二人を見てため息を吐いた。
「このポーション扱いにくいんだけど!」
「それとそろそろ帰らないと街からの援護も辿り着けない……、と思う」
「だ、そうだが。そろそろ退かないか?」
「もう十分経験値は稼いだか……、よし、帰りましょう」
「え、この死に掛ける様な時間ってレベリングさせる為だったの?」
「さっきの話が本当ならヨミとタテ兄はまだ追い詰められてない事になるんだけど」
「まあ俺が居る間は死なんだろ。多分」
「タテヤが居るし死なないかなと。多分」
「「ええ……」」
魔法を使い援護を送っていた黒髪と白髪の少女達は一息を付いている二人に話し掛けると疑問の声を上げ一瞬動きが止まる。
即座に横からハンマーを持った青髪の少女のフォローが入った事で戦線崩壊は避けられた。
「……御茶葉さん達から聞いていたけどやる事がえげつないね」
「有名処になっちゃったんだしPKされない為にも強さは必要でしょ?」
「このタイミングで画策するとは思ってなかったわ」
先程フォローに入っていたハンマー持ちの少女が得心した、と言う顔で情報元の名を出す。
それに対して黒髪の少女が返し、少年が驚愕する。
そうして動き続けながらも全体の動きは森の奥に向かう物から街に対して方向を変えて行く。
日はまだ高く、沈みそうにない。
「なあ」
「何?……じゃあないわね。明らかにこっちに来てるわねアレ」
「あの速度……、アレ、だよなあ」
一番前でヨミと二人帰り道を開け続けていると遠くの方でモンスターが三桁単位で宙に打ち上げられつつ爆散して行くのを視界に捉える。
他のメンバーも気付き始めた様で『何あれ』と言った声も漏れ始める。
「さて、ここで良い知らせが三つあります」
「何かねヨミさんや」
モンスターの群れも突然の事態に困惑しているのか攻撃の手が鈍った所でヨミがこちらの横に立ち片手でモンスターを裁きながら一枚の表示枠を眺め、顔を少ししかめながら言葉を作る。
「一つ目は西側のモンスターがほぼ片付いたので北に戦力が割ける様になりました」
「おおー」
「二つ目は東側にもカッコいい男性のNPCが行ってくれたそうです」
「おおー……」
「最後は北側にハイテンションな美女が走り去ったと言う報告がありました」
「ああ……。まあ、助かるし、良いんじゃない?」
「装備隠さないとバレるわよ」
「あ」
ヨミに言われた所で今の状態で先生に装備を見られる事によって生じる面倒を避ける為に砦盾を解除し籠手も外す。
それを見て防御力が下がる事に気付いた後ろのメンバーが気合を入れ直したのを感じる。
まだフォートレスは使ってるんだけどなあ。
そんなやりとりを交わしつつも砂煙が目の前まで迫って来た所で砂を顔に被る。
思わず盛大にくしゃみをすれば「くしゃみで呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!」と叫びながら一人の女性が地を蹴った勢いで宙を舞ってこちらの前に飛び降りて来た。
「やあやあ!君たちが守ってくれてた冒険者さん達だね!私はルーネ!後は任せなさい!」
彼女はこちらをビシッと指差しながら楽しそうにそう言った。
何でそのネタ知ってるんでしょうね。
「うわあ、数十年前の方が痛々しい」
「タテヤ、この人がそうなの?」
「うん。外見変わってない事にびっくりしてる」
初めてルーネ先生を見たヨミの反応はチャットに書いた事を思い出したのだろう。
言いにくそうに言葉を選んでいるのがわかる感想だった。
「凄い……美人ね」
「残念だけどな」
「いきなり酷いね君たち!?」
ああ、この頃からハイテンションなのは変わってないんですね……。
師匠の苦労を考えると少し目頭が熱くなった。
「うっ……、師匠は何年もこれに……!」
「援軍が来たからって涙を流すとか喜び過ぎじゃないかな!?」
「いや、まあ、はい、もうそれで良いです」
「え、何か違うの……?」
「ははは、やだなあ、初対面の人に言える事なんて無い筈ですから」
「そ、そうだよね……、何故か君から知り合いの力を感じるけど気のせいだよね……」
「ええ、そうですよ?」
「と、とりあえず君とそこの強そうなお嬢さんは私と来てくれないかな?」
思わず顔を抑えて涙を零すと先生は別の発想で驚いて下さった。
まあ普通はそっち方面で考えますよね。
その後はごり押しで誤魔化せば自分とヨミが指名を受けた。
「私もですか?」
「うん、見た所仲が良いみたいだから手伝って欲しいなって思ってね」
「解りました。でも他の皆を先に街まで送り届けてからでも良いですか?」
「りょーかい!私の連れもそこで合流出来る筈!」
「もしかして……、行き先告げずに来たとかは……」
「ちゃ、ちゃんと言って来たよ?「ちょっと人助けして来る!」って」
「方角は!?」
「あー……、言ってなかった、かな……」
「えええ!?」
おお、ヨミが珍しく翻弄されている。
流石先生です。昔から残念だったとは思いたくありませんでした。
聞いてた筈なんだけどなあ……。
ともあれ一旦仕切り直しと言う事で。
ああ。寝たい……。
飛び出ました。




