103 「うーん、やっぱこうなるよなあ」
さて、意気高く熊の群れに近づいてみたものの。
「うーん、やっぱこうなるよなあ」
「のんびり回顧してないで手を動かしなさい手を!」
「ほいほい」
びっちりと隙間無く囲まれてます。
うん、何日か前にも見たな、コレ。
あの時よりはマシだけどなあ……。
なんて事を考えながらも武器を振り回し、蹴りを繰り出し、挑発2を発動させ動きを固める。
「そーいやっ!」
「それっ!」
「はあああ!」
そこに男衆が斬りかかりまた屍骸を一つ生み出して行く。
女子側はヨミが守護役になっているのでこちらは全力で戦うだけであった。
それでも既に数十分。流れ作業に近い事をやり続けた為頭が段々ぼんやりして来ている。
これはマズいと思い双直剣を振り回しているヨミの元へ向かう。
「なあヨミ」
「何!」
ヨミが斬り損ねた兎を思い切りサッカーボールの如く蹴り飛ばし何処かに飛ばす。
ああ、空は綺麗だな……。
「俺、なんで盾役の筈なのにこうなってるんだろう」
「……私に言わないでっ!」
双直剣を地面に刺し直剣二本を取り出すと目の前の狼を両断するヨミ。
地面にも剣身がかなり刺さってますね。
「お、おう。なんかすまん」
「で、ここからどうするの?」
それで多少は気が晴れたのか直剣をしまうと二つ目の双直剣を取り出すヨミ。
全部形が一緒だと思ったら消耗しても取り換えられるなんですね。
「一応やってみたい事がある」
「一応聞くけど、何?」
その後双直剣に肩紐を取り付けると身体にクロスさせるようにして二本を担ぎ振り回し始める。
回転させていない分威力が落ちそうな物だが身体ごと回す事で補っているらしい。
「俺が適当な方角の群れの中に突っ込んでひたすらバットで打ち上げるだけ」
「それは許可出来ないわね」
こちらもサボっている訳では無いので途切れ途切れの会話になる。
それでもちゃんと返してくれる辺りが凄いなと思う。
「ダメか?」
「やるならセンター前ヒットぐらいにかっ飛ばしなさい」
「さっすがヨミさんは話がわかりますねえ!」
「回答としてはそろそろなんとかしないと潰されそうなのよね」
確かに先程からじりじりと包囲の輪も狭まって来ている様に見える。
このままだと全員揃って死に戻りなんて事態になりかねないだろう。
「それはマズいが街まで引っ張るのもなあ」
「だから奥深くまで引きずってから死に戻った方がマシだと思うの」
「他の意見は?」
「私たちに任せる。って言われたし良いんじゃない?」
「そうか。それじゃ、行ってくる」
「なるべく死なないようにね」
「職務投棄使って戦うしヘーキヘーキ」
「……防御0とか死にそうね」
「や、やめろよ!まだ死に戻った事無いんだから!」
『え……?』
周りの面々から驚愕の目つきで見られました。
死に戻ってないのってそんなに珍しいのかね。
ともあれ。
「ヒャッハー!突撃じゃー!討ち入りじゃー!野球の時間だー!」
「タテヤ君結構ストレス溜まってたんだね!そうなんだね!?」
やだなあガノンさん。決して囲まれるのが暇だったからとかそう言うのんじゃ無いですって。
ええ。決して囲まれてた間に乱戦に出来なかったのが暇だったからだとかじゃ無いですって。
さて、トス役は誰がやってくれるかな?おお、カスミさんがやってくれますか。ありがとう。
それじゃ皆さん行きますよ?盾とはこう使うのです。
確実に間違ってる気もするけど。
「タテヤのノックは継続で。他は前進しつつ前衛の内側に後衛を入れて殿に私が付くわ」
「ヨミちゃん、私とカナはどうすれば良いかな?」
「カナミとカナは手薄な所に臨機応変に入って頂戴」
「それは難しいなあ。優先は?」
「ケンヤかミカの二人ね。アデルはなんだかんだ大丈夫そうだし」
「ん、了解」
「お願いね」
他のメンバーが受けきれずに抜けて来たモンスターをカスミがハンマーを器用に使い自分の所に飛ばして来た所を盾バットを思い切り振りかぶって芯で捉えた後に目の前のモンスターの壁に叩き付ける。
小物はピッチャー返しのコースで打ち飛ばし、狼系は打ち上げてフライにする。
落下ダメージ込みで無いと充分にHPが減らないと言う事もあるのだがただ前に飛ばすだけだと暇になるので変化を付けたかったと言うのもある。
それに時たま会心の一撃が入ると飛んでいる最中に爆発四散するのである意味綺麗である。
ただ色が赤一色なのが気に入らないが。
自分が火力役を引き受けた事で他のメンバーにも大分余裕が戻って来たようだが魔法職の面々のMPが既に枯渇寸前な事に気付く。
「おーい、アリス、アリサ、ミノリ。これ飲んどけ」
「ん?何かしら。ポーション?」
「は、はい!頂きます!」
「……タテ兄、この効果って」
「今は無しで。多めに渡しとくから他にも頼む」
先生の血ポーションを適当な数アリサに渡しておく。
頬がヒクついていたがまあ効果を見たらビックリするよね。
「突っ込む筈がなんで輪の中央でトス付きノックやってるのだろうか」
「タテヤに今死なれると全滅必至だから仕方ない」
「そこまでかな?あ、砦盾とフォートレス使うの忘れてた」
『えええええ!?』
何か皆が死ににくくなる様な事を出来ないかと考えてみれば思い当たる物があった。
そして呟けば全員の叫びの後にヨミから怒られた。
「タテヤー!アンタって奴はー!」
「す、すまん!まともなパーティーなんてまだ一回しか組んだ事無かったから忘れてたんだ!」
「いいから使いなさい!」
「はひ!すみません!」
急ぎ背中の大盾のレバーをコッキング。その後フォートレスを使い防御力を上げる。
職務投棄は使えなくなったがバットがあれば攻撃出来るのが救いか。
うおおお、出でよ会心の一撃ー!
それからしばらく。
「何だろう、スイッチヒッターもどきになって来てる気がする」
「野球のスイングじゃないから……なんだろう、バドミントン?」
「んー……網張ってないからなあ。卓球に近いか?」
「両手で振り回してるし……、やっぱり棍棒?」
「カスミ、タテヤ、ちゃんと仕事してる?」
「「してるよ?」」
「そう……」
只今絶賛死地の中に放り込まれている筈なのだがどうにも緊張感を保てない。
蹴りと盾バットを連続で放ちモンスターの群れに切れ込みを入れる様にして突き進む。
自分でもギャグみたいな戦闘法だなと思うのだが効果的な為言い出しにくい。
剣と魔法の世界とは一体……うごごごご。
盾も良く分からんけどね。敵の攻撃倍額で返せるってチートスキルだと思うんです。
受けないと意味が無いんですけどね。
「ルーネ師匠、街の者から聞いた所既に北側全域に来ている様で……、どうされました?」
「モンスターの操り方が何処かで見た事あるなと思って。行こっか!」
「心当たりでもあるので?」
「うん、確か群れのトップを潰せば解けるんだけど解けた後も面倒なんだ……」
「昔話と言う奴ですか」
「年を聞いたら怒るからね」
「自分から話題に出して来るのはどうすれば良いんでしょうかね」
「んー……、セーフにしとこう!」
「ありがとうございます。それで、まあ聞くのも野暮ですがこれからどうしますか?」
「勿論街も人も守りに行く!さあ行こう!」
「承知しました。……やれやれ、今度は何と戦わされるのやら」
「強くなれるんだし良いでしょ?」
「ルーネ師匠と戦える様になるまで何年掛かりますかね?」
「100年くらい全力で鍛えたら……、なんとか?」
「……そこまでに死なない様にしたいですね」
「大丈夫大丈夫!私以上なんて早々居ないから!」
「ルーネ師匠、まさかその方達とも戦わせようとはしてませんよね?」
「あ、あはは……」
「……今日は、飯抜きの刑にします」
「そ、そんなあああああ!」
『なんか凄いハイテンションなNPCが居るんだけど……』




