102 寝起きは激痛と共に
……タテヤ、おーい、タテヤ。起きなさい!
あーもう、起きないわね……。
魔王様起きた~?ヨミちゃん。
何か自分に向けられた声が聞こえる。
自分の名前は『■■■■』なので別の人の事だろう。
そう思い顔を顰めながら声の方向から顔を背ける。
……これはやっても良いのかしらね?
ヨミちゃん!巻いて巻いて!もう来てる来てる!
先輩!早く起きて下さい!出番ですって!
やけに周囲も騒がしい。何だ一体。
うん?……ああ、ゲーム内で寝てたんだったか。
そうか、それなら起きなきゃならんな……。
「それじゃ、起こすわよ、っと!」
「ぐああああああああああああ!」
『うわあ、キャメルクラッチ食らってる……』
唐突に背に走る激痛に強制的に意識を覚醒させられる。
声の感じからしてヨミがうつ伏せになっている自分の腰の辺りに乗ってこちらの腕の下に両足を入れ倒れられない様にしつつこちらの顎の下で両手を組んだ後引っ張り上げる様に思い切りのけぞっていた事が周囲からの説明でわかった。
説明自体は解放された後に活け締めにされた魚の様な状態で聞いた。
背骨が……背骨が……。
ぐったりしていると妙に笑顔なヨミが目に映る。
「起きたかしら」
「なあヨミさんや、まともな起こし方は期待しちゃいかんのか……?」
「平常時なら優しく起こすわよ?」
「今は?」
「戦時」
「オーケーわかった。何時間経ってる?」
「お昼前って所」
「大分寝てたな。戦況は?」
「戦ってくれてた人達は疲れからか目が死んだような精神状態になってるわね」
その言葉を言うと共にヨミが向けた視線の先を見てみれば無言でモンスターと戦闘を続けるプレイヤー達が見える。能面の様になっていた彼らはヨミとこちらを見止めると一気に目に生気が戻って行き、動きも機敏になって行く。
時折嘆きの声も聞こえていたのだが今度はこちらに対する怨嗟の声に変って行くのはどうかと思う。
「とりあえず、行くか。今日のメニューは?」
「昨日のコースに加えてボス熊狩りが加わる感じかしらね」
「メンバーは?」
「全員北側投入」
「よし。それじゃ、行きますか」
「ええ。それじゃ、行かないと」
よっこらせ、と立ち上がり軽く肩を回しながら装備を整え戦場に歩き出す。
寝起きから厄介な場面に遭遇したもんだ。
「それにしてもなあ」
「何?」
「夫婦扱いはどうなんだ?」
「私は気に入ってるけど?」
「え?」
何か聞き流せないコメントを貰った様な気がして思わずヨミを見つめる。
不思議そうな顔をされるだけだったので聞く事は諦めた。
「……ま、後で聞けば良いか」
皆で北側に突き進み小型のモンスターを狩り続けて行く。
今はヨミと二人で削っていた所に姉妹が合流して来た形だ。
「よし!これから俺は兎千本ノックを行う!」
「タテ兄、周囲に千匹も居ないけど」
「アリス、ノックはノックでも千本ノックは受ける側の練習だとか実際には百本ぐらいだとか言っちゃダメなんだからね?」
「アリサ……、お前、冗談が通じないって言われるだろ?」
「タテ兄、アリサは冗談が通じにくいだけで意味はわかってるから」
「うっ、ご、ごめんなさい……」
戦場の中ではあるがしばし周囲の流れを見つつほんの少し休憩を挟む。
その中で思い付いた事を言ってみればアリサからボコボコにされました。
まあ盾バットは使うんですけどね。
「雑談も良いけどそっちに結構流れてるわよ?」
「え?……わー、多いなー」
「魔法使いには、辛い……」
「杖で殴るとか何処の肉体系魔術師よ……」
ヨミが歩く先から逃げる様にして描く範囲の外を通って来るモンスターの群れ。
それに対して盾バットを振り回し、時たま即死刀で斬りつけ、抜けようとする奴には蹴りを入れて前に飛ばし戻す。
アリサとアリスも基本的には撃破を目指さずに足止めや停滞を主軸に行動してくれている。
ただそれでもMP管理はカツカツな様で結構殴ってたりする。
数、多いからね……。
ただ自分とヨミの二人だけでも凄まじい勢いで地面ごと削り取って行くのがサポートによって更に加速しているので二人にはもう少し頑張ってもらおうと思う。
「さて。大分削ったが、どうだろうな」
「段々モンスターが手強くなってる気がするんだけど」
「ああ、兎が打ち返すのに丁度いい早さになって来たな」
「一人だけ野球やってない?」
「球が大きいから楽なんだよなあ」
野球ね……と言うアリサの呟きを耳で捉える。
正式名称盾棍棒だけど呼び方バットだしな。
「それとそろそろこの辺り一帯削り切るわよ」
「うーい」
ともあれ先程から調整しながらHPを削っておいたモンスターの群れを挑発を使い集めた所に姉妹の範囲魔法をぶつけて貰いHPを吹き飛ばす。
明らかに俺へのダメージ考慮してない威力してるけどこれは信頼されてるからなのだろうか。
連係プレーは難しいですね。
撃った辺りで二人はMPが切れたので一旦後方に下がって行く。
二人とも真剣に近接スキルを覚えるかどうかを話し合っていたのだが必要かね?
「あの二人に付き合うには必要よね……」と言っていたが果たしてどうだろうか。
別に魔法使い一筋でも良いと思うんだけどなあ。
「せいやっ!」
「おおおっ!」
「ええいっ!」
「……ん」
「えいっ、やっ、やぁっ!」
姉妹が去ってからしばらく。
今度はライアン、ガノン、ケンヤ、カスミ、カナの五人と共に戦っている。
近接主体の面々なので遠慮なく熊に挑んでいるが結構、いやかなり楽だ。
自分が受けた所で斬ったり、斬ったり、斬ったり、打撃したり、斬った後に燃やしたり。
うん、酷い。でもこれが当たり前な攻略法なのよね。
ヨミの場合は熊が高速で剣山になっていくのをよく見かける。
何本直剣作ってもらったんですかね……?
かと思えば柄頭の部分に紐通しの穴が開いており括り付けられた縄を引っ張って回収していた。
流石にゲーム内とは言えばら撒きは出来なかったか……。
「いやー、やっぱりタテヤ君とヨミちゃんが居るだけで効率が段違いだね!」
「先輩方の強さって本当に始めたばかりの人達なんですかね……?」
「皆、強い、ね……。追いつくの、大変……」
「カナ、私たちを基準にしたらダメだと思う」
「タテヤ君とヨミ嬢はその中でも異質だとは思うけどね」
最早流れ作業の如く熊を狩って行く中で余裕が出て来たのか雑談もし始める面々。
そんな彼らを見て周りが若干引いているが気付いているのだろうか。
多分気付かれてたらこっちに色々言ってくるだろうな。沈黙は大事。
「それで、さっきから森の奥の方に突っ走ってるが目的地は?」
「あともう少しって所かしら」
熊の鼻っ面に盾バットを叩き込み怯ませた所でライアン達に任せてヨミの所に向かう。
再び剣山と化している熊を即死刀で倒す。
「そうか、皆にもあの光景を見せられるのか」
「どんなの?」
「俺が六日目に見た物だよ」
「……出来れば見たく無かったわね」
動画の内容を思い出したのだろう。
少しばかり足の歩みが遅くなる。
「でも狩らないと街が、なあ」
「ここでトチって元のサーバーに影響があったら笑えないわね」
「ケティーさんも街で見かけたし怖いんだよなあ……」
「ホントに数十年前なのね、今って」
「元のサーバーで起こった事の再現なのかも知れないな」
それでも守らないとね、と言ってヨミはまた前に突き進む。
眺めていると肩を叩かれ後ろを見れば後ろに居た姉妹や忍者、カナミ達も追いついて来たようだ。
数の暴力への対応は一人では辛いが人数が多い方が負担は楽になる。
後は耐えて耐えて倒し切ればこちらの勝ちだ。
他にも隠し要素があると困るのだが……。
それは他の人に任せよう。
さて、と。
いっちょ、やってやりますか。
気付けば百話を越えてました。
未だにブックマークや評価して下さる方が増えてるのを見て毎日テンションを上げています。
更新の基本は一日一話に落ち着きそうです。
いつもありがとうございます。
次回! うちあーげーはーなーびー♪




