10 師匠と先生と昔話
…。
……。
……はっ。
少し意識が飛んでいたようだ。数分ぐらい?
一応は自分の中で消化出来た、と思う。
それでも目の前のメニューから見えるストレージ内の素材を見るたびに頬が引き攣る。
何故こんな物を手に入れているのかと。
話を聞いていれば戦闘は避けただろうかと。
だが仕方が無いだろう。
登場の仕方にこそ警戒したものの溌溂とした性格の美人さんなのだ。
しかも色々と手伝ってくれ、師匠の知り合い、しかも師匠の師匠とくればもう疑いはすまい。
でもとてつもない爆弾持ってるとは思いませんやん?
普通の知り合いやと思ったんや……。
まさか加護を貰うとは思って無かった。
しかもこの加護外せません。
加護ですからね。
外せたら困りますもんね。
どうしよう。
とりあえずダンガロフ師匠とルーネ先生に話を聞かないと。
「あの、ルーネ先生の事を聞いても良いですか?」
自分が意識を飛ばしていた間にも話していたようで師匠と先生が同時に頷く。
「ワシの中では師匠が普通の物を渡すと思っていたのでの。すまんな」
「折角だし一番良いのあげようと思って……。迷惑だった?」
「いえ、良いものを貰い過ぎてどう反応すれば良いのかなと」
人前に出せないエライもん貰ってるんですけど。
「やっぱり困ってるじゃないのー!」
「いや、その、弓矢を避けただけでこれだけ貰うのもなあって!」
貰うとは思わんよなあ!
「ルーネ師匠……」
やっぱりか、と言った感じの師匠。ああ…他にもやってるんですね……。
「と、とりあえず話をお願いします!」
「えーっと、どっちから話そうかしら?」
「ワシから話した方が良いでしょうな」
「そうねー。私との馴れ初めはどうだった?」
「何故生き延びれたのか思い出せませんな」
「正解は覚えてるでしょ?」
「あの出来事のせいで色々イメージが崩れましたからのう」
そう言って笑ってから師匠は話し始めてくれた。
色んな通り名を作る切っ掛けになった話を。
「ワシは若い頃は騎士でな。自分を鍛える為に行脚修行をしておった」
「色々な村や町、都市を回り強敵と戦い、人を助け、そしてまた鍛えた」
「その頃はまだ情勢なども落ち着いておったから出来た事じゃったの」
「そうして回り歩いて行く内にとある村で奇妙な話を聞いた」
「その村は龍が居たとされる山の麓にあり時折山の方に女が見えると言ったものだった」
「その山はモンスターがけして少なくは無い、出来れば保護してもらえないかと言われた」
「ワシは修行に人助けも入っておったし女と言うのもありその願いを受けた」
「しかし女が見えねば追いかけようもないとワシは山に入った」
「しばらく山を彷徨い歩いているとその女を見つけた」
「奥へ奥へと進む女性を追いかける内にその姿を岸壁の前で見失った」
「これ幸いと近付いていったんじゃが女の姿が見えない」
「これはどうしたもんかと周りを見回すと人ひとりが通れる空洞があった」
「先ほどの女はここに入って行ったのだろうと中りをつけてワシも入って行った」
「その洞窟はかなり長く、明かりは微かに光る苔のようなモノだった」
「しばらく歩くと前方に光が見えた。洞窟の出口じゃった」
「そこを出ると巨大な空洞に出た。そしてその中央にあの女性がおった」
そこまで話すと師匠がルーネさんの方を向く。
ルーネさんは笑みを作る。
「そこからは私も話さないとね?」
「お願いしますぞ」
「最初は『なんだ?ニンゲンか?どうやってここに入った』って言ったかしら?」
「いえ、『あらやだ、ここまで来ちゃったのかしら?』でした」
「え、先生って昔からその喋り方だったんですか?」
「年の話は先生にはしちゃダメかなー」
「ごめんなさい」
「続けるぞ。そしてワシがその返答に疑いを持ちつつも話しかけたんじゃが」
『失礼、貴女は○○村で噂されていた山を彷徨う女性ですか?』
『あらやだ、人?付いて来ちゃったの?』
『…?人、とは』
『あー、一切知らないままここまで来ちゃったのか』
『それは一体…』
『龍が住む山って噂でしょ?この山』
『その噂を聞き貴女が危険な様であれば保護するようにと言われ来たのですが…』
『その心配は無いかな。だって私がその龍だし』
『は? いや、まさか。この空洞はもしや……』
『そ。私の寝床』
『では、まさか、貴女は!?』
『「龍の前に立つ勇者には試練と褒美を与えるべし」ってね。頑張って生き残ってね?』
『いきなり何を――っ!』
そこからの戦闘はあまりにも長かったらしく多少は省きながらになった。
「ルーネ師匠が内容も言わずにいきなり殴り掛かって来てのう」
「生き残るのが試練だったから!」
「その姿の全力を食らって無事で居られる人族は居ませんからの?」
「でもダンガロフちゃん最初に剣折った後ずっと盾で耐えてたじゃない」
「あの剣高かったんですがのう…」
試練の内容はルーネ先生の攻撃を耐えると言うものだった。
龍の膂力から放たれる直撃すれば爆散する攻撃だが。
師匠はいきなり殴り掛かって来たルーネ先生をどうにか避けて。
即座に右手で腰の剣を抜き左手で盾を構えた。
そして剣で斬りかかるもルーネ先生の拳が当たった瞬間へし折れた。
そこで折れた剣を投げ捨ててからが地獄だったそうだ。
カウンターはまだ取っていなかったらしく守るだけになったらしい。
龍に対して守れるだけ凄いと思いますが。
「ガードのタイミングを間違えるとHPバーがごっそり持って行かれての…」
「でも段々対応の速度が上がったのは驚いたわよ?」
「必死でしたから」
「あの戦いは物語になってもおかしく無いと思うんだけどなー」
「しかし攻撃も出来ず耐えただけですからの」
「えっと、師匠、先生。どのくらい戦っていたんですか?」
「どのくらいだっけ?」
「昼過ぎに始めて夕方くらいに終わったような感覚がありましたな」
「あー、思い出した。段々面白くなってヒートアップしたんだった」
「受ける度に減っていくワシの高級ポーション……」
「師匠!気をしっかり持って下さい!」
「本当はね?一発防いだ時点で良いかなとは思ったんだけど……」
「『どこまで耐えてくれるかを知りたくなった』と言う理由で続けられたと知った時のワシの脱力感は凄まじかった」
「ルーネ先生……」
「だって久しぶりに耐えてくれる人間が来たんだもの!仕方無いじゃない!」
「まあ後で話しましょう。戦闘が終わった後はどうなったので?」
「試練が終わった後に褒美の話になったんじゃが今の世界の話をすれば褒美を増やしてくれると言うので話す事になった」
「長い事寝てたからダンガロフちゃんの話は面白かったわ~」
「そして褒美の話になった所で古代龍と知らされての。人が歯向かってはいかんモノの前に立っていたとは思わなかった」
「古代龍だと何かマズイので?まあ龍ならどれもマズイと言うのはわかるのですが」
「龍種の最上位じゃぞ?喧嘩を売った種族が一つ滅びたと伝承に記されておる。そんな相手といきなりの死合いじゃぞ?」
「あっ……」
「まさか魔族を壊滅させた時の話が残ってるとは思わなかったわね」
「え?ルーネ先生魔族って一体」
「龍を操ろうとして来たからちょっと、ね?」
「流れはわかるんですがちょっとで済んだんですか?」
「何年掛かったかしらね?」
「それってちょっとなんですかね?」
「龍だもの」
「さいですか」
「まあ一応程ほどにはしておいたんだけどね?」
滅びる寸前にはなってそうですが。
「ワシも半信半疑じゃったのですがまさか伝説と話しているとは思わなかったのじゃ。で褒美の話になったのじゃが」
「ダンガロフちゃんの時は私の加護あげようとしたら凄い勢いで断られたから【龍の友】と宝石類だったかな」
「それでも大分驚愕しましたぞ?」
「迷惑掛けた分もあったからね!」
「ルーネ師匠…。まあそれで今回も似たような物を渡すと思ったんじゃがのう」
「自分の場合何も知らされないまま始まって終わったらこの様なんですが」
「……幸運に恵まれたのう」
「師匠、目を逸らさないで下さいよ……」
「まあ渡しちゃったし有効に使ってよ!」
「が、頑張ります?」
「それでまあ褒美はおいおい自分でどうにかせい」
「はい」
投げられた!?
「それで貰った後ワシは村人に話さない事を誓ってから去ろうとしたんじゃが」
「暇だったから着いて行く事にしたの!」
「え?」