夕食に誘われたら個室
俺も誘われてみたい
「おーい愛理、待ったー?」
乙女の杞憂を無視するかのように、成瀬が深川に声をかけた。
「いや、ちっとも待ってないよ?」そう言って深川は微笑む。本当は30分前から待っていた。というか、普通このやり取りは立場が逆なのではないだろうか?
「そっか、なら良かった。じゃあ早速食べに行きますか。」
「うん!」
足取り軽く、2人は歩いていく。
深川愛理は、今この瞬間喜びを感じていた。目の前のテーブルにはたくさんの種類の料理が並び、さらには成瀬とさかと向かい合って食事をとっている。しかも個室だった。ウエイターは料理を運び終えて、そうそうに出て行ってしまったし、つまり、2人きりだ。年頃の男女が1室で食事、いやでも緊張してしまう。でも、いくら有頂天になっていても気になることもある。
「お金とか大丈夫?ここって結構高いんじゃないの?」
「まあ割とお高いかな。でも美味しいよ?今日ボーナス日だったから気にしないで。どうせ1人で食べても寂しいだけだし…もうこの店、3ヶ月連続お一人様できてたから。」
「ふーん。一緒に来てくれる人とかいなかったの?んっと、その…彼女とか?」さりげなく深川は探りを入れてみる。まさかとさかにそんな甲斐性があるはず無い…とは思うが、同時に、とさかみたいなカッコいい人に彼女が居ないってことあるの?とも思える。深川は眼科に行った方がいいかもしれない。
「残念ながらいないかなー、できたこともないし。」
深川の顔がパアッと明るくなった。
「だよね!いないよね!いるはずないよ!!」深川の一言が成瀬の心をえぐる。
「そんなハッキリ言わなくても……」
成瀬が心なしか小さくなった。
(わかってた、わかっていたんだよもぅ〜とさかに彼女がいるわけないってことくらい。)
けれど、女子高生深川愛理は手を抜かない。とさかに限ってそれはない、と思いながらも確認する。
「ごめんごめん、そんなに落ち込まないでよ。ねぇとさか?それじゃあ気になってる人とかはいないの?」
「なんか愛理、今日疑問形ばっかりだね。」
「ねえ教えてよぉ、どうせいないんでしょー?」
成瀬が珍しく長考する。成瀬自身としては答えが出ているのだが、どう伝えればいいか悩んでいるのだ。5分ほど考えて、その間にスープを飲み干して、ようやっと重い口を開いた。
「あーうん、そりゃあ俺もハタチの健康な男なわけだから……当然ね?」
世界が凍った。
「へー、それってダレ?」
明日も頑張ります