社会人(主人公)
暖かくなってきましたね。
「あっつ。」
何気なく呟いた言葉は、足元一面に広がる砂に吸い込まれた。
気温は36℃。立派な真夏日である。
後ろ180°は普段の街並み、前180°は何もない砂の世界。ここが彼の職場。
そこに、【成瀬とさか】はいた。血液型はBで獅子座の20歳だ。
職業は【調律師】…国家公務員であり、そのライセンス取得の合格率は極めて低く、1%を切っている。
調律師になるのでさえ、相当の努力とセンスを要する。しかし、成瀬とさかはプロの調律師の中で間違いなく最強の部類に入る実力の持ち主だった。証拠として普通、調律師は3人1組で業務にあたるが、成瀬は1人でも余裕を持て余している。ちょっとムカつく。
本日の仕事が始まってから2時間、
「帰りたい、せめてクーラー、いや扇風機でもいいから欲しい。あ、でもやっぱ…。」
成瀬は独り言を言い続けていた。
「え、ちょっと待って待って。俺もしかしてまた独り言ずっと言ってた?つーか今も言ってない!?うわぁー20歳の男の趣味が独り言ってどうなんだ、女性的にはポイント高いのか?なわけないな…」
仕事がら1人でいる時間が長いためか、成瀬独り言の才能が開花しつつあった。本人はいたって真剣に悩んでいるが、正直どうでもいい。
(というかマジで暑い!次はまだ開かないのかよ、こまこま来るんじゃなくて全部同じタイミングで来ればいいのに…。このままじゃずっと独り言言うようになっちまうぞ?やっぱり所長に頼んで、暇なとき会話して貰おうかな…)
そうとうイライラしているのか、成瀬は落ち着きなくあたりを歩いていた。
明日も投稿しようと思います。