金剛石は意外と簡単に砕ける
ボロアパートの4畳半で若者が2人ゴロゴロしている。
「働きたくないよ~。」
「ていうか、働いてないじゃん。これまできちんとした定職に就いたことないでしょ?」
「バイトはずっとやってたって。」
「風がちょっとだけ強いってだけでバイトを休んでたよ。月に10日くらいしか行ってなかったろ?」
「だって殴られるんだもん。」
「仕方がないだろ! 『殴られ屋』のバイトなんだから。」
「結構、女性のほうが打撃力があったりするんだよね。意外と体重は関係なく。」
「全然、関係ないだろ、打撃力なんて。」
「あるでしょうに。殴られ屋のバイトなんだから。」
「お前にはないだろ、身体を固くできる特殊能力があるんだから。」
「・・・可愛い女の子がお客さんのときは、能力を使わないから。」
「それは何? 趣味?」
「うん。趣味!」
「そうなのか、だったら今日も駅前に行って殴られて来いよ。可愛い女の子が来るかもしれないぞ。」
「やだよ。だって2月だぜ。」
「1月のときにも、だって1月だからとかいう訳のわからない理由でサボってたけど、今月もその言い訳か! エンドレスに使うのか?」
「1月のときでさえ、寒さが限界だったのに、2月だよ。何といっても1年で一番、平均気温が低いんだから。」
「体が固くなっても寒さは防げないのか?」
「むしろ血流の流れが悪くなるから、余計に寒いね。」
「それはそれは。・・・不便な能力だな。」
「本当に不便だよ、何でこんな能力を俺だけ・・・。」
「お前さ、寒いんだったらもっと厚着しろよ。変なレオタードしか着てないから寒いんだよ、絶対。」
「変なレオタード? 今、変なレオタードって言った?」
「言ったよ。変なレオタードだもの。」
「あれは我が一族に伝わるバトルスーツなんだぞ、割と由緒正しい。」
「でもお前、戦ってないだろ?」
「いや、」
「いや、何だよ?」
「いや、寒さと戦うために。」
「色々なことを見失ってんじゃねーか! 寒さには完全に負けてるし。」
ゴロゴロ状態は継続している。
「ちなみに遺伝なの? その体が固くなるっていう特殊能力は?」
「うちの一族の遺伝だね。みんな持ってる特殊能力の種類が違うけど。」
「どっかのハリウッドアニメみたいな話だな。」
「みんなはもっと役に立つ能力なんだよ。何で俺だけ。」
「まあがんばれって。」
「あっ! 今、がんばれって言ったでしょ?」
「言ったけど、何?」
「知らないのか! うつ病の人間にがんばれってのは一番言ってはいけないNGワード。」
「お前、うつ病なのか?」
「いや。全然!」
「じゃあいいじゃん! 余計な心配させやがって。」
「違うの! このストレス社会、どこにうつ病の人がいるかわかんないから、不用意にがんばれとか他人に言わない方がいいってことを言いたかったの!」
「それはそれはすみませんでした! 今後は注意しますので。」
「わかればいいんですよ。じゃあ、これから一眠りするから。」
「ちょっと待て! まだ朝の11時だぞ。」