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アイアンナックル/リマスター  作者: 高柳 総一郎
殲滅武装教会(デストロイ・アームド・シスターズ)
32/57

グランド・セフト・オート

 武装霊柩車が夜の街をゆっくりと走る。この街にも、死者を悼む人々がいる。だが、その中に末端価格四百万ドルの合法ハーブが詰まっていることなど、誰も気づかないだろう。

 車はそのまま誰にも省みられることなく、インターチェンジを通り、オールドハイトハイウェイへ。その後ろを、つかず離れずでBMWX5が追いかける。

「車の運転は問題無いよ。荒事とか、なにか特定のことをする時に砂時計を流さなくちゃいけないんだ」

 レオは車中の無言に耐えかねたのか、自分の話を始めた。

「でも砂時計が流れてる間はホント大丈夫。なんだってできるさ」

「くだらね」

 ぷかあ、と鉄腕は眠そうに紫煙を吐き出す。レオの『問題』はともかくとして、彼女らがやろうとしているのはシンプルな強盗だ。グランド・セフト・オート(自動車強盗)。やり方だって大したことではない。車をぶつける。因縁つけて降ろす。相手をぶちのめす。車を頂く。

 ただ、あの天衝くような巨人──シスターではありそうだが──は要注意だ。喧嘩に持ち込んで勝つ、シンプルだが骨は折れる──いろんな意味で。

「ハーブについちゃ、アタシの持ってるルートで安全に金に変えられる。そのまま売り飛ばす場合の十分の一だがな。『足はつかない』」

 鉄腕はランス警部の言葉を、そっくりそのまま返す。彼がどれほどの利益を得るのかはわからないが、鉄腕にとってはどうでもいいことだ。

 ランス警部はビジネスパートナーとしての鉄腕を絶対に見捨てない。娘を殺した女──それを始末するなら自分の手で、と考えているからだ。裏返せば、鉄腕に気兼ねなく命令できるチケットを無限に持っているとも言える。

 その償いだとは思わないが、因縁は濃く残っている。詮索は不要。それが二人の関係であり、ビジネスだ。

「で、どこでやる? ノースイースト口を出れば、空港はそんなに離れてない」

「ま、止めるとすればそこだな」

 鉄腕はふと窓の外へ目をやる。時速七十マイルで景色が吹っ飛んでいく。綺羅星のごとく深夜でも輝く摩天楼。スポットライトのようにハイウェイを照らし、標識も彼方へ押し戻される。

 他に車は走っていない。三十分も飛ばせば、ノースイーストだろう。

「……妙に空いてるな」

「走りやすいね。夜中だからかな?」

 ライト。標識──三十四マイルでノースイースト──ライト。ライト。ライトの上に人影。ライトの上に人影。

 鉄腕は目を擦る。見間違えだと思ったのだ。サイドミラーを確認する。人影。それも数人。信じられぬ速度で走る人影が、BMWX5に追いすがっている!

「冗談だろ、おい!」

 後ろを向いた一瞬で、影は数を増す。よく見るとそれは、片手に銃剣バヨネットを持ち、猛然と迫る修道女達シスターズ

「飛ばせ!」

「何なのあれ!?」

「アタシが知るかよ! 死にたくなきゃアクセル踏み抜け! 追いつかれる!」

 神の仕業? そんなバカなことはありえない。よく見ると、彼女らの足元で火花が散り、炎で出来たラインが閃光となって消えていく。なんらかの駆動システムが、彼女らを超常の追跡者たらしめているのだ!

「運転変わって!」

 レオは砂時計を回転させると、懐からマイクロウージーを取り出す。拡張ストックを装着し、窓から身を乗り出すと躊躇なくトリガーを絞る。死の流星がハイウェイを横切り、シスターズが華麗にターンを決める。当たらない。

「クソッタレ。離されてくぞ」

 まるで見越していたかのように、霊柩車が凄まじい勢いで加速。見えなくなった──いや、ハイウェイに人影。スポットライトを浴びる長身巨躯のその姿は、なんと次の瞬間にはハイウェイを照らすライトを折っていた! ゆく道は完全に塞がれた。やったのは怪力のあのシスターだ!

 衝突──激しく揺れるBMWX5──白む視界──炸裂する轟音──。

 見事に事故を起こした車から、必死の思いで鉄腕はなんとか這い出す。霊柩車の影はすでに見えない。

「汝に問います、哀れな子羊」

 かしずき、傍らに銃剣を置いて、鉄腕の周りでシスター達は祈る。ひときわ巨躯の女が祈りの聖句らしい言葉を紡ぐ。

「神は我らに試練を与えたもうた。我らは試練を拒まず、ただ討ち果たすのみ。汝、我らの『試練なりや?』」

 それはまるで宣言のようだった。シスター達が、古の騎士達のごとく銃剣を構え、自分の身体の前、地面に突き立てた。首を刎ねる。その意思の現れのように。

 鉄腕は地面に這いつくばり、ただただ聖騎士達を見上げるばかりだ。目的はすでに知られている。まさか許してもらえはしないだろう。

 その時であった。ころころと車の残骸から何かが転がってきた。変わった砂時計だ。通常平らなはずの天板がアーチを描いていて、まるでだるま人形のようで──。砂時計が時を刻み始める。マズルフラッシュを瞬かせ、拳銃弾が飛ぶ! シスターズが白い線となって、避けるように散る。レオがP30Lを両手でがっちりとホールドさせながら、9mmパラベラム弾をなおも発射! 額からは血が流れてはいるが、その眼光は鋭い。

「逃げろ!」

「神の審判を愚弄するか、邪教徒!」

 シスター・アリエッタが、くすんだブルーの長い前髪をかきあげ、豊満な胸に下げたロザリオのチェーンを引き千切ると、躊躇なくそれを投げた。危険を察知しわずかに首を反らしたレオの頬を、ナイフで切りつけたような傷を残しロザリオが通過! BMWの車体に突き刺さる!

「相手はこっちだぜ、シスター!」

 ぐるりと地面の上で身体を回転させ、鉄腕は軽やかにその場に立ち、巨人へのボクシングを挑む。左、右、左、右! 容赦の無いパンチの嵐! 通常人ならば、粗挽きミンチ肉は免れぬ必殺のラッシュである。しかし!

「私をあまり怒らせないことです」

 怪しく渦巻く赤い瞳がらんらんと輝き、鉄腕の頭を大きな掌で掴む。ミシミシと頭蓋が軋み、鉄腕は歯を食いしばる。負けじと自分の頭を掴む腕を掴む。まるで巨大な鉄鋼でも掴んでいるかのようだ。

「怒らせるとどうなる? 神はアタシを罰してくださるか?」

「その必要はありません。私自ら、神の慈悲の届かぬ場所へ送り届けましょう」



 一方レオはバヨネットを携えたシスターズを相手取り、一人孤軍奮闘していた。彼の腕は並ではない。ツー・ショット・ワン・キルの精神を持って、対峙した相手は必ず殺す。機械音と炎の線を残して超駆動を見せるシスターズとて、それは例外ではなかった。飛びかかり斬りつけようとするシスターズの剣を、クロスした腕で受け止め、そのまま絡め取り、ジュードーの技のごとくボディ・スラム。そのままトリガーを引き射殺!

 スニーカーを踏みしめ、さらに別のシスターズの足を撃つ。そして崩れ落ちたのを狙い、頭を撃ち抜く! もうそうして彼は、四人はシスターズを片付けている。燃え上がる愛車を背に、せわしなく銃口を虚空へと向け、新たな敵を探す。視界の端に、頭をつかまれ危機に陥っている鉄腕の姿。銃口をひときわ背の高いシスターに向ける。チェックメイト。砂時計の残り時間は僅か。その時であった。

 なにかずるりと自分の身体を通り抜けたような、ゾッとする悪寒が彼を襲った。血塗れのバヨネットの剣先が、自らの脇腹を通り抜けていた。

 彼は見た。駆動システムの静音モーターを鳴らしながら、新手と共に立ち上がる、射殺したはずのシスターズの姿を。死したはずの肉塊が、再び殺意という名の意志をレオに向け、光なき目を向ける光景を!

「我ら神が試練を与えたもうた殲滅武装教会なり。其は我ら無限の試練を達するまで、神は我らに無限の生を与えるものなり」

 フード付きの修道服。それと対象的に、生足を夜風に晒し、外骨格ともとれるような駆動システム──。死したはずのシスターズからも同じものが晒され、なおも意思を持つかのごとく動いている。破れた袖から見える腕にも、絡みつくように装備された外骨格が、覗いていた。

「なんてことだ。……死体を外骨格でむりやり動かすなんて」

 じわりと血が滲む脇腹を抑えながら、銃口を向ける先を探す。敵が多すぎる。

「だからなんでェ。罰当たりってかァ?」

 いつの間にか武装霊柩車が戻ってきており、その屋根に登っている者がいた。栗色のウェーブがかった髪。端正な、という言葉を直接こねて顔に仕立て上げたような顔。カソックコートを翻した神父が一人立っている。不遜な笑みを浮かべたまま。

「シスターズ! その辺にしておいてくれ。俺ァ神に仕えてる。まだ人殺しはうまくねェ」

 シスターズが身体をピタリと止める。レオはそれを見て、即座に神父へと銃口を向ける。目標の合法ハーブはすぐそこだ。ただ、後ろには剣を携えた狂信者たち。そして、さらに後ろでは、ネックハンギングに捉えられ、意識を飛ばしかけている鉄腕の姿!

「アリエッタ! あんたもだ。試練とは乗り越えるものであって、潰すもんじゃねェ」

 その言葉に従うように、アリエッタは鉄腕の首を掴んだまま、アスファルトに身体を叩きつけた! 肺が押しつぶされ、中の空気がどろりと液状になって溶け出し、口から流れ出たような感覚。まともな声も出ていない。

「さあて、どうするね。俺はなんだって構わねェ。ここで死ぬまでやるのも、参ったと降参するのも自由だぜ」

 時計の砂が落ちきる。レオは戦意を無くし、銃を落とす。彼の限界はそこまでだ。急速に戦意が失われ、代わって不安だけが増大していく。レオ・ザ・テンミニッツはそういう男だった。パートタイム傭兵に、継戦能力は期待してはいけないのだ。

 彼は力なく笑い、ゆっくりと手を挙げた。痛みをこらえながら、生きるために。

「……こ、殺さないでもらえるかな……?」

 神父は目を閉じ、額に手を当て笑みを漏らす。笑う、笑う。

「結構だ。正直に懺悔する者だけが救われる──。ただ、まだ付き合ってもらうぜェ。審判はまだ下っちゃいねェんでな」

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