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アイアンナックル/リマスター  作者: 高柳 総一郎
姿なき猟犬ディアナ
28/57

時代遅れの猟犬

 二週間が経った。

 それに気づいたのは、その日たまたま遊びに来ていたミス・フェイスレスであった。彼女は他人の視線に敏感だ。彼女の過去は、そうさせるだけのものだったからだ。

 強い雨が窓の外を打つ。霧の街、オールドハイトにはよくある風景だ。こんな日は、家で静かにコーヒーでも飲むのが一番だろうと、フェイがケーキと一緒にやってきていたのだった。

「この前も感じたんだけど、あなたストーカーされてない?」

「非公式のファンがいるって意味なら数えたことはないな」

「そういう意味じゃないわ。……見張られてないかって意味」

 鉄腕はコーヒーを口に運び、天井のシミを仰ぎ見ながらファンのことについて考えた。

「トラブルの種はたくさん持ってるんでね。種類はどれなのか分からなくなった」

「大したスターね」

「アタシにはジャスティン・ビーバーも敵わないさ」

「今も見られてるの?」

 クリスがどこかのSFオタクとやっていたTRPGセッションを切りながら言った。

「プライバシーは誰にだって必要なんだよ。ある程度はね」

「そうだな。リアリティショーに出演したつもりもないし」

 鉄腕はおもむろに立ち上がる。窓の外を見ながら、咥えていた葉巻を吸う。ちりちりと炎が上がり、先が灰へと還る。

「フェイ、あんたは先に帰ったほうがいい。家で鍋が吹きこぼれちゃいないか?」

「今夜は外食のつもりなの」

「そーお、じゃキッチンの心配をするつもりもないと」

「目的が分からない相手なら、頭数が多いほうがいいわ」

 フェイはゆっくりと立ち上がり、鋼鉄パンプスを直し、フリル付きのピンク色のツバ広帽を頭に載せる。

 ノック音がする。

 鉄腕も、クリスも、そしてフェイも答えない。ただ戦闘態勢を整え、扉を睨みつけるばかりだ。

「……クソ野郎のくせに、マナーはわきまえてるのね」

 フェイがふと呟く。なおもノック音が続く。

「どうしてクソ野郎だって言える?」

「人のプライバシーは尊重されるべきだからよ。人の生活を覗き見て楽しんでいるだなんて、クズのやることだもの」

「悪かったな、アメリカン・ビンテージが好きで……今度からは見ないよ」

 返事代わりに銃声! 四十四口径の弾丸が数発、ドアノブを砕き、扉を蹴り倒すものあり。

 咄嗟にクリスが機転を効かせ、部屋の電気を全て切った。逆光。突如轟く稲光。濡れそぼった人影。右手にはオートマグ。左手には、テープ・レコーダー。

 咄嗟に物陰に身を隠した鉄腕は、そばにあったクリスタル製灰皿を投げるが、人影は闇に溶けるように消える。並の反射神経ではない。

「なっ!?」

 直後、鉄腕の口内にオートマグのバレルが突っ込まれていた。濡れそぼった金髪。素っ気のない黒スーツ。爛々と不気味に輝くアーモンド色の瞳。左手に握ったカセットテープが、ブツブツ途切れながら、出来損ないの自己紹介を始めた。

『どうも、わた、しの名、前は、ディ、ANAで、す』

挿絵(By みてみん)

 合成音声をむりやり展開したような感情のないセリフの最中でも、鉄腕はオートマグのバレルをどかそうと叩く。

 むりやり吐き出されたバレルから、四十四口径マグナム弾が暴発し絨毯をえぐる。

 素早く立ち上がると、直後フェイが蹴って打ち出した缶ビールが影を貫いた。否、手応えはない。影を貫くように放った缶が貫通し、壁に突き刺さる!

 何かがやばい。変だ。

 確証は何もなかったが、鉄腕はカンでそれを察知すると、クリスの首根っこを引っ掴むと、フェイに叫ぶ!

「何かヤバい! 逃げろ!」

 鉄腕は窓を叩き割ると、クリスを抱えて雨の中に身を投げ出し、むりやり落下。運悪く止まっていた害獣駆除のバンの上に落下しバン大破!

 しかし、鉄腕やクリスに怪我は無い。直接地面に叩きつけられるよりは、まだマシと言うレベルだが、とにかく生き残ったのだ。

 その後すぐに、鋼鉄パンプスを高らかに響かせながらフェイも着地。自身の別名と同じ、重苦しい雨雲と、侵入者がいまだ巣食うのであろう鉄腕の部屋を見つめている。

「今すぐ逃げるぞ」

「クリスちゃんも連れて? 一体どこに……」

 フェイが首を傾げるのへ、鉄腕はクリスを小脇に抱えたまま立ち上がる。

「ヘイ、もうアンタも無関係じゃいられなくなったぞ。……ありゃ『猟犬』だ。まだオールドハイトにいたんだな」

「猟犬? どのへんが?」

 小脇に抱えられたままのクリスが疑問を投げかけるが、鉄腕はバンから降り、運転席のドアを破壊。クリスを助手席におろしてから、慣れた手つきでエンジンを点けた。

「アタシがこの街の『スーパースター』になる前、オールドハイトには何人かのスターがいたのさ。彼女はその一人だ」

 トロトロとバンが発進。頼りないワイパーが、雨の中を泳ぐ。

「聞いたことのない話ね」

「誰にだって歴史はあるさ。それを知らない人もいる。『猟犬』は、二十五年前からこの街で一番の殺し屋だった。ルールを重んじて、ルールに基づいた殺ししかやらない。……だが本人は変わらなくても、街は変わる。殺し屋なんて流行りの歌手と同じだ。アタシみたいになんでもやるならまだしも、殺しってのは同じやり口が通用するほど甘い世界でもない」

 猟犬ディアナは、新たなスター達に取って代わられた。それでも彼女は、自分のスタイルを全く変えなかった。

 いつしか彼女は鉄腕をはじめとする新たな世代のアウトロー達に埋もれていき『時代遅れ』と呼ばれるようになったのだった。

「でも、なんであなたを狙うの?」

「分からん。人気者はつらいね、いらない恨みをすぐ買っちまう」

「冗談言う前に、後ろ見てよ」

 クリスの言葉に、鉄腕はミラーを確認する。少しだけ離れた後ろに、雨の中をとろとろと走る、ライトをつけた白いカマロが見える。

 中は見えない。だが、鉄腕にはあのアーモンド色の瞳の輝きがこちらを射抜いたような気がしていた。

「どうするの」

 クリスははあ、とため息をつきながら、バンの窓からカマロの様子を伺う。鉄腕は、猟犬ディアナのやり口を知っている。彼女は仕留めるまで、決してその追跡を留めることは無い。

 マガジンに残った弾丸が尽きるまでに、相手を必ず仕留める。彼女は辛抱強くそれをやり遂げる。猟犬は諦めないのだ。

「逃げても無駄なら、こっちから殺るしかねえ。……残念だが、腹括るしかねえぞ」

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