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アイアンナックル/リマスター  作者: 高柳 総一郎
博士はいかにして巨人巨砲主義を愛するようになったか?
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過去への入り口

 クロスさせた刃が合成人間のマニュピレーターを受け止め、火花を散らす。合成人間たちの手足は長い。リーチの長さは確かに戦いにおいてアドバンテージかもしれないが、それは同じ体格の場合だ。

 ドモンは剣士である。

 懐に潜り込めれば、そのようなものは無効にできることくらい当然知っている。受け止めたマニュピレーターを軸に、ドモンは体を回転させ、遠心力で加速、片手に握った刀で喉を掻き切る!

 緑色の体液が裂けた喉から噴出し、ドモンの白いジャケットを染める。彼は上着の裏ポケットから、紫色のマフラーを取り出し広げ、新体操選手めいて風の中を舞わすと、口元をおおうようにそれを巻きつけた。

「つまりは全員殺ればぼくは晴れて釈放ってわけでしょう」

 刀を握る拳に血がめぐる。巡った血が全身を伝わる。ギチギチと顎を鳴らす合成人間たちがしびれを切らし、咆哮を挙げた。

 その眉間に、無数の銃弾が叩き込まれる。長い手を苦しそうに薙ぎ払う中、弧を描くように女は跳躍。合成人間の一匹の頭に着地すると、羽をあしらった悪趣味なピンク色のステッキを回転させながら叫ぶ!

「マジカル・ステッキ!」

 ステッキを頭に突き刺すと、合成人間は苦悶の声をあげ、頭を振り乗っている人間を叩き落とそうともがく。だが女は──魔法係長はさらに跳躍し左手の魔銃ベレッタのトリガーを絞りトドメを刺した!

「大変お疲れ様です。あとは残りのチームで先方に向かってください」

 涼しげにそう言いながら、ドモンのそばに着地。同時に、合成人間が同時に2体殺到し、二人に向かって電動ドリル腕を振り下ろした! マジカルステッキが、クロスさせた刀が合成人間の攻撃を受け止める。

 火花が散る中、鉄腕はそのそばをヴィガの手を引きながら駆け抜け、遮る者に裏拳を叩き込みながら強引に合成人間の群れを突破していく。

 傾きかけたモンスター──ラーテの主砲を撃つ。その結果。クリスの淡々とした、それでいて簡潔な説明が脳裏をよぎる。

『ラーテに載ってる80cm砲は、マジノ線をふっ飛ばそうとして作ったんだ。オールドハイトは残念ながら堅牢な要塞なんかじゃない。中心街に叩き込めば千人単位で人が死ぬよ』

 ヴィガはサングラスをすでに外している。火の通った魚卵のような瞳でなく、彼女本来の光が宿ったグレイの瞳が、鉄腕の視線と交錯した。

「ヘイ、ヴィガ! あんたの目は後どれくらい見える?」

「10分くらいでしょうか、たぶん」

 ウォッカを飲み、酩酊した時のみ、ヴィガの目は機能する。狙いをつけるためならば、文字通りひと目見れば十分だ。

「なら、アタシとダンスと洒落込もうぜ!」

 轟音をあげて、ラーテの無限軌道が片側だけ動き出す。沈みかけているならば、もう片方も沈めて、水平にしようという魂胆だろう。鉄腕は襲い掛かってくる合成人間の長い腕をひっつかみ、その場でぐるりと回転させ、勢いをつけてラーテの無限軌道に向かって叩きつけた!

 ぐしゃぐしゃと巻き込まれ、緑色の血液を溢れさせながら、無限軌道は詰まって止まった。その隙に、鉄腕はヴィガとまるでワルツでも踊るように手を取り転し、砲丸投げのごとく投げ上げた。

 盲目でなくなったガンマンは、ひどい酩酊状態にも関わらず、器用に片手と膝をついて着地。待ち受けていた合成人間が襲いかかるも、見もせずにナガンリボルバーのトリガーを引き、眉間を撃ち抜き殺す!

 頭上から、鋲打ち機を装備した合成人間が釘を撃ち込むが、ヴィガにとってその程度は障害になりえない。三本の釘はかすりもせず彼女の足元に突き刺さったのみで終わった。そして、彼女が撃ち出した弾丸が『偶然』跳弾し、こちらも眉間を貫通し鋲打ち合成人間が即死!

 たった一発の空薬莢がきん、と乾いた音を立て、どさりと合成人間だったものがラーテをずるりと転がり落ちてゆく。

「さあて、おいたをする子にはお尻ペンペンだ。小さな博士はどこに行った?」

 鉄腕はへらへらと笑いながらそう述べると、ヴィガの肩に手を置いた。グラグラと揺れるラーテに、盲目のガンマンは

手を目に当て、壁によろけた。

「おい、さっきは10分持つって言ったろ」

「ありますから、持たないときも」

 ヴィガは苦しげにそう言うと、再び加熱した魚卵めいた白い目を隠すように、サングラスをかけ、壁に背をつけ座り込んでしまった。鉄腕は咥えた葉巻を上下させると、無線機に向かって叫ぶ。

「係長、ヴィガのフォロー頼む!」

『了解しました。なるはやでそちらに向かいます』

『スコアが足りないんで、僕も係長についてきますから』

 ドモンが気だるげに口を挟む。こっちとしても、戦力が増えるに越したことはない。

「エスコートしっかり頼むぜ、モテ紳士くん。アタシはどうやら、先に戦車を止めたほうが良さそうだな!」

 鉄腕はぎりぎりと鉄の右手を握り込む。葉巻が一気に赤く燃え、数ミリ灰へと変わる。おおきく体をねじり、ラーテの装甲へ拳を叩きつける!

 まるで、バンカーバスターでふっとばすような衝撃が、ラーテの装甲を襲う!開いた大穴から、80cm砲弾の保管庫、そしてそこで弾を装填しようとしていた数匹の合成人間が、鉄腕を威嚇するようにぎちぎち顎を鳴らした!

「さあ、パーティといこう!」

 手始めに中へと滑り込むと、合成人間の一匹の顎をアッパーで殴りつける! 天井に突き刺さり即死。今度は砲弾を殴りつけ、古代遺跡の大岩トラップのごとく、合成人間を数匹轢殺!

『いい加減にしろ! 人の子どもたちを!』

 博士のヒステリックな声が、古いスピーカーに乗って響く。

「すまんね。近道をしすぎてアンタの目論見を先に潰しちまったみたいだ。残念ながら弾が無けりゃ大砲は撃てないって相場が決まってる」

『なら貴様とお仲間を我が子らでなんとしてでも八つ裂きにしてやる』

「結構だ。別にアタシらそこまで頼まれちゃいない。約束はモールの掃除だ。アンタたちが出ていきゃそれで終いだからな。ビジネスは終わり。アンタのあがきはアタシらのボーナスにしかならんのさ」

 悔しさから露骨に唸る音が、スピーカーから響く。しかし博士は何かを思い直したか、はたまた狂ったか、何がおかしいやら笑いだした。

『私は貴様のいる砲弾庫の更に上にいる。こうなれば意地だ。貴様が私の元にやってきて、あまつさえ八つ裂きにされたくなるようなフックをつくってやろうじゃないか』

 鉄腕は、うめきうごめく合成人間を蹴り上げながら、負けじと笑う。

「宝くじの当選ナンバーでもお断りの気分だがね」

『貴様のその鋼鉄の腕。見えているぞ。──その腕を付けた男のことを、私は知っている』

 鉄腕の目の色が変わる。過去が蘇る。カセットテープが巻き戻る。カラーからセピア色に。自らの右手が生の肉体に重なる。

 マリアの顔。切り落とされた腕。飛び散った血液。『テクノロジーによって、人は生き長らえることができる。奉仕すべきは人なのだ』。

 フラッシュバックと共に、憎悪が蘇る。その男は、鋼鉄の腕をつけたと同時に──アタシの腕を切り落とした男なのだ!

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