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アイアンナックル/リマスター  作者: 高柳 総一郎
博士はいかにして巨人巨砲主義を愛するようになったか?
23/57

塵は塵に 灰は灰に

 従業員用のバックヤードは暗くただただ不気味だ。秀子の持つタブレット端末からの光は弱々しく、不安を煽る。

「帰りたい……」

 ドモンが憂鬱そうに呟く。誰もそれには答えない。鉄腕と秀子はともかく、ドモンとヴィガは逃げ帰れば過酷な刑務所暮らししか待っていない。ドモンとてその程度理解している。

「しかし、数が問題ですね」

 秀子が冷静にそう呟く。コンタクトを取り、面倒な雇用関係の書類をクリスに丸投げしはしたが、ともかく今は味方だ。彼女は会社に務める係長でありながら魔法少女を名乗る狂人であり、極めて腕の良い殺し屋でもある。こうして味方として活動する限りは、理知的で冷静な味方なのだ。

「パーティにしちゃあ人がいすぎるからな。相手をするにも面倒だし」

 鉄腕の言葉に反応するように、無線機からクリスの声が響いた。

『あのさ、あの化け物って一体なんだと思う?』

「さあ。アステロイドベルトからの旅行者かなんかじゃね?」

『んなわけないでしょ。明らかに人間を核にして改造されてるじゃん。……じゃ、それをつくった誰かがいるんだよ。もちろん人間の誰かがね。先に言っとくけどぼくは宇宙人の存在は信じてないから』

 同じ人間が、あの合成人間を作った。そうだとすれば、よほど悪趣味な人間なのだろう。四人の悪趣味な友人たちは暗闇を進む。金のために。自由のために。

「ちょうどいいです、的には」

 ヴィガがニヤニヤと笑みを浮かべ、呟きながら、ナガンリボルバーへ弾を込める。彼女に取ってみれば、いくらトリガーを引けば当たると言っても、的が大きいに越したことはない。

「……どうやらここまでみたいですね」

 ドモンがバックヤードの出口を発見し、コンコンとノックする。返事はない。ノブを回してもびくともしない。鉄扉にはどうやらきっちり鍵がかけてあるようだった。

『そこ、キーカードで電子ロックしてんだよ。破らないと開かないみたい』

 クリスのナビは的確だったが、まさか遠くから手を貸すことはできない。ぶち破るのは簡単だが、音で気づかれるのは面倒だ。

「サムライ、扉を斬れ」

 鉄腕は妙案を思いついた、とばかりにドモンに向かって言った。

「馬鹿じゃないんですかあんた」

「おい、車だろうがなんだろうが、サムライ・ソード持ってりゃ斬っちまうのが常識だろう」

「アニメの見過ぎですよ。勘弁してください。刃こぼれしたらどうしてくれんですか」

「そうかよ。じゃあ大好きなアニメにのっとってアタシがこの扉を突破すりゃいいわけだ」

 鉄腕はぐるぐると右腕を回し、ひとつおおきく息を吸う。葉巻が数ミリ灰へと変わる。──そして、紫煙を吐き出した。

 体をねじり、叩きつけた鋼鉄製の拳は見事鋼鉄扉をふっ飛ばした。埃が舞い、あたりにもやがかって漂う。

 在庫が放置されたままのリカーショップ。すでに閉鎖された薬局。そして、奥にはホームセンターへのルートを示した看板。

 ──四人が穴蔵から抜け出ると、それよりも注目すべきものがあった。巨大なくろがねの城とでも形容すべきもの。そびえ立つ未確認物体。

『良くぞ来たな、小さき者共!!』

 工事用ライトが天井からローグ・フォアの面々を照らす。眩しさから手でひさしを作るヴィガ以外の三人。金属を擦り合わせるような音と共に、影が四人を囲む。合成人間。すでに囲まれている。

『小さい小さーい。貴様らの小ささと来たら!私はめまいがしてしまいそうだ!』

 高笑いと共に、高所作業用リフトが降りてくる。白衣を翻す姿が小さく見える。

「遠近法って知ってっか? 多分下まで降りてきたらさぞかしおおきく見えるだろうぜ」

 軽口に、白い影は高笑い混じりに返す。

『野蛮なる小さき者共め。そのような小細工には騙されんぞ』

 合成人間たちの顎がギチギチと音を立て、延長された腕に取り付けられたチェーンソーや丸鋸、電動ドリルが唸りをあげる。四人は身構える。突破できなければ、ここで終わりだ。それだけは間違いない。

『諸君! 自己紹介をさせてもらおう。私はヴァイス博士。偉大なる創造主になる者だ。さて、ここまで来た諸君をただ粗挽き肉に変えるのは芸がない。ひとつ私の器の大きさを披露しよう。──即ち、このモールに隠された秘密を!君たちに披露するということだ。刮目せよ!』

 轟音。地震。崩れてくる瓦礫。揺れる高所作業リフト。それを支える合成人間たち。

 耳をつんざくエンジン音。何かが動いている! 揺れる地面にドモンは柱にしがみつく。鉄腕も。ヴィガはウォッカの瓶へふらふらと吸い込まれるように歩いてゆき、秀子はその場で直立不動だ。

『見よ! これが、超モンスター級戦車、ラーテ! 我らが愛しき子らの方舟! そしてすべてを蹂躙する私の足だ!』

 瓦礫を踏み抜くキャタピラ音! 崩れてゆくモール。割れた屋根の間から太陽光が差し込み、黒き巨大な戦車が顕になった!

 崩れゆく音よりもなお響き渡る博士の高笑い。バケツリレーの要領で、リフトが戦車の後部に設置され、太陽光でようやくその姿が鉄腕たちにも見えるようになった。

 白衣姿の乳白色の髪を持つ小柄な少女。左目には精密作業用ルーペを付け、満面の笑みで高笑いしている!

 そして、右手には拡声器を持っており、それで再びローグ・フォアの面々に声を投げかけた。

『口径80cm列車砲を戦車に改造し、地上を蹂躙しつつ、オールドハイトに侵攻する! お前たち小さき者共のあがきは所詮蟻の地団駄でしかないのだ! 指を咥えて……いやその前に我が子らにみじん切りにされるがいいわ!』

 顔を見合わせるローグ・フォアの四人。そして、全員が口を揃えていった。

「馬鹿なのか?」

 同時に、ラーテのエンジンが止まった。無限軌道が地面に埋まってしまっている。いくら回転させても、自重で地面に沈み込み動かないのだ。

 そう、いかな悪路に強い戦車とて、重すぎる車体はネックとなる。これでは地面どころか沼地を走るように、進む前に沈んでしまうことだろう。元から浮かぶはずのない舟だったのだ。

『方舟なのにもう座礁したよ』

 クリスが呆れた様子で言う。拍子抜けも良いところだ。通信に、ゆったりとした曲が流れる。重なり合うシンセサイザー。すべてが灰に返る。伯爵が通信してきている。

『どうやら新しい狐が出てきたようだ。撃ちがいがあるってものだな』

 座礁したラーテの脇のハッチが開き、長い手足の合成人間達を吐き出す。十体。二十体。

 すべてが灰に返る。合成人間も、方舟も。傾きかけたリフトの上で、ひっくり返っていた博士が、お付きらしいコードだらけの合成人間に抱えられ、再び拡声器を手にして叫ぶ。

『なんてことだ! ……もういい! 全員地面に埋めてしまえ! それから、クラァンゴ! 今すぐ主砲の発射準備をしろ! 街を吹き飛ばせば、私の目的は伝わる!』

 わらわらと殺到する合成人間! その先陣を切った個体の頭を、L96A1の弾丸が貫く。伯爵の援護射撃だ。

『狐諸君。僕も援護する。あのくだらんドイツ製のガラクタを片付けたほうが良いぞ』

「助かるぜ、伯爵」

 もう一体の合成人間の頭を、やはり一撃で貫いた! 完璧な射撃だ。

「流石だな、伯爵!」

『おっと、すまない。銃弾が尽きた』

「はあ!?」

『後は諸君らの奮闘に期待するよ。では、GOD Bless you!』

 あの男に近づいてはならない。みんな薬中だって知っている──。何か文句をつける前に、伯爵のそばで鳴っていた音楽が切れる。

 もともとそういう人間だ。用意していた銃弾が終われば仕事はしない。あてにするだけ無駄というものだろう。鉄腕はため息をつきながらも、目の前の軍勢に向き直る。

「……んで、どうすんです」

 ドモンは刀の鯉口を切り、二本の長剣を抜く。秀子は無言で魔銃トカレフと魔銃ベレッタのマガジンを、延長ドラムマガジンへ変更。

「殺します、全員」

 グビグビとウォッカ瓶を飲み干し、叩きつけて割ったのはヴィガだ。赤ら顔のままナガンリボルバーを取り出し、額に銃身をくっつける。冷静さと、凶暴性が目を覚ます。

「実にわかりやすくていい答えだ」

『短絡的で馬鹿みたいってのはダメ?』

 クリスが呆れたように言う。

「ダメ」

 コートの袖をまくり上げ、鈍色の右腕を空気にさらす。右手袋を外し、義手を握り込む。

「ついでにあのバカデカ戦車も壊してボーナスといこう」

 塵は塵に。灰は灰に。ローグ・フォアとヴァイス博士の合成人間による、オールドハイトを賭けた戦いが始まろうとしていた──。

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