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街の外のヒーロー 3

忙しい日が続いておりました。もう一つ書きたい作品もありましたが、暫く蔵に入れてこちらを書きます。すみません。

 校内には薄暗い敵意が漂っていた。僕と麻向は少なくとも歓迎される立場にないらしい。


 頭の上に格式張っていろいろ付くが、枷原高校と呼ばれている学校に来ていた。近隣の若者からはカセコーとも呼ばれているが、僕達にとっては親しめる場所ではない。

 家出少女の足取りを追ってきたのだ。本来なら古種ちゃんの家には件の家政婦が居たのだが、彼女は生憎古種ちゃんの家出時に年甲斐もなく走ったせいで足をおかしくしてしまったらしい。明後日には話が聞けるよう古種老人に連絡をとっておいた。

 誰もいない家に行くのも構わないが、どうせなら話を聞きたい僕らは、結局順番をずらして麻向的優先度二位の学校に訪れることになった。

 沈黙に飽きたのか、麻向が後ろから声をかけてくる。


「土曜日でも意外と人いるんですね。意外です」

「部活生だろ。冬休み前に大会が近いってことは無いだろうけど」


 あちらこちらから叫び声が聞こえる。運動部の練習だろうか? 僕にとってはなぜ叫ぶかが疑問だけれど、通りすがる生徒たちは慣れっこなのだろう。疑問は見かけない二人組みに向いている。

 僕と麻向は不審者以外の何者でもないのだろう。少なくとも僕達のことを探偵と認識している人間は居ない。


「それは分かっています。意外なのは部活生の数です。教室の数と室内の椅子の数からして一・二年生の三分の一程度が来てるじゃないですか」

「最近の学校は部活に入るのが強制なんだよ、僕の居た中学校もそうだったし」

「知ってます、演劇部の幽霊でしたね」


 何だ、知ってるのか。

 演劇部の幽霊にまつわる一連の話は僕の過去語りの中でも特にお気に入りのネタなんだけどなぁ、矢っ張り知っていたか。麻向が僕のことを調べるのは構わないけれど、僕が暇になった時のネタは麻向のために新調しなきゃならないらしい。大体僕は麻向と行動しているから話すことなんてなかなか無い。

 こういう時にどうするかを学んでこなかった僕の失態だな、恐らくすぐに話題が尽きるだろう。


「じゃあこれは知ってるか、『うちの学校も部活は強制だ』」

「ダウト、私は部活に入っていません。幽霊でもありません」

「一応、図書部員だったろ。それこそダウトだ。初めて会話した時は図書部員だった」


――学校の図書館、といっても二階はよくわからない教室になっていて、まるで1フロア分の大きな図書室のような部屋だった。僕達の学校は人数は少なくないが本を読む人間は極端に少ない。そういえば駅前の古本屋はこの前潰れてしまった。仲良くしていた主人もどこかに行ってしまった。街では本よりも映画や音楽が持て囃される。

 まるで若者の街のようだが、その実刹那快楽に生きる人間が多いだけだ。

 学校の図書館も少数の図書部員が好きな本を買って、自分で読む部屋になっていると聞いていた。


 あの時は初めて図書館に行った。読みたい本があった訳でもなくただ麻向のことを追っていたからだったけど。そこで僕は『少数で好きな本を読んでいる図書部員』が現在は麻向個人のことを指している事を知ったのだ。

 他の部員は居なかった。と言うよりも正確には、図書館は麻向の城だった。

 かつての部員たちは麻向によって排除されたあとで、麻向は孤独な部活の部長。当時僕は毎日そこに通い、禅問答と推理でお互いを暴き合って居た。こんな関係になるとはさっぱりだったがあの時から仲良く成れる気はしていたかも知れない。我ながら結構な青春。

 麻向は人差し指を立てた。


「図書部はなくなりました。今私は帰宅部員です」


 ああ、矢っ張り人数が足りなかったのか。当たり前だが、さすがに個人の部活動は認められないんだな。僕らの学校なら許されそうな気もしていたけど。

 

「麻向も帰宅部員とか言うんだな。それで、図書館はいまどうなってるんだ」

「私のが今までどおり管理してます。名目上は管理している先生は居ますけれど、鍵の在処すら知らないんでしょう」


 機嫌を良くして人差し指をくるくる回す。わかりづらいハンドサインだが、恐らくキーリングをフラフープ状に回すのだろう。麻向でイメージし辛いハイテンションな光景だ。そっとしておきたい。

 機嫌のいい麻向とそれを怪訝な目で見る部活生達を眺めていると、すぐに職員室だった。

 




「それで君たちが探偵?全然若いじゃないの。なるほどね~、一番若い僕なんかを来客に当てるから、あの教頭遂におかしくなったのかと思ったよ」


 僕達の応対は驚くほど軽薄な男に任されていた。アポイントメントが生まれて初めてすんなり通ったからじいさんの口添えでも在ったんじゃあないかと思っていたが、少なくともこの男は探偵らしき来客としか知らないようだ。

 気圧される僕に、目の前の男は戸棚を覗き込みながら喋り続ける。


「ウチとりあえず客通すからねー。あ、チョコでいい?僕の名前は蔵世一志(くらせかずし。ま、なんとでも呼んじゃってよ。あ! ココア切れてるじゃん! まったく、誰だよ、補給して欲しかったなぁ。オレンジジュースとミルクティどっちがいい?」

「僕は藤村伴。バンの方のトモで藤村伴。探偵です。で、こっちで人見知ってるのが麻向雛。一応僕の助手」


 一応耳を傾けていた麻向は備え付けの四分の一の折り紙を器用に蓮の形にしながら会釈した。蔵世は苦笑いしながら頬を掻く。


「おっと、ココア在った。で、探偵さんたちの目的は何よ。言っとくけど僕、教員の中でも情報持ってない方だよ? どーせ失踪した生徒の話でしょ?」

「その通り、古種心ちゃんの足取りを追ってるんです、ここの一年生の。」

 

 蔵世の方から話を振ってくれると楽だ。探りを入れずに済む。たまに書類を書かせまくった挙句、日にちを跨がせて他人に回す様な輩と相対することもあるから、旅程を長めに取っていたが、今回は少し暇するかもしれない。もう少し本を持って来るべきだった。


「へ? 古種ちゃん?」


 反応がおかしい。どーせ失踪した生徒は古種ちゃんじゃないのだろうか。


「嘘だろ、失踪したのかい? 家には居なかったの? 家族の方はなんで僕に連絡よこさないかなぁ」

「少なくとも家には居ないと聞きました。古種ちゃんの祖父からの情報です」


 うんうんと頷いて、ココアを軽く啜った蔵世は指を一つ鳴らせた。


「僕に通されたのは正解みたいだね。僕が古種ちゃんの担任だもの」

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