街の外のヒーロー 1 後
九斗駅。ある一つの境界。
ここで僕達は異能街を出る。
大した事では無い様に思える。しかし、重武装した兵士を見ると、世界が異能者に持つ危機感が伝わってくる。
彼らは定義的には警官だったか?
配備される時の新聞でいかにも重要そうに書かれていたが、物々しいアーマーからは彼らが警官にはとても見えない。むしろ怪物と戦うSFの兵隊だろう。あの装備なら中型の恐竜位なら倒せそうだ。
非異能者証のチェックを済ませ、電車に乗り込む。
結局目的地に着いたのは午後二時だった。マクスウェルさんとマリーちゃんとは此処でお別れだ。
「ヒナは教養があるんだからもっと自信を持たなきゃダメよ! あと、前髪切ると良いと思うの! 目が隠れててちょっと不気味だもの!」
マリーちゃんは何故か麻向の事が気に入ったみたいだ。声を張り上げていろいろ言っている。常に本気で現実を語る麻向は、大抵の子供を泣かせて来たが、マリーちゃんはあの年で中々聡明な子だった。構われて麻向はちょっと困っているが偶にはこういうのもいいかもしれない。
僕も素直に嬉しかった。ありがとうマリーちゃん。
「トモは……えーと、もうちょっと冴えると良いわね! 頑張りなさい!」
「勉強だ、マリーちゃん。日本のことわざで『能ある鷹は爪を隠す』って物がある。僕は常に見えない所で冴えてるんだ!」
少し感謝の気持ちを失いそうになったが、こんなちっちゃい子相手なら流石に僕も声を荒げたりしない。
「すごい! すごいわトモ! マクスウェル聞いたかしら? 『能ある鷹は爪を隠す』。本で読んだ通りよ! 冴えない演技をしていたのね? 完璧だわ! 本当に冴えないと思ったもの!」
「聞いてるぞ。冴えない少年はジャパニーズだからな、謙虚の心って奴だ! 冴えない演出するなんて全くもって訳がわからねぇな!」
「掘り下げるな! 良い感じに言いくるめさせろよ! 僕が冴えない演出してる変な奴みたいじゃねえか!」
流石の僕も声を荒げたりしたい時もある。今僕は完全に感謝の気持ちを失った。
あとマクスウェルさんは今ナチュラルに冴えない少年扱いしたな。傷付くぞ!
「まあ少年らも時間は有限だ。マリー、そろそろお別れするぞ」
マクスウェルさんがシリアスに戻った。
高身長で旅行鞄を持つ様は空間を切り取ってポスターとして使えそうなほど良く出来ている。
ありきたりに手を振ってマクスウェルさんとマリーちゃんは人混みの中に消えてった。
麻向が口を開く。
「藤村くん、とりあえず荷物置きに行きますか?」
「……ああ。部屋は取ってるから案内する」
やはり麻向は余韻に浸ったりしないみたいだ。
「なあ麻向」
「なんですか」
「マリーちゃんが言ってたろ。髪。切るのか?」
寂しくなった僕の問い掛けに、麻向は顔を近づけて僕と目を合わせた。
「切って欲しいなら切りますけど? そうでも無い様ですね」
どうやら僕の考えは目から読めるらしい。
「良くわかるな」
「なんだって分かります。教えてくれますから」
「僕には分からないぞ!? 教えたか?」
麻向は僕の動揺に口を綻ばせて言った。
「切って欲しいなら藤村くんは言います。藤村くんとずっと一緒に居ますから、藤村くんが教えてくれるんです」
「それを言われると僕は恥ずかしいぞ」
「私も恥ずかしいので早く行きます。案内してください。」
「藤村くん。冴えてますね」
「そうだよな! 麻向は僕の味方だよな?」
「説明が不足でした。さっきから冴えてますね。気にしてます?」