ORDER10【R.E.D.総務部捜査課1】
1.ちょっと拉致問題発生。
2.第1部の話が微妙に入っています
ORDER10【R.E.D.総務部捜査課1】
あの後、イサとセネルはこちらの世界に来る前の黒羽鈴守として存在しているレイスに、今の状況を説明した。
なんだか納得いかないような顔をしていたが、彼自身も何故ここにいるのかも分からないし、それ以前の記憶が思い出せないでいるらしい。
だから、今はこの話を信じることにして、2人と行動を共にすることを理解してくれた。
すると丁度その時、ヴェクセルが店の方へやってきた。
「完全廃墟地区エリア、パくられたみたいだね。」
「え?本当ですか?以外とR.E.D.の方々は処理をするのが早いですね。」
ヴェクセルが差し出した朝刊を受け取り、セネルはそれをじっくり読み始めた。
そこには、確かにR.E.D.が特殊部隊を動かして、あのバーを取り押さえたなどと書かれている。
「僕らまで敵にされていないといいですけどね。あの日、フリンジ採取のためにあの場にいましたからね。」
「ショコラは教えに来てくれただけだったけど、きっと彼ならなんとかしてくれるよね?」
「そうだといいんですけどね・・・」
本当にそうであればいいとセネルは願っていた。
しかし、現実はそう甘くはなかったのだった。
その頃のR.E.D.総務部捜査課では、色々と事件のことについて語り合うミーティングが行われていた。
会議室にはピリピリと張り詰めた空気が今にも割れそうなバルーンのように押し込められている。
その中にショコラとぷにぷにも出席していた。
「だから最も最悪な事態になれば・・・――」
「はい、黙れハゲ。今は俺の正論を聞きやがれ。学校の先生は教えてくれなかったかな?『人の話は最後まで聞きましょうw』ってさ。あー?」
ぷにぷには並べられた横長のデスクの上に座り込み、睨みつけるようにぷにぷにより遥かに年上である男性にそう言い放った。
男性は黙ってしまい、それを確認したぷにぷには自分の話を続ける。
「確かに彼等はあの日、あのバーにいた。しかしそのことは取り消しになる。なぜなら、彼等は仲間の1人の魂みたいなもんを、あのエリアに取りに行っていただけであるとショコラの証言もある。第一、彼等があの場所に足を踏み入れたのはショコラの伝えがあったからだ。ショコラもあのエリアの危険性など全て把握していた上でもちろんエリアに行くようにしたのだから、これは取り消しOKだよな?確かR.E.D.の法律には危険なエリアへの立ち入りの際はR.E.D.の仲間を連れての許可なら許されているはずだが?あぁ、スウィーパー業のやつもよかったな。」
「ならば、お前の言う、そいつ等の1人の存在の件は?」
「・・・そりゃあ調べる必要があんだよ。それともう1人あるがな。」
「もう1人?」
「あぁ、1人は死人で実体化。もう1人は無言で喋らないし、何処見てるのかわけわからん奴だったが、アイツはこの世界の住人か?何も感じられない。」
考え込むように腕を組むぷにぷにに変わって、ショコラが口を開いた。
「まぁ兎に角ニブルは2人の調査をしたいんだと言いたいらしいんですけど・・・許可願います。」
ショコラが会議室の奥の方にいる男性に声をかけた。
男性はカーテンで遮られていて姿ははっきりとしないが、しばらく考えてから
「いいだろう」と言葉をもらした。
「ありがとうございます。」
「社長、ありがとうございます。」
会議室から社員が続々と出ていくなか、二人も会議室の証明を消して、会議室から立ち去った。
社長も、いつの間にか、会議室から消えてしまっていた。
それからしばらくして、会社の昇降機に乗り込み、スラム街を見下ろしながら、ショコラとぷにぷには降りてきていた。
「で、ぷにぷにはどうするつもりだ?」
「もちろん二人をこれから調べるのさ。まずは………そうだな、あの脱力系の金髪野郎を拉致って取り調べするかな。」
クスクス笑いながら、ぷにぷには開いた昇降機の扉から出ていった。
「……やり方に手段は選ばないのな…」
苦笑しながらショコラも昇降機から降りていった。
翌日、レイスはまだ戻らない記憶のままではあるが、イサと共に街へ出かけていた。
街に出ると、レイスにとっては完全に異世界な場所が視界に広がっており、全てのものに興味津々であった。
「なぁなぁなぁ、これなんなんだ?この青い果物。」
「これはね、バカ林檎だよー。」
「バカ林檎?そんな名前いじめじゃないか!!!てか、林檎は青くなーいッ!!」
楽しそうに騒ぎながら、商店街やセントラル区を回る2人の姿は、まるで仲のよい兄弟のようだった。
大体街中を回ったころには、日は既に沈み、夜になっていた。
イサが買ってきたホットフルーツココアを手にして、2人はセントラル区にある時計台の上から、入国して来ようとしている貿易船を眺めながら一息ついていた。
「なにこれぇ・・・ココアなのにフルーツ?フルーツがインされてるよ?なんか勿体無い感があるよ?」
「えー。おいしいからいいじゃない。スペシャルメニューサイドに載ってる売り上げランク3位の人気商品だよ?」
「いやいや、おいしいのは俺の学校付近にあるお店で売ってあるタピオカ・・・」
「何ソレ?あ、ねぇねぇ、レイスの学校の話してよ!聞きたいな、レイスがこちらに来る前のこと。」
「・・・なんかそう言われると変な気分だな。俺、昨日来たような感じがしてたまんないんだけど・・・いいよ。」
レイスはホットフルーツココアから口を離して、学校にいたころの話をイサに聞かせた。
最初にこちらに来る前(第1部参照)は、父親による虐待が酷すぎて、学校に行くときはいつも包帯をぐるぐる巻き、薬品の臭いが強く、あまり人前に出られるような姿ではなかったが、それでも教室に入って明るく笑っていた。
そんな時、友人から貰った一冊の本・・・それが、この世界に通じる何も記されていない本【magica=On Line=】だった。
「・・・本当は親父が凄い怖かった。だけど、ほっとけなくてさ・・・まぁ、今はちょっと別れて暮らしてるけど。就職試験もあるし。」
「どうして?」
「親父な、俺が6歳か7歳くらいの時に母さんと別れてさ・・・なんか母さんが浮気だのどうのこうのいうけどはっきりした理由は分からない。だけど、俺がいなくなったら、親父1人だろ?それってさ・・・凄く寂しいことじゃないかな?」
イサにはその理由がよく分からなかった。
「どうゆう・・・――」
レイスに問いかけようとしたときだった。
いきなりイサの視界が地面に変わった。
そして同時に後頭部に激しい痛みが走った。
(え・・・何?!)
自分に何が起こったのかわからないイサは、必死に少しづつ麻痺する思考回路で状況を理解しようとする。
すると、視界に入ってきたのは、口を塞がれて捕らわれているレイスの姿だった。
「レイ・・・ス!!」
「悪りぃな・・・ちょっと連れのお兄ちゃん借りてくぜ。」
そう背後から声が聞こえた時には、もう手遅れだった。
イサの体には、激しい痛みが走った。
「ヴアアアアァァァァァァァァァァアアア!!!?」
その痛みが無くなった数秒後、イサの意識は途切れた。