笑顔
「あっ……!」
カフェのガラス越しに外を見ていた私は、楽しそうに、幸福せそうに手を繋いで歩いている恋人達の姿を目にした瞬間、無意識にそう口にしていた。
「? どうかした?」
一緒にいた友達が不思議そうな表情をする。
「え、あぁ、ううん何でもないよ」
すぐに笑みを浮かべ返事をしたけど、本当はなんでもないなんて事、ない。
今横切ったのは、私が今までで一番長く付き合った元カレと……女のコだ。
彼はもちろん私に気付くこともなく隣のコと歩き去っていった。
その様子が寂しいというよりむしろ嬉しいと感じたのは、私があの頃より大人になったからなのか、過去のものになっているからなのかは判らないけれど、自然にほんの少し笑みが浮かんだ。
あなたは、大切な人を見つけたんだね。
私にも、すごく大切な人がいるんだ。
お互いに、今度は幸福せになれるといいよね……。
もう接点がなくなってしまった私達だけど、それくらいは願っても……許されるよね?
私は、彼と過ごした日々を思い出しつつ、目の前のカフェ・オレを口にした。
人の幸せを願える人って素敵です。