捌
「それじゃぁ、首を切り落としてはいないんですな?」
瑠河にそう問い質す阿弥陀が首をかしげる。
「ですから、私はそれ以上のことをしていません。彼女を殺したのは事実ですが、でもそんな酷いことまではやっていません」
瑠河は興奮したように身を乗り出す。
「阿弥陀、彼女が云うには元浦の頬を叩き、その後隙を付いて、うしろから持っていたロープで絞めたらしいからな」
佐々木がそう言うと、阿弥陀は表情を険しくさせる。
「目撃証言がありませんからね。彼女以外が元浦に会っていたという目撃証言が」
阿弥陀は納得のいかない目を瑠河に向ける。
「ところで、シャツの件ですけど――、本当にあなたのコレが着ていたシャツを使ったんですか?」
阿弥陀が小指を立てながらたずねる。
「いえ……、細川さんも似たようなことを聞きましたけど、私はなにもしていません。それに彼女のシャツのサイズは――Lなんです」
瑠河の言葉に、阿弥陀と佐々木はギョッとした。
「阿弥陀、殺された元浦が着ていたシャツのサイズはなんだ?」
「ひとつ上のLLでしたね。それに衝動的でやったとは思えませんし、あなたは元浦さんに男性だというのをバレるのを恐れて殺したんでしたね。それは前から言われていたんですか?」
「――はい」
瑠河はちいさくうなずく。
「殺そうと思ったのもそれくらいから?」
その問いかけにも、瑠河はちいさくうなずいた。
「それじゃぁ、計画性があったとも言えるし、衝動的にやったとも云えますね」
「ですが、いちいちシャツを変えたというのもね。ところであなたのシャツのサイズは?」
「XLです」
そう答えた瑠河の表情は、どことなくやんわりとしていた。
翌日の早朝。ちょうど六時になろうとしていた頃だった。
皐月の携帯がけたたましく鳴り響く。
「もしもし?」
「あ、皐月? あんた今日暇?」
相手は信乃だった。
「暇だけど……なに?」
「ちょっと付き合って欲しいんだけど、十時くらいに福嗣駅で待ち合わせ。あ、ちゃんとおめかししなさいよ。今のあんたができる精一杯のやつでさ」
そう言うや、信乃は皐月の有無を聞かずに電話を切った。
皐月は、どうして信乃の付き合いをするだけなのにおめかししないといけないんだろうかと、首をかしげた。
「えっと、信乃はまだ着ていないんだな」
皐月は、約束の時間の十分前に福嗣駅へと足を運ぶ。
トップスはワンピースの上にデニムのジャケット。
ボトムは花がらのズボンに、ベージュのヒールである。
それから少し待ったが、信乃が現れる様子がない。
――また遅刻かなぁ。
そう皐月が思った時だった。
皐月の目の前に、見覚えのなる車が停まるや、
「あれ? 皐月ちゃん?」
と、運転席の窓が開く。
「忠治さん?」
皐月も驚いた表情で、目の前の大宮を見た。
「仕事じゃないんですか?」
「いや今日は非番だよ。それで信乃さんからこの時間に駅まで来て欲しいって云われてね」
「私も、なんか付き合ってほしいって言われて」
そう皐月が説明した時、皐月の携帯が鳴った。
皐月が怪訝な表情で携帯の画面を見やるや、信乃からのメールだった。
そのメール内容を見るや、
「やられた」
と、あきれた表情を大宮に見せた。
『せっかくの休みなんだし、たまにはおめかしして一日まとめてデートしなさい』
という、短いメール。
「まったく、信乃のバカ」
そう愚痴をこぼした皐月だったが、その表情は笑っていた。
「どうしようか? いきなりのことだからなにも行き先なんて考えてなかったよ」
大宮がうーんと唸る。
「忠治さんが行きたいところでいいですよ。ここ最近は私のわがままを聞いてもらっていたこともありますし」
皐月はそう言うと、助手席乗り込む。
その時、皐月は窓から福嗣駅のホームを見やる。
――ありがとね、信乃。
皐月は、その時チラッと見えた信乃と希望に向かって、ちいさく呟いた。
「恭ちゃん、これどうかな?」
矢畑が自分の前にワンピースをひろげて、亥川に見せる。
「お前じゃぁ、小さいだろ?」
あきれた表情で、亥川は言った。
「そんなことないよ。ほらこれサイズがピッタリだもの――」
ワンピースの首元にあるタグを見せながら、矢畑はそう言った。
「でもなぁ、お前普段いくつの着てるんだよ」
そうたずねた時、矢畑はちいさく笑みを浮かべた。
「やだなぁ、恭ちゃん……私の服のサイズってLLだよ。胸がキツくて苦しいけどね――」




