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姦~魔禍霊噺~  作者: 乙丑
第七話・八尺様
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 矢畑と、翌日の土曜日に買い物の約束をした皐月は、その日の夕方、稲妻神社にやってきた大宮にそのことを話した。

「それで母さんはなんて?」

「面白そうだから。って相談には乗ってくれましたよ。直営店の場所も教えてくれました」

 皐月はそう言いながら、葉月に目をやる。

 葉月はゆっくりと深呼吸をし、写真に手をかざす。

 霊視を始めて三〇秒。葉月の表情が難しくなっていく。

「――えっと、どう説明すればいいのかな?」

 写真から手を話すと、葉月はおもむろに言った。

「なにも聞こえなかったの?」

 皐月がそうたずねると、葉月はうなずいた。

「元浦スミレが死ぬ直前人の足音を聞いたということは?」

「それもなかった。私の力は亡くなった人が認識しなければ、聞こえないのと同じだから」

「つまり、足音が聞こえていても、本人が気付かなければ意味がないということか」

 大宮がそう言うと、葉月はうなずいた。


「死因は窒息死によるものだったんじゃよな? 写真を見る限りでは首を切り落としたと見えるんじゃが?」

「湖西主任の話だと検死をした結果、脳に酸素が行き渡っていなかったそうなんです」

「顔の手形は?」

「おそらくまだ血が通っていた時に付けられたんだと思うよ」

「結局、犯人は分からずじまいか……。それに放課後最後に見たという人の目撃証言も分からないんだったな」

 拓蔵にそう聞かれ、皐月はうなずく。

「でも、なにもここまでしなくてもいいんじゃないですかね?」

 瑠璃がそう言うと、皐月と葉月も同意するようにうなずく。

「首を絞めるだけでなく、それがばれないように切り落としてるわけですからね」

 その時、大宮が一瞬視線を落とす。

「――んっ?」

 その様子に、拓蔵はすこしばかり首をかしげた。

「どうかしましたか? 拓蔵」

「いや、大宮くん。縄の痕はあったのか?」

「えっ? あ、はい。首とアゴの付け根あたりにロープの痕がありました」

 そう言いながら、大宮は自分のアゴのあたりを手で示す。


「吊られたと考えるとよいかな?」

 拓蔵がそう言うと、

「でもそれだと被害者より大きい人ってことになりますよね? でもそんな人が周りにいたら、目撃証言がないのは可笑しいでしょ?」

 瑠璃は納得のいかない表情で言い返す。

「大宮くん? 手形で殺したあとでも可能じゃと思うよ。それにそれがかならずしも彼女の帰り道とは考え難いじゃろ?」

「でもそれだと顔が紫に変色しているはずですよ? 口の中にはなにもなかったんですよね?」

 瑠璃の問いかけに、大宮はうなずく。

「じゃからどうも納得がいかん。首を絞めたあとに殺したのか、殺した後に首を絞めたのか」

「……どう違うの?」

 葉月が首をかしげる。

「もし首を絞めて殺した場合、先程も言いましたが顔は鬱血によって顔色は紫に変色するんです。でも写真を見る限りそのような色ではないので殺してから縄の痕をつけたと考えるべきでしょう」

「腫れはその前後どちらかに付けられたものと考えてもいいでしょうけど、でもどうしてこんな事をしたんでしょうか?」

「ほかにわかったことは?」

「今はこれくらいしか」

 大宮は一緒に来ていた佐々木に視線を向ける。


「逆に考えると首を手で絞めなかったあたり、計画性と考えてもいいと思うがな」

 拓蔵の言葉に、皐月はすこしばかり違和感を覚える。

「どうかしましたか? 皐月」

「なんだろ。すごく既視感があるというか、なにか引っかかるところがあるっていうか」

 皐月はもう一度、元浦スミレの写真を見る。

 福嗣高校の制服の色は白だが、今は夏服でカッターシャツを着ている。その色も白だ。

 なのですこしでも汚れると、かえって目立つ。

「争った形跡がないのよね……。それに血の痕もない」

「被害者の身長は?」

「だいたい一六〇あたりじゃないかと。皐月ちゃんたちとおなじくらいですね」

「シャツのサイズは?」

「――LLでした」

 それを聞くや、

 ――あれ?

 と、皐月は首をかしげた。


「皐月お姉ちゃんはいくつだったっけ?」

 葉月がそうたずねると、

「私は一六三センチで、シャツのサイズはLだけど、多分信乃やノンノも同じくらいだと思うわよ」

 と皐月は答えた。

「もしかすると被害者のものではないかもしれませんね」

 瑠璃は大宮と佐々木に視線を向ける。

「忠治くん、その元浦スミレという少女は殺されるようなことをしているんですか?」

「すみません、色々と調べているんですが」

「誰も証言してくれないということですか」

 そう言われ、大宮は答えるようにうなずく。

 皐月は、先日茲場から聞いた、元浦に関することを言おうとしたが、直接関係があるとは思えず、言えなかった。



 日は出ていても、うっすらとした教室の中、二人の女性が抱き合っていた。

 一人は身長が高いせいもあり、椅子に座っている。

 二人は唇を重ね、ゆっくりと離していく。

「先輩……」

 少女はボーッとした憂いのある目で、相手の女性を見やる。

「可愛いわね」

 そう言うと、切れ長い目を瞑り、少女の頬に優しく触れる。

 その柔肌を愛撫するかのように、女性は、ゆっくりと唇を這わす。

「んっ! あっ!」

 少女は、思わず女性の肩に触れた。

「先輩……、もう――」

 少女はゆっくりと顔を女性の胸元に預ける。


 ――えっ?

 ……妙な違和感があった。

 しこりのような硬い感触が女性の胸にある。

「――先輩?」

 少女はゆっくりと女性の顔を見た。

「どうかしたの?」

「いえ……」

 少女は視線を逸らした。

「すべてを忘れてしまいましょう。そうすれば、何もかもどうでも良くなるわ」

 女性はそう言うと、少女に唇を重ねる。

 少女は、女性に身を委ねると、蕩けるような快楽に落ち、先ほどの違和感などすでに忘れていた。



「おっそいなぁ」

 翌日の土曜日。

 皐月は信乃と希望との待ち合わせ場所である福嗣駅にいた。

 腕時計を見ると、待ち合わせの九時を少し回っている。

「ごめん、待った?」

 信乃が慌てて走ってくる。

「大丈夫。私も今来たところだから」

 本当は待ち合わせの十分前から来ているのだが、皐月は顔にも出さなかった。

「風花さんは?」

 信乃が周りを見渡すと、

「二人とも待った?」

 商店街の方から、希望の姿が見える。

「コロロ」

 と、肩に乗っているコロロが、皐月たちに遅刻の理由を説明するが、まったく理解できない皐月たちは、希望に目をやる。

「おじさんにつかまって、十分くらい店の手伝いをさせられてた」

「まぁ、店の手伝いだったら仕方ないか」

「それじゃぁ、矢畑先輩が待ってる駅まで行こう」

 皐月たちは、駅の改札を潜り、三駅先の、人が集まる駅へと向かった。


「えっと、矢畑先輩はっと」

 目的の駅を降り、皐月たちは矢畑の姿を探す。

 福嗣町と違って、都会のせいか、ホームの人集りが多い。

「あ、あれじゃない?」

 希望がそう言うと、その先を指で刺した。

 人集りの中に、ひと際大きな人影がある。

 それが物珍しいのか、周りの人間が、矢畑を無断で写真を撮っている。

「ノンノ……」

 皐月の低い声に気付いた希望は、その意図がわかり、

「メアン」

 と、人差し指を唇に当て、おもむろに息を吹きかけた。


「なっ? なにこれ? 急に寒くなって」

 矢畑の周りの空気が、一瞬にして、冷たくなっていき、矢畑に集っていた群衆が、一斉に肩を震わせる。

「えっ?」

 その状況に、矢畑は戸惑う。

「矢畑先輩。こっち」

 と、皐月が人集りを書き込むように、矢畑の手を引っ張りながら、抜け出した。

「ノンノ、もういいよ」

 皐月がそう言うと、希望はゆっくりと息を止める。

 周りの気温が、希望の息に合わせるかのように暖かくなっていった。


「こういう使い方もあるんだね」

 信乃が希望を連れて、皐月と矢畑のもとにやってくる。

「えっと、なに? 今さっきまで凄く寒かったんだけど」

 矢畑は困惑した表情で皐月たちを見る。

「まぁ、それは置いといて」

 信乃は矢畑の着ている服を見た。

 白いワイシャツにジーンズ。日除け用にと丸いツバがついている帽子を被っている。

「先輩スラっとしてるんですから、もう少し足を出してもいいと思いますよ。それに胸もあるんですから強調するような」

「……いきなりダメ出し」

「それを今からコーディネートに行くんでしょ?」

 皐月はそう言うと、腕時計に目をやる。

「葵さんから教えてもらった化粧品の直営店が近くにあるから、どういうのが似合うか聞いてみよう」

「だ、大丈夫かな?」

 不安な表情を浮かべながら、矢畑が皐月にたずねる。

「私も……ちょっと心配になってきました」

 皐月はためいきを吐いた。


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