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姦~魔禍霊噺~  作者: 乙丑
第七話・八尺様
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 元浦スミレが、帰宅中何者かに襲い殺されてから、約一時間。

 通報を受けた阿弥陀たちは、現場へと訪れていた。

「これは……、福嗣高校の制服みたいですね」

 阿弥陀はそう言いながら、横目で大宮を一瞥する。

 その大宮は携帯を扱っており、すこしばかり難しい表情を浮かべていた。

「大宮くん、どうかしたんですか?」

 携帯を覗き込むように、阿弥陀はうしろからたずねた。

「ちょ、勝手に覗かないでくださいよ」

 そう言いながら、大宮は携帯の画面を手で隠す。

「別に減るものじゃないでしょ? まぁ、相手は皐月さんでしょうけど」

 大宮とは対照的に、阿弥陀は笑う。

「だからって、プライベートな話もありますよね?」

 大宮は、阿弥陀を睨んだ。

「それで、いったいなんの話なんですか?」

「いくら上司でも話せないものは話せません」

 大宮はそう言いながら、携帯をポケットに仕舞った。


「それで、やっぱりこの制服って」

「福嗣高校の制服と見て間違いはないでしょうな」

 阿弥陀はそう言いながら、遺体の左袖を指差した。

 袖にはワッペンが付けられている。

「文殊菩薩の梵字をあしらっていますしね。ココらへんの高校でこういうのがあるのは、福嗣高校くらいですよ」

「しかし、僕も福嗣高校に通ってましたけど、いったいどうして男女ワッペンの位置が逆なんでしょうか?」

「通ってたのに知らなかったんですか?」

 阿弥陀はあきれた表情を浮かべる。

「別に興味がなかったといったほうが分かりやすいですかね」

「まぁ、たしか前ボタンの位置だったと思いますよ」

 その言葉に、大宮は首をかしげた。

「色々と説はありますけど、男の場合はサーベルを抜く場合、ボタンホルダーが邪魔にならないように右側が開いており、女性の場合は当時は上流階級の人が着ていたらしいですから、女中に着せてもらうため、逆にしていたそうです。最も、福嗣高校の場合は男女わかりやすくみたいですけど」

 阿弥陀はそう言いながら、元浦の遺体に目をやる。


「いつぞやの首なし死体みたいですね」

 遺体の首の付け根辺りを見ながら、阿弥陀は怪訝な表情を浮かべる。

「違うところがあるとすれば、首を捻って千切れた……といったところでしょうか」

「えっと、どういう状況ですか? それって」

 殺され方がなんとも滑稽で、大宮は失笑してしまう。

「叩かれた……んじゃないでしょうか?」

 見知った声が聞こえ、大宮と阿弥陀はそちらに目をやる。

 そこには、制服姿の皐月、信乃、希望の三人が、転がっている元浦スミレの首を、凝視していた。

「皐月ちゃん? それに信乃さんに……風花さんだっけ?」

「おや? 三人とも帰宅中でしたか?」

「あ、はい」

 皐月はそう言いながら、スッと立ち上がった。

「それで、誰かわかりましたか?」

「一年の元浦スミレ。クラスが違いますからあんまり会ったことはありませんけど、廊下で何回か擦れ違ったことはありますですよ」

 希望がそう言うと、皐月と信乃も、同意するかのように頷いた。

「ただ、ひとつ気になるところがあって、被害者は平手打ちを食らったと思うんです。しかも、正面じゃなくてうしろから」

「うしろからですか?」

「首の付け根の捻りが背中に向かっていますから、皐月の言う通りかもしれませんね」

 身体の方に視線を向ける信乃が告げる。

「慣れてるとはいえ、女子高生が遺体に震えもしないというのは、なんともシュールだね」

 大宮が苦笑いを浮かべる。

「好きで慣れてるわけじゃないですよ。さすがにこの前のはきつくて、いまだに思い出すのもいやなんですから」

 信乃は眉を顰めながら言う。

「この前って、なにかあったの?」

 皐月と希望は首をかしげる。

「いや、こっちの話」

 信乃は視線を阿弥陀に向けた。

「阿弥陀警部がどうかした?」

「いやいや、まったく関係のないことですから」

 あたふたとする阿弥陀に、皐月と希望は不審な目を向けたが、それ以上は聞かなかった。


「それじゃぁ、被害者はうしろから気配を感じ、振り向いた時に平手打ちを食らった……という感じかな?」

 場所を変えて、大宮の車に乗り込んだ五人は、今わかっていることを整理する。

「顔の右側に大きな手形がついてますし、首の捻りからしてそうだと思います」

「ただ、指の細さからして、男って感じじゃないのよね」

 信乃の言う通り、元浦の顔についている赤い指の形は細い。

「それじゃ、女性?」

「でも、手の大きさって少なくても二〇センチ以上はあるよね? それに男性でも細い手の人はいるだろうし」

「元浦さんが恨まれるようなことは?」

 大宮がそうたずねると、

「さっきも言いましたけど、クラスも違いますし、あまり話したことがないのでなんとも」

 希望は、すみませんと頭を下げる。

「今はあの時間帯に不審な人物の目撃証言がないかを調べるしかないですね」

「それじゃぁ、わたしたちは被害者がどんな子だったのかを調べる。といったところでしょうか?」

 皐月がそう言うと、大宮はちいさくうなずく。

「お願いできるかな?」

「警察が直接楽校に行くと色々とありますし、わかりました。一年生くらいだったら知り合いも何人かいますから、彼女について聞いてみます」

 信乃は皐月と希望に視線を向けた。

 皐月と希望は答えるようにうなずく。

「大宮さん、すごくおこがましいことなんですけど、ちょっと家まで送ってくれませんか?」

 信乃がそう言うと、

「なんか、用事でもあるの?」

「いや、今思い出したんだけど、七時から始まる番組のビデオ予約するの忘れてた」

 信乃が俯きながら言うや、皐月は頭を抱える。

「そんなことで忠治さんの仕事を……」

「あのね。その番組はアニメの特番で、最近のアニメについてのヒット理論がどうとか、OPとEDを担当するアーティストによる生ライブがあったりで、見逃したら後悔するでしょうよ?」

 信乃は、カッと顔を赤くしながら、理由を述べていく。

 大宮は苦笑いを浮かべながらも、車を鳴狗寺へと走らせた。



「それで、なにかわかったの?」

 翌日の昼休み。希望の机の近くで、皐月たちは殺された元浦スミレについて、一年生女子にたずね回っていたことの整理をしていた。

「有力な情報としては、昨日の放課後、体育館裏で誰かと会っていたみたいだね。まぁ、見掛けたくらいで詳しくはわからないみたいだけど」

「その後の目撃は?」

「校門を潜ってから殺されたまではないね。それから、不審な人物の目撃もなかった」

 信乃は説明をしながら、携帯をいじる。

「なにか調べ物?」

「あんな大きな手形が付くくらいだから、結構目立つと思うのよ。でも目撃証言がないってことは……」

「――妖怪の仕業。ということですか?」

 希望の問いに、信乃はちいさくうなずく。

「まだ可能性としてはだけどね。っても、人を平手打ちで殺す妖怪かぁ……。そんな妖怪いたっけかな?」

 信乃は頭を抱える。

「でも、元浦さんはいったい誰に会っていたのかな?」

「たしかにそうだね。その会っていた人物が、殺された元浦スミレさんの事を知ってるかもしれないし、彼女がどんな様子だったのかってのも聞けるかもしれない」

 希望がそう言った時、

「元浦? 元浦って昨日殺された元浦のことか?」

 教室を出ていた茲場が、教室に戻ってくるなり、話を聞いていたのか、皐月たちにたずねる。

「なにか知ってるの?」

「いや、元浦って、オレが入ってる茶道部の部員なんだけど、まぁ、うちの学校ってかならず部活に入らないといけない決まりになってるだろ?」

「そう言えば、そうだったね」

「でも、なんかあまり歓迎していないって雰囲気が」

 希望の言葉に、茲場は答えるようにうなずく。

「風花の言う通りだよ。そいつ先輩が入れてくれた抹茶を不味いって言ったり、たかが三十分の正座も出来ねぇし、見て楽しむ和菓子を鑑賞もしないでペロリと食うわで」

「要するに、場の空気を壊してるってこと?」

「そういう事だな。でも、どうして元浦は殺されたんだ?」

 茲場が首をかしげる。

「……あれ?」

 希望がすこしだけ難しい顔を浮かべ、

「皐月ちゃん、刑事さん、元浦さんが殺されたってのを発表はしてるの?」

「いや、昨日の今日だからまだ発表はしていないと思うけど」

 皐月も、先ほどの茲場の台詞に違和感があった。


「あのさ、茲場くん? どうして元浦さんが殺されたことを知ってるの?」

「知ってるもなにも、今朝のニュースで言ってたぞ」

 そう言われ、皐月と希望はキョトンとした表情を浮かべた。

 二人とも、朝テレビをあまり見ないため、元浦が殺されたという報道があったことを知らなかったのである。

「彼女が殺されるような、恨まれるようなことは?」

「いや、まぁ、空気を読まないといったところだけだからな。殺されるほどの恨みはなかったと思うぜ」

 茲場はそう言いながら、自分の席に座る。

 チャイムが鳴り、皐月と信乃は、自分たちの席へと戻っていった。


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