救いの手(1)
入学式の日。
広い学校の敷地内で私は迷子になっていた。
「ここ、こんなに広かったっけ?入試の時はあんま見てなかったからなー」
入試以来来ていない学校の地理関係がわかるはずもなくこの様だ。
緊張と期待に満ち、高ぶった気持ちを押さえきることができず、予定していた時間よりも一時間早く家を出てしまった、が、この敷地に足を踏み入れてからもう一時間以上たっている気がする。もうそろそろ時間がヤバくなってきた。
「どっかに人いないかなー……」
とりあえず手当たり次第にさ迷っているがこの学校、とにかく広くて誰とも会わない。
一人ぐらいいてもおかしくないのに………
「あ、れ?誰かいる?!」
中庭らしき所をさ迷っていると、誰かの話し声が聞こえてきた。声は校舎裏の方からする。声的に3、4人はいるだろう。
よし!と服装に乱れがないか確認して気合いを入れ直し、校舎の角を曲がった。
…………いた。たしかに人はいた。それも4人も。
でもこの人たちどう見ても不良だよね!?タバコ吸ってるように見えるの気のせいかな!???私こんな人たちに話しかける勇気ないんだけど!!???でも、この人達以外、誰もいないかもしれないし………
話しかけるか話しかけまいかうんうんと唸りながら悩んでいると、気がついたら不良のお兄さん方に囲まれてた。
怖いんですけど。
「あれ、新入生?もしかして迷子になっちゃったとかぁー?」
「迷子とかかっわいーい」
「俺らが案内してあげっよっかぁー?」
「てか、入学式なんかほっといて俺達と遊ぼうぜぇー」
はい。貴方達のご想像通り迷子でございますよぉぉぉ!でも、もっとましな人探すから!!話しかけてこないでぇぇぇぇ!!!!
心の中では絶叫できるものの実際は口に出すなんて畏れ多いことが出来るはずもなく。
「ぁ………いえ。知り合いを、待ってるので……」
なんて無難なことを言ってみたりする。まあ、それをこの人達が素直に「はい、そうですね」なんて言ってくれるとは思ってもないけどね。
「そんなこと言わずにさぁー遊ぼうぜぇー」
「あっち行こっかぁー」
まあ、悪い意味で予想通りに話しかけてくるんですよね。しかも迷惑なことに行動に移してくるし。これがまたご丁寧なことに一人は私の手を引いて、もう一人は背中に。残りの二人は挟むようにして左右に並んでいる。
逃げ場がない!!!!
そう思った時にはもうグイグイと引っ張られていた。これはヤバい!逃げなきゃ!頭では思うものの恐怖で縮み上がった体が言うことを聞いてくれない。
「だ、大丈夫なので………………離してください……」
抵抗の言葉を言ってみるものの相手は聞く耳を持たない。どうしよう。
そんな時、
「その子の手を離して貰おうか」
どこからともなく救いの声が聞こえてきた。