プロローグ(仮)
オヤジの何が凄かったかと一般庶民の方々に聞けば、大抵の人は「揺ぎ無い正義の心」とか「世界の平和を守った所」とか、まぁ8割がたアクビが出るほど退屈で、ありきたりな感想をキラキラした瞳で語る訳なんだけど、その「すーぱーひーろー」なんてもんで、飯を食い散らかしてきたダメ人間を、間近で一部始終観察してきた息子の俺から言わせれば、オヤジに心酔してる人は、宗教とかそういう悪質なに騙されやすいから気をつけた方がいいと思う訳でさ。
「おい、新入りィ! ぼさっとしてんじゃねーぞ!」
「あ、はい」
「あ、はいじゃねーよ! 『キキィ』だろうがよ! テメー自分の立場理解出来てんのかよ?」
「キキィ!」
「本当、手下戦闘員一つ満足に出来ないんだから、今時のゆとりバイトは根性ねーよな! な!?」
この人は、暗黒組織きっての智将とか言われてる割にはやたらと体育会系だから困る。んで困るついでに言えば、な?とか同意を求められても困るし、何がキキィ!だ。とか、俺思っちゃう訳なんだけど、これも仕事だからしょうがないのだ、と、目の前に居る一つ目大幹部ヒトツーメ様に、愛想笑いする俺。
まぁ、愛想笑いって言っても、俺の顔もインチキハロウィン宜しく的な安い覆面に覆われてるんだが。
でも、正直言えば、こんな真夏の照り付ける日差しの中で、全身タイツに身を包んで、寄ってたかってボコられる役回り、仕事でもやってらんねーんだよな。時給900円だし。
「おら、着たぞ野郎ども! 正義の味方さまのご到着だ!」
「は・・・キキィ!」
「覇気ィ!? 覇気が足りねーのはお前自身だろうが!」
とまぁ、こんな何時も通りの会話を切り裂くように、物凄いカラフルな煙を撒き散らしながら、俺を含めて50人前後のモブタイツと、ヒトツメ大幹部さんのいる工事現場へと猛然と突っ込んでくるのは、とんでもねーカラーリングの深紅のバイクだ。
流石に、昔ヤンチャしてた時の愛車をそのまま使い回してるだけあって、今日も赤マスクさんの愛車はビカビカで、時速100キロ前後のご機嫌な速度で俺らの方へと直進してくる。
ブォン ブォン ブォン!
ブォン ブォン ブォン!
ブォン!ブォン!ブォン!ブォン!ブォン!ブォン!ブォン!
車体を見せびらかすように火花を散らせながら横向きで滑り込ませた、DQN丸出しの深紅の改造バイクから、轟くような三、三、七拍子をふかした後、高〇クリニックのCMばりに足を上げて愛車から降りるレッドさん。
「今日と言う今日は、絶対に許さんぞ! 悪の組織キラ族め!」
「貴様は誰だ!」
「よくも、平和を乱してくれたな! 化け物どもが!」
「貴様は誰だ!」
「特に、お前! 4人の大幹部の中でも組織一と言われるキレ者、ヒトツーメ! 許さん!」
「貴様は誰だ!」
「日本の平和を乱す輩は、この俺が許さんぞ!」
「貴様は誰だ!」
「行くぞ!」
「貴様は誰だ!」
「ゥオオ!『貴様は誰だ!』・・・特別地球防衛戦隊、東京支部所属、カラーレッド参上!」
「何ィ!」
「行くぞ! ウォオオオオ!」
うわー会話酷いなコレ。『何ィ』じゃねーだろ。グダグダじゃんか。事前に打ち合わせしとけよなぁ。
銭金勘定ばかり先行してるから可笑しくなるんだよ。
今、こうして地方のローカルTV用の番組で、殴られ屋まがいのプロレスごっこで小銭稼ぎしてる30人の子孫と20人の雇われバイトの姿を観て、当時に戦死したエリートキラ族のご本尊様は何を思うんだろうか。 ・・・十中八九、目から涙がキラ族だろうな。
まぁ当然か。当然だよな。60年前にキラ族が『ガチ』で地球侵略にきたのも、今や昔の大昔だもんな。 マッチポンプを裏方で仕組んで、稼ぎに稼いだ成金野郎である俺のオヤジと80年代の2代目キラ族、いわゆるバブル世代のシワ寄せなんだし、一概に今時の若いもんはと、嘆かれてもこまるんだけど。
でも、流石にここまで落ちぶれちゃうと、可哀そうな気もするね。てか、その正義の味方の息子がバイトでキラ族の手先とかしてる時点で、俺も人の事いえねーんだけどな。
ただ誤解が無いようにいっておくと、俺がキラ族の手下になったのは金だけが理由じゃないんだよな。
この俺、火室 恭介が16才の淡い青春を賭けてまで、安い給料でこき使われるのは壮大な理由があるんだよね。
それが何かと聞かれりゃさ、ハッキリ言わせていただきますよ。
まぁ、恋だよね。
続く!
小説というモノを書いた事が無いので、
地道に勉強しながら書いていこうと思います。