覚醒①
月明かりの照らす閑静な住宅街。
誠は尻餅をつき、月を見上げていた。
いや、正確には月を見上げていたのではないだろう。
誠の目の前に男が背を向けて立っていた。
長身で肩まである銀色の髪、黒いコートを着て手には血塗られた刀が握られていた。
刀の先から血がポタッポタッと垂れる。
そして、銀髪の男の目の前には、腰のあたりで真っ二つにされた死体が転がっている。
死体から流れ出た真っ赤な鮮血を月明かりが照らし、血に映る月は真っ赤にそまり、不気味に輝いている。
「戒厳令が出ているはずだが?」
銀髪の男はゆっくり振り返り、誠に近づいてきた。そして、誠を見下すように睨む。
誠は銀髪の男の放つ殺気で立つことができず、尻餅をついたまま後ずさるが、ブロック塀に行き詰った。
「・・・・」
誠は恐怖で声が出なかった。
「・・・ちっ!! 余計な仕事を増やしやがって・・・」
頭を掻きながら銀髪の男はぼやく。
そして刀を頭の上で構えた。
「・・・悪く思うなよ? 戒厳令が出てるにもかかわらず外に出ているからだ」
銀髪の男は冷たくそう言い放って柄に力を入れる。
そして刀を振り下ろそうとした次の瞬間・・・
「ぐぎゃぁあああああああああああああああああああああ」
誠の心臓が飛び上がった。しかし、銀髪の男は刀を構えたまま微動だにしない。
誠が叫び声の方向をみると、先ほど真っ二つにされ無残な姿で放置されていた「それ」だった。
人間でも動物でもない。この世のものとは思えない姿の怪物が、手を足代わりに上半身だけで立っていた。
「キ・・きさマ!! 許さんゾ・・・ 殺ス!!」
怪物はそう叫び、無防備な銀髪の男に襲いかかる。
両手を器用に使って走り、銀髪の男に飛びかかった。
「はぁ・・・ 何度も言わせるんじゃねぇ・・・! 余計な仕事を・・・」
「増やすなぁ!!!」
銀髪の男は怒声と同時に振りかえり、怪物を横に一閃した。
そして、すかさず怪物の頭から下にかけて刀を振り下ろした。
しかし、銀髪男は斬るのをやめず、四方八方から切り刻んだ。
怪物の肉片が宙を舞い、グロテスクな音と同時に地面に叩き付けられた。
誠はその光景を見て嘔吐した。常人の正しい反応だ。
誠が荒く呼吸をしていると、銀髪の男が近づいてきた。
銀髪の男は再び刀を構えた。
「これで終いだ」
銀髪の男は冷たく言い放ち、刀を振り下ろした。
それと同時に誠の意識は途絶えた。