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セシルの謝罪

「アルバート殿、無礼な発言をしたことお詫びいたします。大変申し訳ありませんでした」


「いえいえ、僕自身が驚いたくらいですから。どうか気にせずに頭を上げてください、セシル殿」


セシルが深々と頭を下げると、僕は苦笑しながら頭を振った。


僕達がいる場所は、さっきまでいた部屋とは別室で天井に青空が見える大穴は空いていない。


魔力水晶が空で爆発したことで、デュランベルク公爵邸とその周辺は一時大騒ぎとなった。


屋敷の人達が集まった時は、なんて説明したらいいんだろうと、僕は困ってしまったけど、ソフィは集まった彼等に向かって驚きの一言を放った。


『気にするな。セシルとちょっとした姉弟喧嘩をしただけだ』


『……姉弟喧嘩、でございますか?』


執事らしい人が困惑しながら聞き返すと、ソフィはこくりと頷いて凄んだ。


『そうだ、姉弟喧嘩だ。さっきの爆発はそれ以上でもそれ以下でもない。悪いが天井の穴を塞いでおいてくれ。それと身内の恥となる故、この件は他言無用だ。よいな』


『か、畏まりました』


巷で平民が貴族を皮肉って口ずさむ『男爵、子爵偉い。伯爵、侯爵偉い。偉きゃ黒でも白になる』ってやつだと、僕はソフィと執事のやり取りを呆然と眺めていた。


そして、部屋を移動して今に現在に至っている。


「ありがとうございます、アルバート殿。いえ、よければ俺もアル殿とお呼びしてもよろしいですか」


「は、はい。もちろんです」


僕が頬を掻きながら頷くと、同じ部屋のソファーに腰掛けていたソフィが「ふふ……」と噴き出した。


「セシル、掌返しが凄いじゃないか。お前は私とアルの契約結婚に反対じゃなかったのか」


「うぐ……そう意地悪を言わないで下さいよ。ソフィ姉様」


彼はたじろぐと、小さなため息を吐いた。


「魔力水晶が許容量を超えるなんて、見たことも聞いたこともありません。あれだけの魔力を持っておられるのです。エスタもレナ姉様も認めざるを得ないでしょう。もちろん、俺もです」


「まぁ、そうだろうな」


ソフィは不敵に笑って頷くも、何やら嬉しそうだ。


「しかし……」と、セシルが眉を顰めて切り出すとこちらを見やった。


「アル殿がこれだけの潜在魔力を秘めていたのにもかかわらず、どうして今まで気付かれなかったのでしょうか?」


「それは僕も……あ、いえ、私も気になります」


つい昨日、間違いなく僕は魔法はおろか魔力水晶が反応することもなかったのに。


「アル、ここには私達しかいないんだ。言葉崩してくれてかまわんよ」


「は、はい。ありがとう……ソフィ」


言い慣れなくて照れ隠しに頬を掻いていると、彼女はにやりと笑った。


「ところで、アルが今まで気付かれなかった理由はたった一つだろう」


「え……⁉ ソフィ姉様、心当たりがあるんですか」


セシルが目を丸くして聞き返すと、彼女はソファーから立ち上がって僕に近寄ってくる。


ど、どうしたんだろう。


困惑してどぎまぎしていると、ソフィは僕の顎をくいっと持ち上げた。


「私とこうして出会うためだよ」


「え、えぇ⁉」


僕がびっくりして後退ると、セシルの深いため息がきこえてきた。


「ソフィ姉様、真面目に教えてくださいよ。俺が魔力水晶の話をした時、あの時点で何か確証があったんでしょ?」


「はは、すまんすまん。まぁ、アルが相当な魔力を秘めているだろうとは思っていたよ。もっとも、魔力水晶の許容量を超える程とは想像していなかったがな」


「どうしてですか。僕達は、今日初めて会ったんですよ」


ソフィの言葉に僕は目を丸くして、思いがけず大声で聞き返してしまった。


今まで、誰も僕が相当な魔力を秘めているなんて考えた人はいない。


父上をはじめとする家族や周囲の人達、もちろん僕自身もだ。


「アル、その初めて出会った時に私は気付いたんだよ」


「えっと、それはどういうことでしょうか?」


意図が分からずに僕が首を傾げると、彼女は不敵に口元を緩めた。


「君との出会いは、魔動車との交通事故だったことは覚えているな」


「は、はい。事故当時のことはあまり覚えていませんけど……」


「実はあの時、魔動車はそれなりの速度が出ていたんだよ。急停止こそしたが、一般的に考えればアルはそれなりの怪我をしていただろう。しかし、アルは軽い打ち身程度だった。不思議と思わないか?」


「……言われてみれば確かにそうです」


深い相槌を打ったのはセシルだ。


彼は当時を思い出すように切り出した。


「考えてみれば、魔動車が急停止した衝撃はそこそこありました。にもかかわらず、アル殿はほぼ無傷と言っていいでしょう。ですが……」


「ですが……?」


セシルが意味深な言い方をしたので聞き返すと、ソフィが「そう、魔動車は全損した」と笑った。


「魔動車が全損⁉」


パッと見ただけだったけど、迫ってくる魔動車は大型で明らかに高級車だったはず。そ


れが全損したという驚きの事故状況を聞かされて目を見開くと、ソフィはこくりと頷いた。


「そうだ、全損だ。そして、その壊れ方は車体前頭部が壁に突っ込んだかのように潰れていた。あれは明らかにアルが展開したであろう魔障壁によるものだ。そうでなければ魔動車が壊れたことに加え、アルが軽傷で助かった合理的な理由がみつからん」


「なるほど。俺はアル殿が背負っていた荷物に突っ込んだせいだと、深く考えていませんでした。ソフィ姉様に言われてみると、確かにおかしな点ばかりですね」


「ふふ、そうだろう。それと、倒れたアルに駆け寄って介抱したとき、魔障壁の残滓を僅かだが感じたんだよ」


つまり、ソフィは出会ったときから僕に魔力があると気付いていた。


だから『アルを信じた私を信じろ』と言って勇気づけてくれたんだ。


だけど、どうしても説明がつかないことがある。


「で、でも、まだ気になる点があります」


「どうした、アル。私の説明では納得がいかないか?」


「いえ、ソフィの話で事故の状況は理解できました。僕に魔力があるといってくれた理由もわかります。ただ、僕は本当に昨日まで魔力がなかったんですよ。それがどうして急に……」


困惑していると、ソフィは「簡単なことだ」と微笑んだ。


「命の危機に直面したことで、アルは体の奥底に眠る魔力を無意識に引き出したのさ」


「そんなこと……本当にあり得るんでしょうか?」


「あり得ますよ、アル殿」


聞いたことのない話に僕が訝しむと、セシルが目を細めて頷いた。


「ご存じの通り、デュランベルク公爵領では魔族や魔物との戦いが絶えません。その折、命の危機に瀕した兵士達の中で、稀に魔力量が急激な成長をする者がおります。おそらく、アル殿もそうした切っ掛けが必要だったのでしょう」


「……まぁ、それだけというわけでもなさそうだがな。おおまかセシルの言った通りだろう」


「そっか、そうなんですね」


ずっと諦めずに努力してきたのは、無駄じゃなかったんだ。


ただ、方向性が間違っていただけで、僕には魔力があった。


嬉しさのあまりに目頭が熱くなって、頬を涙が伝っていく。


ハッとして服の袖で涙を拭いていると、ソフィが優しく抱きしめてくれた。


「だから言っただろう。私と出会っていないアルと、出会ったアルでは違った結果になると、な」


「はい、ありがとうございます」


お礼を告げても、彼女は僕が落ち着くまで離そうとはしなかった。



「アル、落ち着いたようだな」


「あはは、恥ずかしい姿をお見せして申し訳ありませんでした」


抱擁から解放されたけど、僕は気恥ずかしさから誤魔化すように頬を掻いた。


まさかこの齢になって、女性の胸の中で泣くなんて思いもしなかったからだ。


「さて、次の段階に取り掛かるぞ。アル」


「次の動き、ですか?」


僕が聞き返すと、彼女は不敵に笑った。


「アルを追い出したグランヴィス家に殴り込みだ」


「え……えぇ⁉」


物騒すぎる次の段階に、僕は目を丸くした。






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