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戦公女の婿取り ~婚約破棄された僕だけど、戦公女の異名を持つ公爵令嬢に婿入り(契約結婚)することになりました~  作者: MIZUNA
第二章

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レナ・デュランベルク

「レナ。さっきの門前での言動。いつも冷静沈着なお前らしくないぞ」


「も、申し訳ありません」


ソファーに腰掛けながら足を組んでいるソフィが足を組み直し、正面に睨みを利かせると、机を挟んで向かいに座るレナがびくりと肩を震わせた。


僕達が今いる場所はデュランベルク公爵領、公爵邸の来賓室だ。


公爵邸に到着して早々、ソフィの出迎えに集まっていた貴族達の面前でレナに『断固拒絶』された僕。


デュランベルク家に仕える周囲の給仕達がどよめき、家臣達がざわめく中、ソフィはレナの首根っこを掴み、僕、セシル、エレを連れてこの来賓室に直行。


ソファーにレナを投げ捨てるように座らせ、皆で机を囲む現在に至っているというわけだ。


「で、ですが、ソフィ姉様が王都で結婚相手を見つけて、あまつさえレオニダス王の承諾も得たって手紙が急に届いたのです。誰だって驚くのは当然ではありませんか」


「とはいえ、レナ姉様。いくらなんでも給仕や家臣達の面前で宣言するのはやり過ぎでしょう。あれでは、レナ姉様がエスタに付いたと……」


セシルが肩を竦めていると、レナは眉をぴくりとさせて「お黙りなさい、この役立たずの愚弟が」と鬼の形相となって机を激しく叩いた。


その衝撃が空気を震わせ、衝撃波となって部屋の壁と天井をきしませる。


「そもそも、王都に蔓延る悪い虫からソフィ姉様を守るため、貴方を護衛兼殺虫剤で同行させたのでしょう。にもかかわらず、変な虫を付けて帰ってくるなんて本末転倒ではありませんか」


レナはそう告げると、僕を横目でじろりと見やった。


鋭いどころか、殺意すら感じる眼差しだ。


僕がごくりと喉を鳴らして息を呑むと、セシルが机を叩いて身を乗り出した。


「俺が役立たずの愚弟で、護衛兼殺虫剤って。おまけにアル殿を『変な虫』扱いは酷すぎます。人のことをなんだと思っているんですか⁉」


「決まっているではありませんか。ソフィ姉様が神で、私と私が認めたのが人。あとはそれ以外の何かです」


自信満々に胸を張ってドヤ顔を浮かべるレナ。


セシルは開いた口がふさがらない様子で唖然とすると、ソファーに力なく腰掛けてがっくりと項垂れた。


「……そうでしたね、レナ姉様はそういう人でした。最近、エスタの件で鳴りを潜めていたので、すっかり忘れていましたよ」


「そうです、私は何も変わっておりません。セシル、貴方が腑抜けたんですよ」


鼻を鳴らし、そっぽを向くレナ。


セシルが怒ってくれたのは、とても嬉しい。


だけど、君も初対面の時に『小柄で女顔のちんちくりん』って僕の事を言ってたからね。


血は争えないというか、二人は間違いなく姉弟なんだと思う。


「……私の中にあった高貴なデュランベルク公爵家の印象が崩れていくわ」


「あ、あはは……」


エレの呆れ果てた様子の呟きに、僕は頬を掻きながら苦笑した。


歓迎される、とは思っていなかったけど、まさかここまで拒否反応を示されるとは思ってなかったなぁ。


「レナ、もうよさないか」


ソフィがため息を吐いて頭を振ると、エレを見やった。


「エレノア殿。貴殿は部屋の外に出て、誰も部屋に入れないよう見張っていてくれ。誰であっても私の許可無く、立ち入ることは許さんとな」


「……畏まりました」


遠回しな人払い、ということだろう。


エレは察した様子で席を立って会釈すると、「恐れながらソフィア様」と切り出した。


「私はもうエルマリウス侯爵家の令嬢でありません。アルバート様と、ソフィア様に仕えるメイドに過ぎません。他の方々への示しもあるかと存じます故、今後は『エレノア』とお呼びくださいませ」


「わかった。次からはそうさせてもらおう」


ソフィが返事をすると、エレは一礼して退室する。


室内には静寂が訪れるも、空気がピンと張り詰めて少し息苦しい。


「さて、レナにはまだアルと私の関係性で伝えていないことがある。いや、手紙には書き記せなかったと言った方がいいかもしれんな」


「手紙に書けなかった、ですか?」


彼女が首を捻ると、ソフィは懐から『とある書類』を取り出した。


「これは王都でまとめた私とアルの契約結婚についてまとめた『魔法契約書』だ」


「契約結婚、魔法契約書……⁉」


レナはハッとして目を見開くと、受け取った書類に目を走らせていく。


以前、契約結婚の条件を紙に書いて簡単にまとめたことがあるんだけど、ソフィがその内容を元にして『魔法契約書』に書き直しものだ。


僕はそこまでしなくていいと伝えたんだけど、ソフィが『これは双方のために必要なけじめだよ』と言って製作してくれたんだよね。


「この内容はつまり、ソフィ姉様とアルバート殿の結婚はあくまで偽り。レオニダス王や他貴族の圧力を撥ねのけ、エスタとの跡目争い勝ち抜くための策にすぎない。時期がくれば離縁するということですか」


「……まぁ、そういうことだな」


レナの確認にソフィがこくりと頷いた。


ずきりと胸が痛む。


でも、魔法契約書にあるとおり、僕とソフィは互いの利害が合致した契約結婚だ。


これまでのことも、状況に応じて『仲睦まじい夫婦』を演じたにすぎない。


そう、ソフィの僕に対する言葉や態度は、全て演技なんだ。


「そうだったんですね。ですが、ソフィ姉様。どうして先に手紙で教えて下さらなかったのですか?」


「レナへの手紙に書き記せば、エスタの息が掛かった間者の目につく可能性もある。こうしたことは一部の者しか読めない処置ができる魔法契約書もしくは口頭だけに留めるべきと判断したまでだ」


「なるほど、確かにそれはそうですね」


「レナであれば、書かずとも察してくれると思っていたのだがな」


「うぐ……⁉」


ソフィの言葉にレナが顔を顰めると、セシルがやれやれと頭を振った。


「大方、手紙を読むなり頭に血が上って、それどころではなかったんでしょう」


「お、お黙りなさい。セシル」


レナが声を荒らげると、ソフィが「それよりも……」と低い声で切り出した。


「アルは私がエスタを出し抜くための協力者であり、魔族に対する切り札となり得る存在だ。いくらレナが事情を把握していなかったとしても、先程までの無礼は看過できん。自己紹介と合わせ、アルに謝罪をすべきだろう」


「う……⁉」


ソフィに一瞥されると、レナは決まりの悪い顔でたじろぎながらこちらに振り向いた。


「……改めてレナ・デュランベルクです。契約の件を知らなかったとはいえ、断固拒絶は言い過ぎでした。申し訳ありません」


「いえいえ、気にしないでください。ソフィは、とても素敵な人ですからレナ様の心配も理解できますから」


深く一礼する彼女に頭を上げてもらうと、僕は威儀を正した。


「グランヴィス侯爵家出身、アルバート・グランヴィス改め、アルバート・デュランベルクです」


手を差し出すと、レナは顰めっ面だけど握り返してくれた。


「エスタを出し抜くための契約結婚ならしょうがありません。それと、ソフィ姉様と結婚した以上、私の名前は呼び捨てで構いません。敬称は不要です」


「あ、それなら俺のことも今後はセシルと呼び捨てでお願いします。アル殿」


「わかりました。改めて、これからよろしくお願いします。レナ、セシル」


一時はどうなるかと思ったけど、レナも事情は理解してくれたみたい。


今後、少しずつでも仲良くなれれば良いんだけど。


セシルとも握手を終えると、ソフィが「さて……」と話頭を転じた。


「ここ最近、エスタの動向はどうだった?」


「姉様が不在中に中立派の連中を引き込もうと、領内を駆け巡っているわ。魔族がいつ襲ってくるのかわからないのに呑気なものです。いっそ途中で魔族か魔物に襲われてくれれば、跡目争いなんて馬鹿騒ぎが収束するんですけどね」


「相変わらず手厳しいですねぇ。まぁ、俺も同意しますけど」


レナの返事にセシルが肩を竦めると、ソフィが「なるほど、ならば好都合だな」と頷いた。


「エスタが不在中の間に、手早くアルを屋敷の皆に紹介するぞ。そして、遅くとも一ヶ月後、早ければ数週間以内にせねばならんことがある」


「遅くとも一ヶ月後、早ければ数週間以内って。姉様、一体何をするつもりですか」


「決まっているじゃないか」


レナが首を捻ると、ソフィは肩を竦めてこちらを見やった。


えっと、デュランベルク公爵領に到着して一ヶ月以内にすると決めたことなんてあったかな。


ここ数日のやり取りに頭を巡らせるが、それらしい答えは見つからない。


すると、ソフィはにやりと不敵に笑った。


「私とアルの挙式だよ」


「え……? えぇ⁉」


僕達は揃って呆気に取られるも、すぐにハッとする。


レナは驚愕のあまりに目を見開き、セシルは唖然として目を丸くし、僕は呆気に取られて目が点となるのであった。






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