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戦公女の婿取り ~婚約破棄された僕だけど、戦公女の異名を持つ公爵令嬢に婿入り(契約結婚)することになりました~  作者: MIZUNA
第一章

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グランヴィス侯爵邸へ再び

「それにしても、アルは甘いな」


「姉上、この場合は優しいと言ってあげるべきですよ」


「セシル様の仰る通りです。ソフィア様」


「あはは……」


早朝、グランヴィス侯爵邸に向かう魔動車の中。


ソフィが小さなため息を吐いて口火を切ると、セシルとエレが続き、僕は決まりが悪くなって苦笑しながら頬を掻いた。


ライアスとの決闘に勝利し、グランヴィス侯爵家とも決別。


ソフィアの婿入りに必要な事後処理も終わったそうで、僕は明日の早朝に生まれ育った王都を離れ、デュランベルク公爵領に向けて発つ予定だ。


ただ、僕には一個だけ心残りがあった……弟のギルバートのことだ。


ライアスとの決闘後、彼が見せた言動。


過去のやり取りをいくら振り返ってみても、抱え込んだ闇なのか、ギルバートの本性なのか。


悩んだ末に判断が付かなかった。


『おそらく、あれは本性の類いだ。あの手の輩は、いずれ化けの皮が剝がれる。放っておけ』


ソフィに相談すると、彼女はこう言っていた。


でも、腹違いとはいえ幼い頃から一緒に育ち、血が繋がった弟だ。


いくらグランヴィス侯爵家と決別したと言っても、その事実は変わらない。


本当に闇を抱えているなら、今のうちに何とかしないと取り返しのつかないことになるかもしれない。


もし、あれが本性だとすれば、放置すればもっと大変なことになる気がした。


『ソフィ、ごめん。王都を発つ前にギルバートと会って、一度話をしておきたいんだ』


『わかった。だが、一人では行かせられん。私達も同行しよう』


僕の申し出をソフィは承諾してくれて、今現在に至っているというわけだ。


イルバノアは既に城から解放され、屋敷に戻っているらしい。


貴族の屋敷に出向くときは、事前に使者を出して予告するのが礼儀だけど、僕達との関係性から門前払いされる可能性が高い。


だから、今回はあえて事前通告をせずにグランヴィス侯爵邸に向かっている。


「ところで、エレは本気でデュランベルク公爵領に来るつもりなの?」


僕が話頭を転じて見やると、彼女は目を細めて即答した。


「当たり前です。父の不始末から所有していた領地は全て国に返還しましたし、私財は全て売り払いました。エルマリウス侯爵家は、もはや名前だけの存在。ここを追い出されたらアルバート様への慰謝料支払いのため身を売るか、行き倒れるかの二択しかありません。そうしろと仰るなら、そういたしますけど」


「いやいや、そんなことはしてほしいなんて思っていないよ。だけど、王都のデュランベルク公爵邸で働く選択肢もあったでしょ?」


「そ、それは……」


エレが口を尖らせ罰が悪そうに言い淀むと、セシルが咳払いをした。


「アル殿。王都はいま、エルマリウス侯爵家とグランヴィス侯爵家の醜聞で大騒ぎです。そして、エレノア様はその渦中の人物なんですよ。王都に残れば否応なしに好奇の目に晒され、場合によっては身の危険も考えられます。デュランベルク公爵邸で働くにしても、騒ぎが落ち着いてからが妥当でしょう」


「あ、そっか。それもそうだね。ごめん、エレ。気が付かなくて」


セシルの説明に合点がいって会釈すると、彼女は口を尖らせてそっぽを向いてしまった。


「そ、そうです。セシル様の仰る通りですよ。全く、アルバート様は人の機微に鈍感なんですから」


「うん、ごめんね。エレ」


「……そんなに真っ直ぐ謝らないでください」


彼女は何やら顔を赤らめて俯いてしまう。


すると、ソフィがあからさまにため息を吐いた。


「別にデュランベルク公爵邸で過ごし、外に出なければ好奇の目に晒されることもあるまい。何なら執事補佐、侯爵令嬢待遇の高給取りにしてやってもいいぞ」


「あ、それいいですね。ソフィもこう言ってくれているし、やっぱり、王都に残ったほうがいいんじゃない?」


執事補佐、侯爵令嬢待遇の高給取りだったら生活に困ることはないし、メイドよりは支払い期間も短くて済む。


さすが、ソフィは気が利くなぁ。


僕も見習わないといけない。


「ぐ……⁉ やっぱり、アルバート様は人の機微に鈍感過ぎます。そして、ソフィア様はわかっておられますよね」


「さて、何のことやらさっぱりだ。私は夫のアルと同じで、意外と人の機微に鈍感なのでな」


「あ、貴女という人は……⁉」


ソフィが肩を竦めると、捲し立てたエレはわなわなと震えはじめた。


どうして、この二人はいつも最後はこうなっちゃうんだろう。


半ば呆れて苦笑していると、セシルが「二人とも、その辺にしてください」と切り出した。


「グランヴィス侯爵邸が見えてきましたよ」


「あ、本当ですね」


言われて車窓から外を見やれば、グランヴィス侯爵邸が目に飛び込んでくる。


また此処を訪れることになるとは思わなかったけど、どんな結果になろうとも、訪れるのは今日が最後になるだろう。


僕はそんなことを考えながら、グランヴィス侯爵邸を見つめていた。



グランヴィス侯爵邸の門前に魔動車が停車して降りると、僕は異変を感じて首を傾げた。


「あれ、門番がいない」


「本当、物騒ですね。門も施錠されてないみたいですよ」


エレが手で軽く押すと、門が音もなく敷地内側に開いていった。


門前には、門番が必ず二人は控えているはずなのに。


周囲を見渡しても人の気配すら感じない。


「なんか妙ですね。いつもなら誰かしら庭仕事もしているから、早朝とはいえここまで静かではないはずなんですけど。それに、何か凄く嫌な感じがします」


全身に粘度の強い液体がまとわりついてくるような、そんな空気が奥に見えるグランヴィス侯爵邸から流れてくるような感覚がある。


僕がそう言うと、ソフィとセシルもグランヴィス侯爵邸を見つめながら眉間に皺を寄せた。


「……血の臭いがするな。セシル、お前も感じたか」


「はい、姉上。ごく僅かですが魔族の魔力も感じます。上手く隠しているようですが間違いありません」


「ま、魔族ですって。ここは王都のど真ん中ですよ⁉」


エレが目を見開くが、ソフィは眉一つ変えずに動じない。


「魔族にも隠密に長けた者はいる。だが、どちらにしてもデュランベルク公爵家の検問を突破してきたとなれば由々しき事態だ」


「そ、そんな……⁉」


ソフィの発する言葉の重みに、エレは只事ではないと察して青ざめてしまった。


「た、助けて。誰か助けてください⁉」


突然、悲鳴のような声が響きわたる。


ハッとしてみやれば、屋敷側からメイドが一人走ってきていた。


でも、彼女の姿を見て僕とエレは目を丸くする。


メイドの服が真っ赤に染まっていたからだ。


「やはり何かあったな。生存者だ、救出して情報を得るぞ」


「承知しました」


ソフィとセシルは気付くと同時に走り出し、僕とエレは我に返ってから走り出した。


一体、グランヴィス侯爵邸で何があったんだ。


ギルバートと父上、いや、イルバノアは無事なんだろうか。


頭の中で色んな情報と感情が渦巻くなか、ソフィアとセシルがメイドの元に辿り着く。


「大丈夫か」


「は、はい。ありがとうございます」


ソフィが声を掛けると、ほっとした様子でメイドは膝から崩れ落ちてしまう。


「……全て返り血のようですね。一体、何があったんですか?」


セシルが状態を確かめて尋ねると、メイドは青ざめて体を小刻みに震わせた。


「私に何が何だかわかりません。ただ、今後について話があるということで玄関前に集められたんです。そしたら、やってきたイルバノア様が『デザート』とか何とか言って、大蛇みたいな腕で皆を次々に丸呑みにしたんです。私は何とか逃げられたんですけど。多分、他の人はもう……」


「ギルは、ギルバートはどうなったの⁉」


僕の必死な声を聞くと、メイドはびくりとして頭を振った。


「わかりません。逃げるのに必死で、何も、何も分からないんです」


「あ……。そうだよね、辛いこと聞いてごめん」


メイドは逃げてきた道を振り返ると「う、うぅ……」と嗚咽を漏らし、俯いてしまった。


「そうか。ならば、君は尚更に生き延びなければならないぞ」


ソフィはメイドを優しく抱きしめると、赤ん坊でもあやすように頭を撫でた。


「だが、ここは危険だ。門の外に私達が乗ってきた魔動車がある。あれに乗って、城に出向き魔族が王都に現れたと陛下に報告するんだ」


「ま、魔族……⁉ イルバノア様が魔族だったと仰るんですか」


「それはわからない。魔族にも色々な奴がいるからな。それよりも、エレノア殿」


ソフィはメイドの言葉を受け流すと、エレに視線を向けた。


「は、はい。何でしょうか」


「君はメイドと一緒に城に行ってくれ」


「で、でも、アルバート様とソフィア様達はどうするんですか⁉」


「決まっている。魔族が出たならば、退治するまでだ。それがデュランベルク公爵家の役目だからな」


さも当然のようにソフィは答えると、こちらを見やった。


「アル、君の力を貸してくれるか」


「……⁉ 勿論です。僕の力であれば、いくらでも使ってください」


「ありがとう。頼もしいよ」


ソフィはふっと口元を緩めると、エレを見やった。


「敵の規模がわからない以上、勝敗は応援に掛かっているやもしれん。城に急いでくれ」


「わ、わかりました」


エレはごくりと喉を鳴らして息を呑むと、血まみれになったメイドに「ほら、急ぎましょう」と声を掛けて一緒に魔動車に向かって走り出した。


彼女達の背中を見送ると、ソフィは少し離れた場所にある屋敷を睨み付けながら腰の帯剣を抜剣した。


「前衛は私とセシルだ」


「承知しました」


セシルは動じず、彼も腰の帯剣を抜剣した。


「経験の浅いアルは、私達の後を少し離れて追ってくるんだ。奇襲された時は魔剣で援護を頼む」


「は、はい。了解しました」


僕は帯剣している魔剣の柄を握った。


緊張しているせいか、手汗が嫌というほど滲み出ている。


「よし、いくぞ」


ソフィが掛け声と共に走り出すと、セシルが併走する。


その後を、僕が追っていく。


イルバノアは、つい先日まで間違いなく人間だったのに。


それが今や魔族だなんて、この短期間で一体何があったというんだ。


そして、ギル。


もし、叶うならどうか無事でいてくれ。


君には、まだ聞きたいことが沢山あるんだ。






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