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戦公女の婿取り ~婚約破棄された僕だけど、戦公女の異名を持つ公爵令嬢に婿入り(契約結婚)することになりました~  作者: MIZUNA
第一章

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グランヴィス侯爵邸の惨劇(※別視点)

「くそ、どうしてこうなった。このままではグランヴィス侯爵家は終わりだ」


グランヴィス侯爵邸の執務室では、当主イルバノアが執務机の椅子に腰掛けて頭を抱え込んでいた。


また、机の上にはここ数日の新聞が乱雑に置かれている。


イルバノアの転落は数日前、嫡男にして『できそこないの落ちこぼれ』である『アルバート・グランヴィス』を跡目から外し、辺境で隠居するよう命じた日から始まった。


隠居を命じたその日のうちに屋敷から追い出したアルバートだったが、何がどうして王族に次ぐ影響力を有する『デュランベルク公爵家』の長女にして戦公女の異名を持つ『ソフィア・デュランベルク』と事故を通じて出会い、ソフィアに見初められたという。


挙げ句、その日のうちにグランヴィス侯爵邸を訪れ、支度金一億ルドを現金で一括払いしたのである。


当初、アルバートがソフィアを引き連れてとんぼ帰りして来た時は、そんな馬鹿な話があるか、とイルバノアは訝しんだ。


しかし、アルバートの本心はわからないが、少なからずソフィアがアルバートに好意を抱いていることは察せられた。


何せ、二人はイルバノアを前にして接吻を見せつけてきたからである。


デュランベルク公爵家で起きている跡目争いは、王都でも有名であったため『後腐れのないアルバートを利用するつもりなのかもしれない』とイルバノアは考えた。


そして同時に、デュランベルク公爵家でアルバートが貢献すれば、ソフィアに『貸し』も作れる。


返事は保留しているが、彼女の対抗馬である『エスタ・デュランベルク』から秘密裏に協力を要請されていた。


アルバートとソフィアの結婚。


エスタ・デュランベルクの協力要請。


これらの状況を活用できれば、立ち回り次第でソフィア、エスタ陣営それぞれと縁を作り、デュランベルク公爵家の跡目争いを裏で手を引くことも可能かもしれない……イルバノアにはそうした考えも脳裏に過っていたのである。


立ち回るのが難しいとなれば、婿入りさせたので知らぬ存ぜぬを突き通し、アルバートを切り捨てれば良いだけだ。


加えて支度金は異例の一億ルドだ。イルバノアにとって、まさに『捨てる神あれば拾う神あり』だった。


上手く事が進めば、グランヴィス侯爵家がさらに飛躍できるはずだったのだが、事態は急変する。


支度金を現金一括で払った翌日、根回しをする前にソフィアがアルバートを連れてカルドミア王国の最高権力者であるレオニダス王に謁見を求め、結婚を宣言したのだ。


レオニダス王が王家に次ぐ影響力を持つ『デュランベルク公爵家』に首輪を付けたがっていることは貴族内では有名な話だった。


跡目争いに乗じて、ソフィアと王族を結婚させる企みをレオニダス王が考えているという噂もあったのだ。


イルバノアとしては、アルバートが『できそこないの落ちこぼれ』であることを理由にソフィアの結婚相手に相応しくないと、最悪逃げ切る算段を付けていた。


だが、どういうわけかアルバートは『覚醒』して魔力を得ていたのである。


レオニダス王から預かった魔剣でアルバートは城の一部を破壊し、これでもかというほどの力を示した。


結果、イルバノアは『優秀な嫡男を自ら捨て、陛下の思惑に背き、戦公女にも唾を吐いた救いようのない愚か者』と貴族内で陰口を叩かれ、城の莫大な修繕費を背負う羽目になったのだ。


だが、彼の不幸は終わらない。


アルバートが力を示した際、イルバノアは言動の品位を疑われ一時、城内に拘束されていた。


数日後に解放されて表に出てみれば、イルバノアの失態だけに留まらず、後妻だったセラとライアス侯爵の不貞まで表沙汰になっていたのである。


二人の不貞は知っていたが、イルバノアはあえて知らない振りをして放置していた。


いざとなれば、その事実をライアスに突きつけて莫大な慰謝料を請求するつもりだったからである。


「……おのれ。こうなったのもアルバートのせいだ。あやつが最初からあれだけの才能を示していれば、ギルバートを跡目にすることもなかった。アルバートを嫡男として育てればいいだけだったのだ。くそ……⁉」


イルバノアは力の限り執務机を叩き、怒りを露わにする。


しかし、残るのはむなしさだけだ。


「落ち着け、まだ挽回できる機会はあるはずだ」


彼は席を立ち上がり、棚に置いてあった酒瓶を手に取るとグラスに注いで呷った。


するとその時、扉が叩かれる。


「父上、俺です。入ってもよろしいでしょうか」


「ギルバート、か。構わんぞ」


「失礼します」


イルバノアが返事をして間もなく、ギルバートが部屋に入ってくる。


ギルバートは普段から笑顔を崩さないが、イルバノアはその笑顔が今日は腹立たしく感じた。


酒瓶とグラスを机に置き、イルバノアはどさりと椅子に腰掛けた。


「何のようだ。セラの葬儀をしたいなら、お前で勝手にしろ。私は他の事で忙しい」


「はは、そう棘のある言い方をしないでくださいよ。実は今日、城に行ってきたんです」


「城、だと? 何故だ」


「ライアス侯爵に会ってきました」


あっけからんというギルバートに、イルバノアは目を見開いた。


「ライアス、だと⁉ 貴様、奴とセラのせいでグランヴィス侯爵家は大恥を掻いたんだぞ」


イルバノアは手近にあった新聞を手に取ると、ギルバートに思いっきり投げつけた。


「だからですよ、父上。ライアス侯爵と母上にはちゃんと、その責任を取ってもらいましたから安心してください」


「責任だと? 馬鹿馬鹿しい。セラは死んだ。エルマリウス侯爵家はお前との婚約を破棄したエレノアが私財全てを賠償金、慰謝料などの支払いにあてた。いまさら、ライアスが取れる責任などありはせん。いったい、どんな責任を取らせたというのだ」


イルバノアが鼻で笑うと、ギルバートはにこりと微笑んだ。


「二人には命……いえ、力をもらったと言えばよいでしょうか」


「力、だと? 訳の分からないことを言うな」


「父上。もし、俺が現状を打破できるとっておきの方法を持っているとしたら、どう思いますか?」


「お前に、現状を打破できるだと? 面白い、やれるものならやってみるがいいさ」


「わかりました」


肩を竦めるイルバノアを前に、ギルバートは踵を返して執務室の出入り口である扉の鍵を締めた。


「……? 何をしているんだ、ギルバート」


イルバノアが声を掛けるが、ギルバートは背中を向けたままである。


「いえ、誰にも邪魔されたくないもので」


「邪魔? いったい、なんの邪魔になるんだ」


「こういうことですよ、父上」


ギルバートが振り向いて右手を差し出したその時、手が大蛇のような異形となってイルバノアに襲いかかった。


「な……⁉」


あまりに突然のことに虚を突かれ、イルバノアは魔法を使う間もなく異形の手に拘束されてしまう。


「父上は常々言っていましたよね。魔力こそ、魔法こそ全てだと。俺も全く同感です。でも、人には生まれ持った才能。そして、どうしたって限界がある」


「ギルバート……⁉ お前、一体、何を言っている⁉」


イルバノアが必死に凄んでも、ギルバートは意に介さず目を細めたままである。


「だから俺は進化したんです。魔族を取り込んでね」


「魔族を……取り込む、だと⁉」


「はい、その通りです。そして、父上は知っていますよね。魔族が人を喰らう理由を」


ギルバートの意図を察し、イルバノアは血の気が引いた。


魔族が人を喰らう理由は、魔力を豊富に持つ人を喰らうことが『手早く、強くなれる』からである。


「お前、セラとライアスを……⁉」


「えぇ、ライアスはどうか知りませんが、俺の中で母上は喜んでいるみたいです。さぁ、父上も俺の糧になってください」


「や、やめろ。やめろぉおおおおおおおお⁉」


ギルバートの異形となった手に大蛇のような頭がみるみる出来上がると、その口が大きく開かれた。


イルバノアは必死に抵抗するもむなしく、頭から呑み込まれてしまう。


「安心してください、父上。ちゃんとグランヴィス侯爵家の名は後世に語り継がれますよ。俺の悪名と一緒にねぇ」


ギルバートがお腹をさすりながら大声で笑っていると、部屋の扉が叩かれた。


「旦那様、どうされましたか。旦那様」


ギルバートはにやりと笑うと、咳払いをした。


「その声は執事か」


彼の発した声は、イルバノアの声そのものだった。


「あ、ご無事でしたか。突然、叫び声が聞こえたもので心配いたしました」


「それはすまなかった。それよりも、今後の事で屋敷の者達に伝えたいことがある。全員、今すぐ玄関前の広間に集まるよう伝えてくれ」


ギルバートが扉を開けると、執事はハッとした。


そこには普段、全く見ることがない笑顔のイルバノアが立っていたからである。


「か、畏まりました。それではすぐに手配して参ります」


「うむ、頼むぞ」


扉を閉め室内に戻って耳を澄まし、廊下の足音が聞こえなくなるとギルバートは口元を緩めて舌なめずりをした。


「さぁ、メインディッシュの後はやっぱりデザートだよねぇ」






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