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戦公女の婿取り ~婚約破棄された僕だけど、戦公女の異名を持つ公爵令嬢に婿入り(契約結婚)することになりました~  作者: MIZUNA
第一章

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アルバート、断絶の一刀

「良いだろう、そこまで虚仮にするなら私の本気を見せてやる。誘導魔弾・嵐式【ガイデッドストーム】」


ライアスが叫ぶと魔波が吹き荒れ、先程とは比べものにならない魔弾が飛んでくる。


でも、数が多いだけで、さっきと一緒か。


なら、同じ要領で魔弾を爆発させ、誘爆させればいいだけだね。


僕は訓練場を駆け走りながら、石を拾って魔弾の爆発と誘爆を連続で起こしていった。


石が拾えないときは避けて石を拾う時間を稼ぐだけだ。


全ての魔弾が消えると、僕は足を止めて額の汗を拭って「ふぅ……」と一息ついた。


さすがにこれだけ動き回ると、少し暑くなっちゃうな。


「あ、あれだけの魔弾を、全て石ころで処理しただと……⁉ 馬鹿な、誘導魔弾・嵐式はエルマリウス侯爵家に伝わる最上……」


「ライアス殿、手加減はもういいですよ。魔力を得られても魔法が使えない僕が、魔法の名家と名高いエルマリウス侯爵家当主に簡単に勝てるとは思っていません。ですが、魔法契約書を用いた決闘である以上、僕は正々堂々と勝ちたいんです。さぁ、ライアス殿が扱える最上級魔法を使ってください」


「な……⁉ が、ぐぐぐうぐぐ……⁉」


ライアスは目を瞬くと俯き、何やら両手を拳にして小刻みに震え始めた。


さぁ、ここまで一般魔法で手加減してくれていた彼だけど、ここまで言えばさすがに最上級魔法を使ってくれるはずだ。


僕の勝ち筋は立った一つだけあるんだけど、その前にライアスの動きを鈍らせる必要があった。


避けることには少しだけ自信があったから、これとソフィの秘策を組み合わせれば勝てるはず。


「ふ、ふふふ。いや、そうか、私はなんと愚かだったのか……」


急にライアスが笑みを溢すと、こちらを見やった。


「アルバート君。ここまで私の魔法を避け続けたこと褒めてあげよう。素晴らしい、君は決して『できそこないの落ちこぼれ』ではなかった。ソフィア殿は正しく、イルバノア殿と私の判断は間違っていたようだな」


「……それはどうも」


僕は眉を潜め、怒りで叫びたい気持ちを必死におさえた。


『君はできそこないの落ちこぼれではなかった』


『ソフィは正しい』


『イルバノアとライアスの判断は間違っていなかった』


これは全て皮肉で嘘だ。


『君は結局、できそこないの落ちこぼれなんだよ』


『ソフィアの目は節穴だ』


『君を見限ったイルバノアと私の判断は正しい』


ライアスの言いたいことは、こういうことだろう。


だけど、ここで挑発に乗ってしまっては全てが水泡だ。


「そんな君にご褒美だ。三分あげよう。君が変わったというのなら、私に魔法で一撃を与えてみなさい」


「は……?」


ライアスは余裕の笑みで両手を大きく広げた。


これってつまり、『アルバート君、がっかりしたよ。君は結局のところできそこないの落ちこぼれから何も変わっていない。三分上げたところで、私に傷一つ付けることはできない』ということか。


「本当に一撃与えていいんですか」

 

この人、一体何を考えているんだ。


身構えながら睨みを利かせるも、ライアスは動じない。


「あぁ、構わないよ。ソフィア殿とセシル殿が正しかったと、証明したまえ」


『貴様の一撃など、恐れるに足りん。ソフィアとセシルの判断が誤っていたと、君ができそこないの落ちこぼれであることを、私が証明しよう』ということか。


僕のことは、いくらでも馬鹿にしてくれて構わない。


でも、信じてくれたソフィ達を馬鹿にすることだけは絶対に許せないんだ。


「わかりました。では、お言葉に甘えましょう」


「エルマリウス侯爵家の名に誓って、君の一撃を受け止めよう。さぁ、魔法を撃ってみるがいい」


名に誓って一撃を受け止めるだって。


大したことないと思って、大袈裟に構えてどこまでも馬鹿にしてくる人だ。


「……いきますよ」


僕はゆっくりと腰の剣に手をやった。


そして、腹の底で煮えたぎっていた怒りを爆発させ、一気に魔力を剣に流し込んだ。


すると、剣と鞘の古びた装飾がまばゆい光を放つ。


「な、なんだ。その光は……⁉」


ライアスは目を見開くと、助けを求めるように場内で立つ審判役のソフィとセシルを横目で見やった。


もしかすると、彼の演技に熱くなりすぎたかもしれない。


決闘を止められるのかもと、ちらりと一瞥するが二人は眉間に皺を寄せているだけで何も言ってこない。


「姉上、あれは玉座で見せた……⁉」


「おそらく、あれこそがアルの真の力なんだろう」


「真の力……⁉」


「そうだ。どうして、あれほど巨大な魔力を秘めているのか。何故、今まで覚醒できなかったのか。誰も気づけなかったのか。謎は多いが、これで二度目だ。アルの激情が頂点に達した時、魔力が呼び起こされると見て間違いない」


「まさか、それを確かめるためにこの決闘を……?」


「さてな。だが、これではっきりした。魔剣の真価を引き出せるのは、巨大な魔力を秘めるアルだけだ」


二人は何やら話しているようだけど、よく聞こえない。


僕の視線に気付いたのか、ソフィが不敵に笑った。


「アル、この件は一任すると言った。自分の手でけじめをつけろ」


「……⁉」


そうだった。


僕は彼女の前で『けじめをつける』と宣言したんだ。


だからこれは、僕が自分自身の手で決着をつけなければならないんだ。


「ふふ、ふふふ。ふはっはははははは、ぬははははははは」


突然、ライアスが大声で笑い始めた。


「襲ってこないところを見ると、どうやら、その光はただの虚仮威しのようだな。大方、私が降参するよう仕向けるため、ソフィア殿が考え、セシル殿が調達したんだろう。二人の口車に乗ってエレノア如きのため、私に言われるまま魔法契約書に血判したとはね。アルバート君、やはり君はただの愚か者だったようだ」


エレは実の娘だろうに。


彼女がエルマリウス侯爵家のため、どれだけ影で努力していたかを僕は知っている。


それを『如き』と虚仮おろすなんて、父親が絶対しちゃいけないことだ。


それとなく見やれば、場外に立つエレの目から涙がこぼれ落ちて頬を伝った姿が目に飛び込んでくる。


その瞬間、僕の中で渦巻いていた激情が一気に膨れ上がった。


「ライアス侯爵、いや、ライアス。僕は貴方を許さない。この期に及んでエレの心を抉り、セシルを愚弄し、ソフィを侮辱した。僕は決して……断じて許せない」


僕の感情に呼応したのか魔力が全身から溢れ出し、凄まじい魔波が吹き荒れる。


「さらに光が増し、魔力が高まった、だと。いや、ちょっと待て。まさか、そんな馬鹿な……⁉ その剣は陛下の、どうしてお前がそれを……⁉」


「僕の心と魔力が呼応する、今ここに烈煌【れっこう】の魔剣を解き放つ」


抜剣して上段に構えると魔波が吹き荒れ、巨大な烈煌の刃が生成されて天を突いた。


「お前との縁もここまでだ、この一刀で全てを断ち切る。決意と覚悟と断絶の……ラジアントソォォォォォド」


僕が魔剣を上段に構えたまま勢いよく跳躍すると、ライアスは目を見開いたままたじろいで後ずさった。


また演技か、はたまた何か秘策があるのかもしれない。


でも、僕はこの一太刀に全てを掛ける。


「お前が求めた渾身の一撃だ、受けてみろぉおおおおおお」


「わ、私が求めた渾身の一撃だと……⁉ い、一体何のことだ⁉」


白々しい言葉、迫真の怯えた演技が僕の心を苛立たせ、追い打ちの如く怒りが爆発する。


ラジアントソードは僕の心と呼応して烈煌はその輝きを増し、刀身は伸び、更に巨大になっていく。


「まだ白を切るつもりか⁉ ライアァアアアアアス!」


「馬鹿な……⁉ 馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、そんな馬鹿な。アルバートは間違いなく『できそこないの落ちこぼれ』だった。こんな魔剣を生み出せるはずが……⁉」


上段に構えた魔剣を振り下ろすと地上に魔波が吹き荒れ、砂煙が舞い、魔圧で地響きが轟いた。


そして、天を突く巨大な烈煌の刃がライアスへと襲いかかる。


「く、くそぉぉぉおおおお⁉」


ライアスは無数の魔弾を放つが、全て烈煌の刀身に飲み込まれて掻き消された。


「やっぱり余力を残していたな。だけど、エルマリウス侯爵家当主がこの程度で終わるはずがない。全力を出せ」


僕が怒号を吐き捨てると、ライアスはたじろぎながら尻餅をつき、その場にへたり込んでしまう。


間近に迫る魔剣を前に、まだ怯える演技を続けるなんて、往生際の悪い役者だ。


「だ、駄目だ。魔法の規模が、魔力の桁が違いすぎる。こんなもの、どう防げというのだ。く、くるな、死にたくない。アルバート君。いや、アルバート様。どうか許してくれ、私が悪かった……⁉」


アルバート様、だって。


まだ馬鹿にしてくるなんて。


本当に、本当に勘に触る男だ。


「言ったはずだ、ライアス。僕はお前を決して……断じて許せない。これで、終わりだぁああああ」


「う、うわぁああああああああああ⁉」


魔剣の刀身が大地と触れた瞬間、まばゆい輝きが放たれ、爆音が轟き魔波が吹き荒れる。


次いで、立ち上がった砂煙と爆煙に瞬く間に訓練場が覆われた。






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