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貴方、微睡っこしいわね。私と早く付き合いたいと言いなさいっ! 〜女神の様な君は焦れったい〜

作者:

「ごめんなさい千隼(・・)君。私他に好きな人がいるんで。 それに千隼君って私の外見しか見てくれてないし。 私の事誕生日とか趣味とか何も知らないよね?」


「駄目なのか? これから知っていくじゃ」


「はぁ~。 ごめんなさい。じゃあね千隼君」


 校舎裏に呼んだ一組の恵ちゃんに告白を大きな溜息と共に断られ、俺は小学校から数えると通算20回目の失恋をこうして迎えた。


「おめでとうっ!!」

「記録更新おめでとう千隼。 高校2年になっても記録更新中だな!!」


 そう言って裏から出てきて面白可笑しく祝福してくれたのは俺の友人の加藤と石川だ。こいつらとは小学校からの付き合いと長い。


「……なんで俺じゃダメなんだ」


「千隼だからじゃないかな」

「勢いだけじゃ女子とは付き合えねぇよ」


 勢いとはなんだよ。 人を好きになったらタイミングなんていちいち計ってられないし、今の気持ちをストレートに伝えるためにも勢いは大事じゃないのか。

 確かに2人には彼女がいる。それも1年以上長く付き合ってる彼女が。俺にはそれが羨ましくてたまらない。2人とスペックを比べても俺と何ら変わらない。それどころか勉強も体育の成績だって全然上だ。内心では負けてないと思っていたのだが、結論からいうと大きく差を広げられてしまっている。

 俺が思うに思春期に彼女がいるといないでは今後の人生で大きく違ってくると、この一ノ瀬千隼(いちのせちはや)は考えているからだ。


「恵ちゃんの内面を見てやれよ」

「そうそう。 内面を女の子は見てるからな。 自分に優しくしてくれる人なのかとか、気を使える人なのかとかさ。 お前がいくら面白い奴だからっていってもいきなりの告白じゃ無理だぞ」


「外見からじゃ駄目なのか? お前らだって外見から人を好きになることだってあるだろ?」

「千隼、それは誰だってそうだけど、内面も分からんのに付き合おうと女の子は思わんのだよ」

「それが分からないうちは千隼には一生彼女ができそうにないなぁ〜」


「そう……なのか」


 俺は肩を落とし、校舎裏から離れた。

 そんな事を言われても人を好きになる要素に外見だって大事じゃないか。

 順番がそんなに大事な事なのかよ。

 俺には2人の言っている意味がよく分からなかった。


 これが2人との差。彼女が出来ない理由は俺の世間一般から外れた価値観なのか。


 ふと校舎から出ようとすると、見たことのない女の子が校門に立っていた。


 制服からして同じ生徒だが。綺麗な顔。背中まで下りた長い髪はさらさらと(なび)いて輝いて見える。何よりも立ち姿だけでも気品が溢れていてとんでもなく可愛く美人だ。


 おい、おい、おい。 まじで女神でもいるのか。


 あんな綺麗な女の子がうちの学校の生徒にいるとは知らなかった。制服のバッジから2年生ではないな。

 俺達の高校では制服にバッジを着けている。

 1年は赤、2年は緑、3年は青というように

 当然2年の俺は緑だが、彼女がしているのは青だった。

 俺の一つ上の3年生か。なんとなくだが様子からすると誰かを待っているのだろうか。

 そうだよな。やっぱり彼氏なんだろうな。 あんなに可愛ければ他の男が他っておくはずがないか。

 俺は1日で2度振られた気分になって死ぬほど落ち込んだたが、現実を受け止めるしかない。

 彼女を横目に帰宅したが全くといっていいほど見向きもされなかった。当然といえば当然だがショックは計り知れなかった。


 翌朝、加藤と石川に聞いてみることにしたのだが


「それは大河内(おおこうち)美羽(みはね)さんで間違いないな」


「うんうん。間違いない。大河内さんっていったら3年間で他校も合わせると100人の男を振ったって噂の有名な人だよ」


「100人? 俺の20人なんかとは全然訳が違うな」


「馬鹿だろお前。お前は振られた側。 大河内さんは振った側。 全く立場が逆なんだよ。 お分かり?」


「あ。 はい、すいません……」


「だけど大河内さんて色々噂あるよね? 付き合って初日に別れたり、2日目に別れたとかさ。 今も彼氏いないみたいだし。 性格にでも問題あるのかな?」


「そうでもないぞ。 3年の女子達の間からは変な噂は何も聞かないからな。 少なくとも上手くやれてるんじゃないか? 問題は男にあるんじゃないのか」


「確かに千隼みたいに勢いで告白する奴はごまんといると思うけど、大河内さんてちょっと男からすると気軽に話しかけられるような人じゃないよね。高嶺の花っていうかさ。独特な雰囲気もあるよね。 でも別れた男からはその後寄りを戻したいって話も一切聞かないし、不思議だよね」


「あんな可愛いくて美人な人に彼氏がいないのか。 だったら俺にもチャンスがあるかもしれないな」


「千隼。 マジでやめとけって。 告白するだけ無駄だ」

「ダメだよ石川。 こうなったら千隼は振られるまで諦めないから……」


 俺は大河内美羽に恋をした。しかも今までで断トツ1番と断言してもいい。身体に電撃が走るほどの衝撃を確かに感じたんだ。

 だからこそ今度は2人を見習い、積極的に声をかけて恋が実るように行動に移そうと思った。


「大河内さんて、いつも下校時間が大分過ぎてからここにいますよね?」


 俺は一週間ほど大河内美羽さんの行動を見ていたが決まって生徒がいなくなる時間に合わせて校門に立つようにしているのが分かった。

 決してストーカーの類ではないよ。声をかけるためにタイミングを計っていたらそこに気付いただけだから。


「えっと、貴方は誰かしら? バッジからして2年生だと思うけど、私と面識でもあったかしら?」


「面識はないです。 俺は2年の一ノ瀬千隼です。いつも校門の前で立ってる大河内さんと話がしたくて声をかけました」


「あらそうなの? 私は特にないけど。 これでいいかしら?」


「はい……。 ってよくないですっ! もっと話がしたいんですよ俺は!」


「何故? 私と何を話をするっていうの? 政治の話? それとも最近この近くで起きたニュースで話題になってる怪奇殺人事件の事かしら?」


「どちらでもないっ! 貴方の話です!! それにそんな物騒な話をしても盛り上がらないでしょう」


「そうなの? 私は怪奇事件やミステリーは好きだったのだけれど残念だわ。 後、貴方は私の何を知りたいのかしら? 仮に私を知ったとして貴方はどうしたいの?」


「大河内さんともっと仲良くなりたいです。 友達からでもいいです。 貴方との仲を深めたいんです」


「そうだったのね。 私は特に貴方に興味ないのだけれど、皆私に寄ってくる男性は大体似たような事言うのよね」


「そう言われると月並みみたいで申し訳ないですけど、大河内さんは男性とその、付き合いたいって思わないんですか?」


「そうね。 勿論付き合いたいと思ってはいるわ。 でも貴方は私の何処を見て言っているのかしら? 容姿でしょう? 私の価値を言ってみてみなさい」


「えっと、その美貌に惚れました。 こんな事を言うのもあれですが一目惚れです。 初めて見た時に女神かと思ったくらいなんです!  外面からとか思われるかもしれませんが、この気持ちに嘘はないんですっ。死ぬ程好きになったんです。 だからこれから少しづつでもいいです。大河内さんと仲良くなっていきたいんですっ。だからお願いします」


「なるほど。 私の価値は美貌にあるってことね。 別に悪くないわ。 好きになるのに理由は人それぞれだもの。私はそれを否定する気はないわ」


「だったら俺もその、俺を彼氏候補としてこれから見て欲しいです」


「ええ。 貴方の言い分は分かったわ。 でも私にも譲れない事があるの。 私の彼に相応しい人物か否かを」


「だったら俺を試して下さい。俺を彼氏候補として一カ月でも一週間でもいいです。 一緒にいて貰えないですか?」


「貴方微睡(まどろ)こしい事言うわね。 男なら始めから付き合いたいと言いなさい」


「あ、はい。付き合いたいです……」


「私は付き合いたいと寄ってくる男には必ず聞いていることがあるわ。 私の外面しか見ずに言ってくるなら死んでも私を守るくらいの意気込みじゃないと私は付き合う気がないって。 寄ってくる男みんな貧弱で困っているのよ」


 何その含みのある台詞。 男性不信か過去にトラウマでも抱えているのか?少し怖いんですけど。

 だが、俺にそんな脅しは通用しないぞ。この想いはそんな脅し一つで取り消したりはしない。


「変わらないですよ。 死ぬ気で付き合う気でいます。一目惚れでも何でも俺は貴方が好きです」


「そう。 変わらないのね。 私も貴方の見た目嫌いじゃないわ。なら先ず私について来なさい」




「あ、ありがとうございます。 ……って、どういうこと?」


「貴方、私と付き合いたいと言ったわよね。 だから私と付き合いたいのなら私にも貴方を選ぶ権利があるわ。 だから先ずついて来なさいと言ったの」


「あ、ああ。 そういうことね。分かりました」


 そう言われて彼女の指を差した方を見るといつもの迎えにくる車が止まっている。国産車ではない事は分かるが、メーカーがどこかまでは分からない。ただの普通の車ではないとだけは分かる。おそらくあれは高級車なんだろう。


 いきなり車に2人でとか、どんな展開だよと俺は心の中で叫んだが、ここは大人しく言われるままに車に乗り込んだ。このチャンスを逃したくはないし、逃したらここで試合終了だよと自分に言われてるような気がしたから。


 暫くすると見慣れない通りに入り、俺は緊張していた事もあり車内から外の景色を眺めていた。 その間会話は一言もなかったが大河内さんはというと特に変わった様子もなく普段通りといった印象だった。いきなり二人で車移動とか鋼のメンタル過ぎるだろ大河内さんて。


「着いたわ。 ここが私の家よ」


「ここが、大河内さんの家?」


 見ると先が見えない程の高さの立派な(へい)が家の回りをぐるりと囲うように作られている。一体何坪あるかも分からないが奥にある家がさぞかし立派なことだけは瞬時に俺の頭の中でも想像はできた。


「これは……また立派な」


「家柄の差は私は気にしないわ。 私がたまたまこの家に生まれただけで私の実力じゃないもの。 それよりも私が気にするのはこの先どう生きるかよ」


 どう生きるかって……さっきから生きるとか死ぬとかって何なんだよ。彼女に死神か何かでも取り憑いているのか?


 大きな門を潜り、敷地に入ると待っていたかのように大男達が並んでいて、彼女に向かって声をかけてきたのだが


「「「 お嬢っ! お疲れ様っす! 」」」


「ええ。 今戻ったわ。 私の隣にいる彼を客間に通すわ。 大切なお客様だから決して手は出さないようにしなさい」


「お嬢の客人すか? このクソ坊主が?」

「ええ。 そうよ。 だから大切になさい」

「……うす (さっさと帰れよクソ坊主がっ)」


 大男にジロリと顔を見られて捨て台詞を吐かれたのだが。 ひえ〜。それになんだよその顔に付いた大きな傷跡は。

 マジですか。そうですか。そういう事ですか。他の男達が彼女に寄ってきた後に何も言わなくなる理由って。彼女がその……あっちの人だったからか。


 彼女の言っていた事が胸に少し突き刺さる。

「外面だけで」

 俺が大事にしている要素だった。

 俺は彼女の事を何も知らない。始めに知っていたら俺の考えや、気持ちは変わっていたのだろうか。そんな事を俺は生まれて初めて頭をよぎらせた。


 部屋に案内され、客間と思われる所に通されたが、ここも想像通りの立派な部屋だ。


「大体分かったでしょう説明しなくても。 私はこういう家柄なの。だから私が普通の男性を好きになっても皆逃げて行くわ。 貴方は中々度胸がある方よ。 8割の男は家の門を潜る前に逃げていくもの。 家に通した地点で残り1割。 最後はこの部屋で大体私と話をして別れていくわ。 極稀に付き合ったとしても2日ともった事はないわ」


「そ、そうなんですか。 こんな事を聞くのもなんですが、大河内さんて普通の恋がしたいんですか? こういうのって家柄同士が決めた相手がいるとかないんですか?」


「あるわよ。 でもお父様には自分の相手は自分で決めると言って蹴ったわ。 だって今時おかしいでしょう? 顔も知らない同じ界隈の男と結婚なんて本当にナンセンスだわ。 だから今も探しているわ。いざとなったら命がけで守ってくれる素敵な彼を」


 そう告げた彼女は俺を真っ直ぐ見て答えた。曇りなき(まなこ)で。俺にはその資格があるということなのだろうか。

 付き合いたくても付き合えない彼女と付き合いたいのに付き合えない俺。

 いや、似てるじゃないか。モテるかモテないかの違いだけで。考えてる事は同じじゃないか。


「ここまで来て貴方の気持ちは変わっていないのかしら? いいのよ。 一時の気の迷いくらい誰でもあるもの。 だから許してあげるわ。 賢い人ほど私から離れていくのは自分自身がよく分かっているもの。貴方見た目も悪くないし、うちの高校に通っているくらいなら頭も悪くはないはずよね。 だから別に私じゃなくてもいつかはいい人に巡り会えると思うわよ」


 そうだ。俺は馬鹿だ。こんなにも好きなのに何を一瞬でも自分の心に迷いが生まれたんだろう。本当に自分に腹が立つ。

 俺が1番重要にしていたのは、確かに見た目だった。でも今この心の中にある感情はそれ以上の好きっていう気持ちだろう。この気持ちを今曲げたら俺は一生女性とは付き合う事が出来ないだろ。だって彼女以上の綺麗で可愛い女の子なんて巡り会う事なんてもう二度とないだろうから。であればこんな障害何のそのだろう!!


 頬を思い切り叩き気合いを入れ、俺は真っ赤に腫れた顔で大河内さんに胸のうちを晒す事にした。

 彼女に小細工はいらない。今の想いを伝えるのみだ。


「いや、今もこの気持ちは変わってないです。 好きです。 だから俺と付き合って下さい!」


「そう。 これ程言っても揺るがないのね。 月並みな台詞だけど嬉しいわ。 なら彼氏候補にしてあげるわ(仮)で」


「よっしゃーーーー!!! って彼氏候補(仮)?」


「そう彼氏候補(仮)よ。 だって私、貴方の名前すらまだ知らないもの」


「いや、言いましたよ。 一ノ瀬千隼って始めに校門の前で会った時に」


「そうだったのね。あの時は直ぐ諦めるかと思って聞き流していたのよ。 だから今、ここで聞いたのが初めてよ千隼」


 千隼。悪くない響きだ。彼女になったらきっと毎日呼んでもらえる事になるんだろう。

 そう思うだけで嬉しくなってしまう。


「俺は大河内さんの事はなんて呼べば?」

「いいわよ。今まで通りで」


 そこは今まで通りかよっ。 俺も美羽(みはね)って呼びたかったよ。だけど今は仕方ない。彼女になるまではそれもお楽しみとしてお預けにしておくか。


 こうして俺は彼氏候補(仮)になり大河内さんと一緒に夜になるまでの間を一緒に過ごした。

 何が好きで、休みの日はどうしているのかとか、そんなたわいのない話をしたのだが、こうして話してみると大河内さんは意外と普通だということが分かった。


「今日は楽しかったわ。 千隼」

「俺も楽しかったですよ。また会って話がしたいです近い内に」


「そうね。 なら携帯の番号を登録しておきましょう。 私の予定を送るわ」

「ありがとうございます。 俺も送りますので」


 俺達は車で一番近かった最寄りの駅の前で携帯番号を互いに交わす。この時間になってくると人通りも少なく空いている店も閑散としてくる。だけどそんな雰囲気も今の俺にはロマンチックに見えてしまうほど心が弾んでいた。


「それじゃあ。 私は車に行くわ」

「また明日。 大河内さん」

「ええ。 また明日ね」


 また明日。なんていい響きだ。

 互いに挨拶を交わし、別れの時間もきていたので俺は車に大河内さんが乗り込む迄の間見守っていようと思っていたのだが、そんな時である。俺はある男に目がいった。


 大河内さんが歩いて行く向かい側から黒いジャケットに黒い帽子。おまけに目までサングラスをして隠している。

 どう考えても怪し過ぎる男。

 何なんだあいつは。


「大河内さんっ!!」

「えっ……?」


 俺は危険を察知して大声を出し咄嗟に動いたのだが、怪しい男が俺よりも先に彼女を掴んでいた。

 まじかよ。こんな時、漫画なら先に俺が彼女の前に立って格好よく守る展開になるはずなのに畜生め。


「おっと、騒ぐな。それとお前は動くんじゃねぇ。 この女がどうなってもいいならな」


 そう言って手に持った黒く包まれた何かをチラつかせる男は余裕があるように俺に警告をしてくる。


「くっ…。 彼女に何するつもりだよ。 離れろよ」


 チラりと周りを見渡しても誰一人と人が歩いていないのもタイミングが悪い。そう言い彼女を駅裏に連れて行こうとする男は何が目的なんだ。もしかして誘拐か殺人なのか。


「貴方、もしかしてこの近くで起こってる怪奇殺人事件の犯人でしょう?」

「ああ? よく知ってるじゃねぇか。 その事件の犯人が俺だよ」


 ……まじかよ。なんでこんな偶然が今ここで起きてるんだよ。警察もとっとと早く捕まえておけよ。俺の大切な大河内さんが今ここで殺されかけてるだぞ。

 生まれて初めてこんな恐怖を体験して手も震え、尋常じゃないくらい膝までガクガクと震えている。



「ちょっと、やめなさい……貴方、警察呼ぶわよっ」


「ちっ……! 騒がしい女だなっ!」


 抵抗する大河内さんに、犯人がそう言った瞬間だった。持っていた手が振り上げられ光物が顔を出したのだ。

 嘘……だろ。


「美羽っ!!!」


 こんな瞬間が永く感じた事はない。俺は死ぬ間際の走馬灯のように相手がスローモーションに見えていた。

 恐怖はあった。死ぬかもしれないという気持ちもあった。手も足も震え、こんな体験すらしたことない俺が、危険が迫った時に自分可愛さに動けなくなるかもしれない事も想像すらした事がなかったが、身体が勝手に動いたのだ。

 俺の命より彼女の命のほうが大切だと、細胞がそう指令を出すかのように考える間もなく俺の身体は動いていたのだ。

 俺は死ぬ。

 それでもいい。代わりに美羽さえ生きていてくれれば。そんな考えを死ぬ間際に俺は美羽を抱きしめた瞬間に思ったのだが。





「合格よ。 千隼」



「…………え?」


 目を開けると目の前にいる美羽が俺にそう伝えてきたが、何か分からない汗が止まらず目の前で抱きしめていた彼女からそう言われても思考が追いつかない俺は、その場で頭が真っ白になってしまっていた。


「悪いな、坊主。 これはお嬢に頼まれたドッキリだ」


 ドッキリ……?だと。 今起きた事が、どっきり?


 そうか。 これはドッキリだったのか。


「ああ。美羽。 無事でよかった」


「ごめんなさい千隼、最後にも試すような事をして。 でもどうしても私には、この家柄から上辺だけじゃなく行動で示してくれる相手じゃないと私は恋愛すらしようと思えなかったの」


「本当に死んだかと思いましたよ。ほら今でも手が震えてる」

「本当ね。 でも貴方はこの手で私を守ってくれようとした立派な手よ」


「あっ、ごめん。 勝手に抱きしめて。 今離れるから」

「いいわよ別に。 それに不快ではないわ。 貴方が側にいることに今は安心しているくらいだもの」


「それって大河内さんからして俺はお眼鏡にかなったって事でいいんですか?」


「そうね。 今までここまで試して、成功した男はいなかったわ。 貴方が初めてよ千隼」


「なら彼氏として付き合ってくれますか? 俺の人生全てをかけて貴方を守っていきますから。だから」


「ふふ。 貴方本当に変わっているわね。 でも私もこんなことやってるくらいに変わっているからお互い様ね」


「そうですね。 こんなことしたら誰だっていなくなりますよ本当に」


「あらそう。寄ってくる男にはこれくらいが丁度いいと思っていたのだけれど。 なら私も応えを言うわ。 私の事をこれからは美羽と呼んでもいいわよ」


「本当に! やった美羽!! 美羽っ!!」


「ふふ。 語彙力なくなっているわよ千隼。 これから覚えることも、やることも沢山あると思うけど、千隼にはその覚悟はあるかしら?」


「勿論です。 どんな壁だろうと乗り越えてみせますっ!」

「そう言ってくれると思ったわ。ならこちらからも宜しくお願いします。千隼」


「それって、オッケって事で……」

「そうよ。貴方が私の彼氏になったのよ」


「―――っしゃ〜!!! これで正真正銘、美羽が俺の彼女とか死ぬほど嬉しい! 死にかけたけどっ!」


「全く大袈裟ね千隼」


「大袈裟じゃないよ。俺は人生掛けたくらいほんとに必死になったんだ。だからこれから、ホント宜しくお願いします。美羽」


「ええ。千隼。 それとこれからは対等に付き合いたいの。だから敬語も禁止よ」


「あ、はい。って、分かったよ」


「よろしい。 それと守ってくれて嬉しかったわ。 将来の旦那様」  ちゅっ


 ――っ!!


 こうして俺は彼女が出来た。これから先試練が沢山待ち構えているだろうが、二人でなら乗り越えていけるだろうと俺はそう思った。





読んで頂きありがとうございました!楽しめて頂けたら幸いです。

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合わせて恋愛部門 日間5位獲得

彼女を寝取られそうになったので、俺は10倍返しにする事にした〜遊びで女を弄ぶのは俺が許しません!〜

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も短編でありますので読んで頂けると嬉しいです!

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