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兄の存在

「…ターゲット層を増やす、ということはつまり……」


「そう。私のような自分には合わないから使えない、って思っている人にも提供するの。体質って人それぞれで、勿論合う合わないはある。でも、そこで合わないからダメと切り捨てるのではなく、その人に合った商品を何個か提供する。そうすれば自ずとターゲット層も広くなるでしょ?」


 瞬きをパチパチとするマーサに私は続ける。


「勿論それだけではなくて…今は上流階級である貴族を中心に売っている商品の値段を下げて、中流階級でも手に取りやすいようにする。でもそれだと貴族は買わなくなってしまうから、より良い高価な商品を作っていくの。…そうすれば、確実にセヘルス家は大きくなるわ。お父様の方法ではなくてもね。……だからこそ、今の商品のサンプルが欲しいのよ。わかってくれた?」


「……お嬢様は、凄いですね。当主様とのお話からそこまで考えていたとは思いもしませんでした。」


「大事な話が終わった後は、何も聞いてなかったからね。」


 そう言って笑うと、マーサもフフッと笑った。…マーサが笑うところ、初めて見た。


「さすが私の主人、ツバキお嬢様です。…大丈夫ですよ。私が上手く言って貰っておきますので、安心してください。」


「ありがとう、マーサ。本当に頼りにしてるわ。」


「…お任せください。明日の準備は一人でなさいますか?」


「…そうね、できるところは私一人でも十分よ。」


「かしこまりました。では、早速交渉して参りますので、お待ちください。」


 そう言ってササッと部屋から出て行ったマーサを見送り、フーッと一息つく。



 ……今世はのんびり気ままに推し活ライフを満喫しようと思っていたけど、どうやらそうはいかない様子らしい。


 でも、これだって後々自分のためになる。私が悪役令嬢にならないためにはマリーと仲良くするのが必須だ。マリーの手柄を横取りするなんて…攻略キャラから何をされるかわかったもんじゃない。


 だから私はマリーと仲良くし、ロータスとの仲を取り持つだけではなく、セヘルス家繁栄のために勉強も頑張らなければいけなくなった。



 やることは山積みだけど…それでも不思議と苦ではなかった。


 それもこれもきっと…推しが存在する、という事実を私は知っているから。推しの幸せを願い、推しを推せる環境でいたいから。


 …そのためなら、何でもしてやるんだから!


 そう意気込んだ私は、学園でも使えそうな小物を鞄に詰め込んでいった。



 暫くすると、マーサも無事、商品のサンプルを手に入れて戻ってきた。怪しまれることもなく、すんなり渡してもらえたそうで、私はそのサンプルをケースに詰めた。


 マーサと明日の支度をしているうちに辺りは暗くなっていた。…そろそろ兄も帰ってくる頃か、と思ったタイミングでドアがノックされた。


「ツバキ!僕だよ、僕!兄上が帰ったよ!」


 そんな声がドア越しに聞こえたもんだから、マーサの方を振り返る。マーサがゆっくりと頷いた。


「…お兄様、お待ちください。今開けますね…」


 と、言いかけている間にドアが開き、ギョッと目を見開く。


「僕の愛しの妹、ツバキよ!久しいなぁ…会いたかったよ!」


 さぁ、ハグを!と言わんばかりに両手を広げて待ち構える兄。マーサはブンブンと首を振っている。


「…お兄様、こちらで開ける前にドアを勝手に開けるのはやめてください…。もう少し待って下さったら開けましたのに。」


「申し訳ない。…ツバキの顔が早く見たくてつい……。」


「…今後は気を付けて下さいね。まぁ、明日からはここにおりませんが。」


「……その話だけどツバキ、今からでも学園に行くのをやめないか…?僕はただでもツバキの顔をあまり見られないっていうのに、これ以上見られなくなったら干からびてしまうよ。」


「…何をおっしゃっているのですか。私はセヘルス家のために学園に行くんですよ?…お兄様にはお兄様の仕事があるように私には私の仕事があり、使命もあります。…勿論、私だって寂しくないと言ったら嘘になりますが、そんな我儘を言えるような立場にないことを自覚しているんです。だから、私は学園には行きますからね?」


 何より、推しに会わなければならない。こんなシスコン兄に付き合っている暇などないのだ。


「…ツバキ、見ない間に随分と成長したのだな……。僕は感動したよ。そんなにも、セヘルス家のために動こうとしてくれていたなんて。」


「…ありがとうございます。それでは、お兄様も帰られたことですし、食事にしませんか?お兄様も一緒に食堂に行きましょう。」


「…ツバキが!僕をっ!誘ってくれただと…!?今すぐに支度をして行こうじゃないか!」


 そう言うと、兄のヘデラは一旦自室に戻り、一瞬で支度を済ませると私の部屋に戻ってきた。


「さぁ、愛しの我が妹、ツバキよ!今日は兄上にエスコートを任せてくれ!」


「…もう、好きにしてください。」


 ……この人の相手は真面目にするもんじゃないと、身をもって感じた。


 

 食堂へ行くと、兄が帰ってきたことをすでに聞いていたであろう両親がすでに待ち構えており、私たちが座るとすぐに料理が提供された。


 食事中でもご機嫌に話す兄。話の内容は他愛もないものだったけど、明るく話す兄のお陰で重苦しい空気になることはなかった。


 私は話しかけられた時にだけ話せば十分だったため、両親との食事の場では兄が居てくれた方が居心地が良かったのは言うまでもない。

2024.12.23


更新滞ってしまい、申し訳ありません。

設定上、辻褄が合うように修正させていただいた箇所がありますので、お暇な方はご確認ください。よろしくお願いします。

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