表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/15

家族との食事

 いくつかの料理を食べ終わり、いよいよメインディッシュに差し掛かろうとしていた時だった。急にお父様が口を開いたのだ。


「ツバキ。明日から王都に向かうと聞いていたが、準備は進めているのか?」


「はい、お父様。私にはマーサもいるので、安心してください。」


「…そうか。ツバキは随分とメイドに信頼を置いているのだな。」


「はい!だって、お父様とお母様が私のために付けて下さったメイドですから。実際に仕事もできますし。」


 何しろ…中身が偽物だとわかった上で、私の味方になってくれた人だから。



「…まぁ、それならいいんだが。ただ、誰彼構わず信じきるのは自分の身を滅ぼすことになるから気を付けなさい。学園には、セヘルス家(うち)の情報や技術を盗もうとする輩も少なからずいるだろうから。」


「…わかりましたわ、お父様。安易に近づいてくる御方には細心の注意を払います。」


 私の返事に満足したのか、お父様はうむ、と深く頷いた。がしかし、何かを思い出したのかまた口を開いた。


「…そう言えば、ツバキと同じ薬草学科に、平民だが特待生で入学を許可された者がいるらしい。」


 ピクッとその言葉に反応する。……マリーのことだ。


「あら…平民で、特待生?ツバキよりも優遇されているってことかしら?」


 いらないところでお母様が話に入ってきた。…正直、ややこしくなるからやめてほしい。


「勿論、平民だから待遇がいいわけではないだろう。…ただ、ツバキより優秀なのは間違いないだろう。噂によると、小さな町の薬師をしているようでな…。その者の薬を求めて地方からも人が来るようなのだ。」


 …何で辺境伯の当主様がそんな事まで知ってるのよ、と内心思いながらも、ツバキが悪役令嬢になる未来が、私には垣間見えてしまった。

 入学する前からこんな風に比較されて、そして入学してからは圧倒的才能に打ちのめされるのだろう。


「そうなのね。ツバキは薬草に興味があっても、体質的に合わないものが多くてね…。どうしても触れる機会が減ってしまったもの。…うちの商品も合うものがないし。」


 え!?何…そのいらん設定は!?敏感肌設定なの!?前世でも肌が弱くて、苦労したというのに…転生先でも同じような悩みを抱えなきゃいけないわけ?


「…そうだな。だからこそ、ツバキ。私たちはお前に期待しているんだよ。例え、体質的に合わないことがあっても、学園に行けば知識と技術は得られる。そして、優秀な人材からそれらを盗むこともできる。…わかるか?ツバキ。セヘルス家を繁栄させるのも衰退させるのもお前次第ってことだ。」


 ……なるほど、そういう事ね。だから私を学園の、しかも薬草学科に送り込んだわけね。

 お父様はどこからかマリーの存在を聞き付けて、あわよくば医薬品事業にも手を出したいということだ。


 そして、マリーが平民で権力が無いことも利用しようとしている。…こちらが先に特許を取得してしまえば、例えマリーが創薬者であろうと、セヘルス家が製薬を独占できてしまうからだ。


「…わかっていますわ。必ず、お父様のお役に立たせていただきます。」


「ほう…、いつにも増していい返事だな。これは期待してもよさそうだ。」


「そうね、いつの間にかツバキが頼もしく成長していて…私も鼻が高いわ。」


「…お父様、お母様ありがとうございます。私、学園でも頑張りますわ。」


「あぁ、期待してるぞ。ツバキ。…それでは食事を楽しもうではないか。」


「…はい。」


 その後のご飯の味はよく覚えていない。両親とはその後も会話をしたけど、特に内容のないものだった。



「今日の夜食にはヘデラも来れるらしいから、ツバキも明日からの準備で忙しいかもしれないが遅れないようにな。」


 ヘデラ……あぁ、兄のことか。兄がどんな性格なのかは想像もついていないけど、出来ればあんまり関わりたくはない。


「わかりました。それではこれで失礼します。」


 そう言って、マーサと一緒に自室に戻った。


「はぁ、疲れたぁ。」


「お嬢様、お疲れ様でした。」


「ありがとう、マーサ。どうだった?私、違和感なかったかしら?」


「…そうですね。ただ、昔のお嬢様でしたらあんなにハッキリと当主様に向かってお話されることはなかったと思います。でも、当主様にとってはその変化が良いものだったので、特に気にも留めなかったのかと思います。」


「…そうなのね。ちなみに兄のヘデラはどんな人?」


「……普段会えない分、お嬢様への愛情が強いお方です。お嬢様はそれとなく、相手をしてあげているような感じでした。」


「…シスコンってことね。情報ありがとう、マーサ。…あ、それとマーサにお願いしたいことがあるのだけれども…いいかしら?」


「何でしょうか?」


「両親に内緒で、うちの商品のサンプルが欲しいの。」


「サンプル…ですか?」


「えぇ。私は体質的に合わないっていう理由で使ってないのよね?…それだと私が商品を学園に持って行きたいなんて言ったら、企業秘密を売ろうとしていると誤解されると思うの。でも、そういう目的ではなくて、私はあくまでも成分分析と、商品改良をしたくて持ち出したいのよ。」


「…先程、当主様に言われたことと関係がおありで?」


「…そうね。私は医薬品を独占販売する気はないの。勿論自分の力で創薬できたものはいいけど、人様の物を奪って自分の手柄にするのは性に合わなくてね。…それならば、元からある私たちの商品をより良くして、ターゲット層を増やせば良いのよ。」



 そう言うと、マーサは目を見開いた。


2024.12.15


2024.12.19 追記

王都への移動時間を考慮して会話の一部を修正しました



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ