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悔いしかない最期

 残された私は、一人で限定ストーリーを読んだ。


 ……とにかく、良かった。


 確かに読まなくてもメインストーリーには影響はない。ただ、ロータスという人間をより深く知るには、絶対に読まなければいけないストーリーなのは間違いなかった。


 ガチャを回して良かった…、心底そう思った。


 暫くしてから戻ってきた沙耶香とその日はオタトークを繰り広げ、気付けば2人共机の上に突っ伏して寝ていた。



 朝…とは言っても、すでに昼に近い時間だった。体の節々が軋むように痛くて目が覚める。


「いたた…、こんなとこで寝てたのか…」


 机や床には昨日食べたものが散乱しており、朝からウゲッと憂鬱な気分になる。


 沙耶香がまだ寝ていたので、起こさないように静かに片付けを始める。

 …あれだけの量をよく食べたな、と思いながらゴミを集めて捨てたり、使った皿をまとめてシンクに持って行ったりした。


「あ…、莉緒起きてたんだ。おはよー…」


 皿を洗おうとしていた時に、沙耶香の少し掠れた声が聞こえてきた。


「あ、ごめん。起こしちゃった?」


「いやいや、そんな事ないよ。ってかもうこんな時間だから起きないとじゃん!皿洗わせちゃってごめんね。」


「いいのいいの!私に推しという存在を教えてくれたお礼だと思って!…そう言えば今日、午後から仕事なんだっけ?」


「そうなんだよー、本当に最悪。もう少し莉緒とゆっくりしたかったんだけどなぁ。」


「また集まってすぐ飲みましょ!その頃にはシクガの新規ストーリーも公開されるだろうし!」


「そうだね!…莉緒、仕事大変だと思うけど頑張ってね。」


「ありがと!でも今なら何でも頑張れる気がする。ガチャ爆死した分稼がないとね!」


 そう言って笑うと、沙耶香も思わず吹き出した。


「莉緒の口から、ガチャ爆死なんて出てくる日が来るなんてね。昨日までは考えられなかったよ。」


「私も。自分でそんな事を言う日が来るなんて想像したこともなかったわ。…でも、推しに出会わせてくれてありがとね。」


「私は好きで布教活動しただけだよ!でも喜んでもらえて良かった!」


 皿洗いを終えた私は、パパッと帰り支度を済ませた。


「それじゃあまた連絡するわね。」


「うん、こっちからも連絡する!ガチャ報告とかしよ!」


「そうね。」


 フッと笑うと、私はそのまま帰路についた。…色々あった1日だったけど、充実感のある日だった。




 その後も、シクガのストーリーが公開される度に私はゲームをやり込み、ロータスの限定スチルが来ればガチャを回す…という推し活を楽しんだ。


 ガチャに関しては、一度だけ10連を回したらそのままロータスが出てきて、沙耶香に自慢したこともあったけれど、基本的には10万前後の課金が当たり前だった。


 ガチャで爆死したら、死に物狂いで働いて稼いで……その繰り返し。

 今の私は当に限界社畜を超えていたけれど、それでも推しがいなかった過去の自分と比べたら、今の私の人生には潤いがあった。

 …そう、ロータスは私の生き甲斐になってくれたのだ。


 ストーリーの方も、沙耶香が言っていた通り、徐々に攻略キャラを絞っていくような流れになっていて、私は勿論ロータスルートを突っ走っているところだった。


 相変わらず、ヒロインに激甘なロータスに年甲斐もなくときめきながら、ストーリーを進めていた頃、仕事の忙しさもピークを迎えていた。



 そんなある日の帰り道。


 いつものように終電ギリギリに終業し、信号が青に変わるのを待っていた時だった。


 確かに、横断歩道の信号は青に変わっていたと思う。

 終電に乗り遅れないようにと急いではいたけど…いくら私が疲れていたからって、赤信号と青信号を見間違うばすがない。


 

 だから、全身に痛みが走った理由がわからなかった。


 ……遠くの方で、悲鳴が聞こえた。そんな気がした。


「…ぁ……っ…?」


 声は上手く出せないし、体も思うように動かせない。そう気付いた途端、耐え切れないほどの痛みが全身に走った。


 痛い。痛いってもんじゃない。え?これ、もしかしなくても…私、死ぬ…?


 待って…それは困る。まだロータスルートを攻略していない。終盤のストーリーすらまだ配信されてないのに?嘘でしょ?


 焦った私は、どこかに落ちているだろうスマホを目だけで探した。どこ…どこ……あった。そう思ったスマホは、遠くからでもわかるほどにひしゃげていた。…トラックにでも踏まれたのだろうか?


 ……スマホは使い物にならないだろうけど、あれ…データ残ってるかな。残ってたら復旧して……



 そんな事を思っているうちに、私は意識を手放した。




「…様……キお嬢様、ツバキお嬢様!」


「いた…くないっ!?」


「…いかがなさいましたか?」


「……え?」


「今日は随分とうなされておりましたので…失礼ながらお声がけをさせていただきました。」


「あっ、いや…え?……夢?」


「お嬢様、もしかしてまだ寝惚けていらっしゃいますか?もう朝ですよ。」


 状況が理解できず、一瞬固まる。あれ…?私、さっき車に轢かれて…確かに痛みを感じた。あれは…間違いなく現実(リアル)だ。じゃあ…これは夢?


 明らかに日本の造りではない、大きな部屋に、クイーンなのかキングなのかはわからないけど、大きくてフカフカなベッド。そして何より…この世界観を、私は知っている。



「…貴女を信頼しているからこそ、今から聞くことは他言無用でお願いしたいのだけれど、……貴女の名前は?」


「……マーサですが。」


「マーサね。……マーサ、私は誰?」


「………セヘルス辺境伯の一人娘、ツバキお嬢様です。明日から王都へ向かい、一週間後には王立学園に入学、学園寮でお過ごしになります。」


「…そうなのね、ありがとう。」



 えーっと、それで私は結局どこの誰なの??


 何もわからないまま、どうやら第二の人生が始まってしまったようです。


2024.12.5


長い序章になりましたが、ここから本編に入っていきます!応援よろしくお願いします!


追記

2024.12.19

辺境伯設定を忘れていたため、修正しました。学園入学は一週間後となります。

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