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推し事

 それからは、少しストーリーやキャラクター探しで詰まったら、隣で沙耶香が声をかけてくれて、簡単なヒントを出してくれた。


 勿論、選択肢は自分が思う最適解を選んだつもりだったけれど、キャラによっては神経を逆撫するようなものもあったようで、場面によっては主人公補正など関係なく、ブチ切れられることもあった。


 その点、私の推しであるロータスは、とにかく主人公に対して一途で、健気で、それでいてカッコ良くて…とにかく尽くしてくれるスパダリ(沙耶香に教えてもらった)だった。

 そのため、好意に対して純粋に返せば、また好意が返ってくるという初心者でも攻略しやすいキャラの一人でもあった。


 そんなロータスの一途な姿は、一応フラれたばかりの身にはグサグサと刺さり、完璧な推しになるまでは一瞬だった。


 気付けば公開されているストーリーまで終わらせており、to be continued…の文字を見てハッと我に返り、隣でニマニマしている沙耶香を見た。


「どうだった?」


「…めっちゃ、良かったわ……。早く続きやりたい。」


「でしょー!?莉緒に紹介して良かったー!!ロータス、カッコいいでしょ?」


「いや…もう理想的な男すぎて。マリーに一途なところもそうだし、決して自分の力に溺れず、鍛錬をかかさない努力家なところもいいし、何かあった時に一番最初にマリーを見つけてくれるところとか…。こっちはもっと愛情表現したいのに、何で台詞の選択肢これしかないの?って感じ。私がマリーだったら、全部に大好きって入れたいわ。」


 なんて、私が真剣に言うもんだから沙耶香も私のノリのまま返してくれた。


「わかる。何でこの選択肢しかないの?って感じだよね。私なら絶対こう言うのにってのがもどかしくて、またいいんだよねー!まぁ、今は各キャラとの出会いパートがメインだから、これから徐々に攻略キャラとの仲が深まるような選択肢も増えていくと思うよ!」


「なるほどね。よく考えて作られてるのね。」


「そりゃあ飽きずに長く遊んでもらいたいだろうしね、運営側も。…あ、そうだ!莉緒、そのホーム画面の右側にあるガチャって書いてあるところ押してくれる?」


「ここね?」


 言われた通り押すと、ガチャ画面に移動し、庭園のような場所でオリバーが立ち尽くすイラストが出てきた。その表情はどことなく暗めだ。その後、画面が切り替わった瞬間…、私は声にならない声をあげた。


「…っ!?」


 ロ、ロータスの幼少期…!?


 慌てて沙耶香の方を見ると、うんうんと達観した様子で私を見ていた。


「莉緒…わかるよ、わかる。幼少期って、貴重だよね…。しかもこんな笑顔見せられたらそうなるのも頷けるよ……。」


 可愛い、なんて言葉では到底表し切れないほど、満面の笑みを浮かべたロータス。今と違って、平民の格好をしたロータスの幼少期だけど…それもまたいい。良すぎる。


 そんな事を思っていたら画面がまた切り替わり、沙耶香のポストカードでも見たモネのイラストが出てきた。


「……これが、噂の限定スチルガチャね。」

 

「…そうなの。今見てもらったように、リリース記念として、5人全員分の限定スチルが用意されててね。ただ、全員が排出対象だから、まず1/5の確率を引かなきゃいけない。……でもそんな単純なものでもなくてね。」


 はぁ、と溜息を吐きながら沙耶香が続ける。


「このガチャからは、他にもメインストーリーに出てくるキャラのスチルだったり、アイテムだったり、ガチャを無料で回せるチケットが出てきたりするから単なる1/5の確率でもなくてね…。そして、出るまで回さないといけないっていう天井なしガチャ。」


「……ちなみに、沙耶香はどれくらい課金したの?」


「…それ聞いちゃう?」


「参考までに、一応聞いておきたいなって思ってね。」


「……私は約8万かな。ちなみに、私の場合は弟のシオンが2枚ダブって、オリバーは3枚もダブってる。そして、推しのモネがやっと1枚出た感じ。だから、カールもロータスも私は引けてないんだよね…。」


 8万使って、全キャラ出せていない…当たり前のようにダブりもあるという、まさしく闇のようなガチャだ。


「…そうなのね。」


「まぁ、それでも引かなかった時に、あぁ!引いておけば良かった!!って後悔しないためにも、私は推し事をしてるの!」


 清々しい表情を見せる沙耶香は、まさにこの道のプロフェッショナルだった。



 後悔しないためにも、『推し事』をする…か。


「…沙耶香、私ガチャ回すわ。」


「…無理してない?」


「…私も、沙耶香みたいに全力で…推し事したいって思ったの。」


「そっか…!じゃあ、早速いっちゃおう!」


 グーサインを立てた沙耶香が見守る中…私はついに禁断の闇ガチャを回した。




 結果は…惜敗だった。

 貢いだお金は9万弱。けれども、沙耶香のような偏りはなく、満遍なく全員のスチルを回収した。


「…ガチャってさ、絶っ対物欲センサー働いてるよね。」


 無事?ガチャを引き終わると、沙耶香がそんな事を呟いた。


「莉緒は、1回目の確定枠でモネ出てたし…それでも結局ロータス出なくてこの有様だし。」


「ちょっと…傷抉らないでよ。」


「…傷は深くても、ストーリー見たら一瞬で忘れるんだから。人間そんなもんよ…。」


 遠い目をする沙耶香に思わず同情する。彼女は今までにもこんな経験をたくさんしたのだろうから。


「それじゃあ、ロータスの幼少期ストーリー見て楽しんで。私は一旦トイレに引きこもるから。」


「沙耶香もせっかくなら見ればいいのに…」


「私のポリシーに反するから絶対見ない!」


 そう言うと沙耶香はトイレへと駆け込んで行った。

2024.12.2


何で推しのガチャは全く出ないのに、どうでもいいガチャは神引きするんでしょう?

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