推し探し
「沙耶香ー!来たわよー!」
「いらっしゃい、莉緒。待ってたー!」
元気良く出迎えてくれた沙耶香は、ギュッと私を抱きしめた。
「…お疲れ様、莉緒。」
「……うん、ありがとうっ…!」
「さっ、今日はいっぱい飲もう!!明日珍しく休みなんでしょ?」
「そうなの!…っていうか、無理やり休み取った!」
「いいじゃん!自分のために使う時間って大事よ。」
私が持ってきたスパークリングワインを受け取った沙耶香は、そう言いながら私を部屋に招き入れてくれた。
綺麗にされた、清潔感のある女子の部屋。…いつ来ても、沙耶香の部屋はモデルルームのようで憧れる。
そんなモデルルームのような一室に、これまた芸術的にフィギュアやアクスタ、ポスター等が飾られた場所が存在する。
「…あれ?何か新しいの増えた?」
「お、よく気付いたね!1か月くらい前に始めたゲームで推しができちゃって…、まだグッズとかは販売されてないから自分で作っちゃった!」
「え!?自分で作った!?本当に器用ね。」
「いや、ただゲーム画面をスクショして印刷して…ポストカード風にしただけだから大したことはしてないよ?まぁ、そのうちぬいは作ろうと思ってるけど!」
ぬい…、ぬいぐるみのことか……
「って!?ぬいぐるみも作れるの!?」
「推しと自分の幸せのためなら何でもしちゃう!」
そう言って満面の笑みを見せる沙耶香に、憧れと眩しさを感じる。
「…推しがいるって、幸せなのかな。」
気付けば、そんな事を呟いていた。
人並みに漫画やアニメ、ドラマには触れてきたけれど、これと言ってハマる事は無く、今まで過ごしてきた。
特に社会人になってからなんて、自分の余暇にあてる時間すらなく、そのような娯楽にはここ3,4年触れていない。
「まぁ…人それぞれだとは思うけど、私は幸せに暮らしてるよ?彼氏なんていなくてもこーんなに楽しいんだから!」
グラスを持ってきた沙耶香が、ニコニコしながら続ける。
「どう?莉緒も推し活、始めてみる?」
「…私にできるかしら?」
「推し活する気があるなら、推しなんて簡単にできちゃうんだから!…じゃあ今日は、莉緒の推し活のために私が人肌脱いじゃおうかな!」
「…お手柔らかにね。」
「任せてよ!じゃあ、先に…出前頼んでおこうか!んで、待ってる間に莉緒が好きそうなジャンルを探そう!」
そう言うと、沙耶香はテキパキと出前を頼み、面接官のように私の前に座った。
「それでは早速、莉緒が沼りそうな作品探しをしていきたいと思います!」
「フフッ…よろしくお願いします。」
そして沙耶香は、今まで私が見てきた漫画やアニメを片っ端から聞いてきた。私は覚えている分答え、その中で強いて言えば好きだったキャラなどを答えた。
「…そうか、莉緒ってザ・有名作品ばっかり触れてきたんだね。そして、そういう作品は全て作画が綺麗で見やすいし、親しみやすい。」
「…そう言われたらそうね。周りの会話についていける程度に見てたところはあるかも…。でも、確かに見てたアニメは全部、映像が綺麗だなって思ってたわね。」
…そう言えば大学時代に、クズの元彼から漫画を借りて読んだこともあったが、内容以前に絵柄が好みでは無く、1巻だけ読んで返したこともあった。
「うんうん…、多分だけど莉緒が求めるのは第一に作画の良さなんだと思う。顔が良い方が好きでしょ?」
「それは当たり前でしょ!」
「アッハハハ!だよね!じゃあ…これとこれならどっちの方が好き?」
「こっちかな?」
「…なるほどねー。じゃあ、莉緒…新しくゲームを始めてみない?」
「ゲーム?」
そう私が問いかけると、沙耶香はうんと頷きながら私が沙耶香の家に来てから一番最初に見つけたポストカードを取り出した。
「そう!さっき1か月前くらいに始めたゲームがあるって話したでしょ?それを一緒にやらない?っていう提案!」
「…ゲームか。私、今までほとんどやった事ないわね。」
「大丈夫!これは所謂乙女ゲーってやつで、アクション要素とかはないから、プレイスキル関係なく楽しめるの!そして、見ての通り…作画が超キレイ!!」
確かにイラストはとても綺麗だ。キャラクターがイケメンなだけではない。背景もキラキラと輝いている。
「…確かにイラストは綺麗ね。……でも、沙耶香には悪いけど、このキャラは私のタイプじゃないわ。」
申し訳なさそうに言った私を見て、沙耶香はブッと吹き出した。
「アハハハッ!大丈夫だよ、莉緒!乙女ゲーはね、他にも攻略対象者がいるの!だからきっと、莉緒の推しが見つかるはず!…あと、私は同担拒否女だから莉緒がこのキャラ好きって言ってたら、ゲーム自体勧めてなかったかも…」
同担拒否…?とにかく、沙耶香の目の色が変わったのを見て、あまり深く突っ込まない方がいいと思った私は、それ以上は何も言わずに黙った。
「じゃあ、出前も届いたみたいだし!ご飯食べて、お酒飲みながらゲームの内容について説明していこっか!」
「そうね、じゃあ…お願いするわ。」