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推しとの食事

 案内された席に座ると、すかさずメニューをこちらに向けてくれた。


「ここは何を食べても美味しいですが、私のお勧めはステーキですかね。お肉の量も調整できますし、脂身が苦手でしたらヒレ肉もありますよ。他には…」


 そう言って何種類かの料理を紹介してくれた。…確かにどのメニューも美味しそうで悩むところではあるけど、せっかくロータスのお勧めを聞けたのだからステーキにしよう。


「それじゃあ、私はロータス卿がお勧めしてくれたステーキにしますわ。…マーサは?」


「私はビーフシチューで。」


「ロータス卿とカトレア卿は何になさいますか?」


「…私たちはあくまでも護衛の任務中ですので、後で簡単に済ませます。」


 そんな事を言うもんだから思わず声を荒げてしまった。


「そんなのっ…!ダメです!そもそも、この護衛は急遽決まったことで、ロータス卿たちの本来の任務とは異なります。…しかも、護衛の対象であるこの私が、今ここでご飯を食べるように言っているのですよ?それを無視してもいいと思いますか?」


「ツバキ嬢、しかしながら…」


「ロータス卿、せっかく入ったお店で…しかも何度か来たことがあるお店で何も注文しないなんて、そんな失礼な態度を取ってもいいのですか?」


 そう言うと、ロータスは何も言えなくなった。…知ってるもの。貴方が一番嫌う行動は、人に対して失礼な態度を取ることだって。


「…わかりました。私たちも食事をさせていただきます。」


 観念したロータスを見て、フッと勝利の笑みを浮かべる。…そうよ、ロータスには常に健康でいてもらわないと困るのよ。そのためには精一杯、貢いじゃうんだから!


 ロータスはステーキを、カトレアはオムライスを頼んだ。…暫くの間、無言の時間が続いたがそれを破ったのはロータスだった。



「ツバキ嬢の最終目的地は王立学園とお聞きしましたが、これから学園に入学されるんですか?」


「あっ…そうですね。」


「それじゃあ、私と一緒ですね。…私もこの秋から王立学園に入学するんですよ。」


 存じ上げております…など、口が裂けても言えないので大袈裟に驚いた素振りを見せる。


「そうだったんですね!…ということは、ロータス卿は剣術学科に?」


「そうです。そこで鍛錬を積んで来いと義父(ちち)に言われまして。学園に通っている間は騎士団の仕事もセーブしてもらえることになったので、少し気は楽になりました。」


 いかんいかん…。つい、プレイヤー()だからこその脳内変換を勝手にしてしまった。…何を隠そう、ロータスは幼少期にヴァーリエントという侯爵家に剣術の腕を買われ、養子として引き取られたのだ。ヴァーリエント夫妻は子宝に恵まれなかったが、代々続く剣術を後世に残したいという思いで、剣の腕が立つ子どもを探していた。そこで出会ったのがロータスだ。


「そうなんですね…騎士団のお仕事は大変だと兄からもよく聞くので…、無理せず頑張ってくださいね。まぁ、まずは学園生活をお互いに楽しみましょう。」


 そう…貴方は、学園で思う存分マリーとの恋を楽しめばいいのよ。そうすることで、必然的に私の学園生活も豊かになるのだから。


「そうですね。…ちなみに、ツバキ嬢はどちらの学科に行かれるんですか?」


「私は薬草学科へ。…私もロータス卿と似たようなものですね。父から薬草について学んでくるように言われまして…。」


「…薬草学科、ですか。」


「…どうかされましたか?」


「…いえ、少し昔の知り合いを思い出しまして……。すみません。」



 切なそうな表情を浮かべるロータスに、思わずオタクセンサーが反応した。…こんな表情をするなんて、間違いなくマリーのことだ。マリーしか考えられない。


 そうなのだ。ロータスはこの時点でマリーが学園に入学することを知らない。マリーという平民が入学することを事前に知っているのは、王太子であるオリバーと国の情報に精通しているカールのみで、他の攻略キャラたちは何も知らないことになっている。


 だから入学して初めて、ロータスはマリーの存在を知ることになるのだ。…んー!もどかしいけど、ロマンティック!


「…お気になさらず。…あ!料理もできたみたいですね!」


 こちらがいらないことを言う必要もないので、それ以上詮索することもしない。…私は所詮、ロータスとマリーの恋路を見守るモブに過ぎないのだから。



 料理はロータスと私のステーキが先に出来上がり、後からマーサとカトレアのビーフシチューとオムライスが出来上がった。


 味は勿論美味しかったけど…貴重なロータスの食事シーンを見逃すわけにはいかないと思い、バレないように見るのに必死で…正直、味わって食べることはできなかった。


 …というか、見れば見るほどロータスのカッコ良さは無限大だなとつくづく実感する。元平民とは思えない所作の美しさ、それでいて年齢相応の食べっぷり、そして何より美味しそうにステーキを頬張る可愛さ…何なんだ私の推しは。知れば知るほど、沼っていくのがわかる。


 

 食事をし終えた私たちは、店主に挨拶をすると店を後にした。外に出ると、御者が近くで待っており、今夜泊まる宿屋まで送ると話した。


「私たちも付き添います。」


「えっ…、でも卿たちのお部屋は…」


「私たちは護衛ですので、お部屋の前で見張りをさせていただきます。見張りはカトレアと交代で行いますので、お気になさらないでください。」


 そこまでしなくてもいいのに…と思いつつも、これに関してはロータスの意思は固そうだったため、それ以上は言わなかった。

2025.1.14


もう少しでゲームシナリオ本編へ突入です!

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