推しからの提案
…ロータスの、護衛?
え、何その私得なイベント?これ…ツバキの人生を歩んでいたら、強制イベントだったりするのかしら?…それならまだいいけれども、私はきっとイレギュラーな存在。たかがモブ一人増えたくらいで、ゲームのシナリオを壊すとは到底思えないけど、できれば推しには認知されずに影からロータスの恋路を見守りたい。
「…でも、それではロータス卿に申し訳ないというか…」
「そんなことをツバキ嬢が気にする必要はありませんよ。…それより、セヘルス辺境伯の大事なお嬢様を今ここで危険に晒したと知られれば、私の首が飛ぶかもしれませんよ?」
「なっ…!それは絶対にダメです!!」
「…それなら、私にお任せください。必ず、危険な目には遭わせないと誓います。」
フッと微笑んだロータスを見て、ギュンと胸を鷲掴みにされる。…というか、ロータスってこんな冗談も言う人なんだな、と新たな一面を垣間見れたことに胸を躍らせた。
「…わかりました。それではロータス卿、護衛をよろしくお願いしますね。」
「かしこまりました。…とりあえず、今日はお食事になさいますか?御付きのメイドの手当ても、終わったようですし。」
そう言ってロータスが私の後ろに目を向ける。私も急いで後ろを振り返ると、そこには服を着替えたマーサが立っていた。
「…っ、マーサ!」
マーサに向かって走り出した私は、そのままマーサをギュッと抱き締める。
「お嬢様…、ご無事で何よりです。」
「…もうっ!心配したんだから…!でも…、私との約束守ってくれて、ありがとう。」
そう言って、マーサの肩に顔を埋めると、マーサも私の頭をそっと撫で、ギュッと抱き締め返してくれた。
「……ロータス卿。」
「…どうされましたか?ツバキ嬢。」
「…この辺りで、美味しいご飯屋さんはありますか?」
「勿論、ご紹介致しますよ。…その前に、上に一報だけ入れておいても構いませんか?」
「はい。…それでは私たちはあちらで待っておりますので、終わり次第お声がけください。」
「わかりました。」
そう言うとロータスは席を外した。ロータスの騎士部隊の一人が、私たちに座るように促す。
「…お嬢様、現状をお聞きしても?」
「…えぇ。今日は予定通りフェリンツェに入ることはできたから、このままご飯を食べて宿屋に泊まるつもりよ。明日はロータス卿が王立学園まで護衛してくださるって話。」
「…そうでしたか。私が不甲斐ないばかりに、お嬢様を危険に晒してしまったからですね。すみません…。」
「何でマーサが謝るの!マーサがいなかったら、私はとっくの昔に死んでたか、売り飛ばされてたわよ。…それでも、私にとってマーサは大事な存在なの。できれば私のために無茶をして、怪我なんてしてほしくないの。…だから今回だけは、騎士団のご厚意に甘えましょう?」
マーサの目を見て真っ直ぐに自分の思いを伝える。マーサは気恥ずかしくなったのか、私から目を逸らした。
「…わかりました。」
「フフッ…マーサ、もしかして照れた?」
「そんなことありません。」
「えー、そんな食い気味に否定されたら怪しさが増すわよ?」
そう言ってマーサを揶揄うと、マーサはそれ以上何も言わず、口をつぐんでしまったので、私もそれ以上は何も言わずにロータスが来るのを待った。
「すみません、お待たせしました。…今日と明日の護衛は、私とカトレアが務めさせていただきます。」
「カトレアです。よろしくお願いいたします、ツバキ嬢。」
先程、私たちに座るように促してくれた騎士部隊の一人だ。私やロータスよりは年上だろうか?大人っぽさが感じられる。…そして勿論、ゲーム内では一度も見たことのない顔だ。
「お忙しい中、ありがとうございます。そして、護衛の方よろしくお願いいたします。」
「任せてください。…それではお食事処へ移動しましょうか。ここから近いので、馬車には乗らずに行けるかと思いますが、どうされますか?」
「…近いなら、歩いて行きます。マーサも歩けそう?怪我で痛むところがあれば、遠慮なく言ってちょうだい。」
「足は特に怪我もないので、問題ありません。」
「では、ご案内しますね。」
2、3分歩くと、目的のご飯屋さんに辿り着いたようで、中に入ると先客が3組ほどいた。店内はこじんまりとしていたけど、掃除が行き届いていて清潔感がある。
「らっしゃいませー!…って、ロータスさんじゃないですか!また来ていただいたんですね!」
「ここの味を気に入っているのでね。…今から4名でも可能だろうか?」
「勿論!ゆっくりしていってくださいな。」
「ありがとう。…お二人ともこちらに。」
ロータスが空いている席へ案内してくれる。…何か、本当に手際が良くてスマート。正直なところを言えば、ロータスはマリー以外の女性に全くと言って興味が無いから、女性の扱いにも不慣れなイメージを抱いていたけど…別にそんなことはなかった。
単純明快な話、ロータスは人当たりがとにかく良く、対人スキルがしっかりと備わっているザ・常識人。そんな誰にでも気配りのできるロータスが、マリーにだけ見せる甘い言葉や表情に惹かれる人が多かったのだろう。特に私のような乙女ゲー初心者にはロータスの性格はスッと入りやすかった。
ただ、乙女ゲー熟練者にとってロータスの性格は、少し物足りなさを感じるようで…そう言えば沙耶香も『カッコいいとは勿論思うけど、物足りなさを感じるんだよねー』と話していたのを思い出した。
2025.1.11
更新ペース上げたい…とは思っております。頑張ります!




