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予期せぬ遭遇

 すると、どうなるか。


 ギリギリつり合いが取れていた力同士が、急に一方の力が緩むことで、まだ力を加えているもう一方は確実に尻餅をつく。…よく綱引きで見られる光景である。


 勢いよく引っ張っていた男二人組は案の定、ドアが急に開いたため盛大に尻餅をついた。…何なら、手前で引っ張っていた男の方は顔を扉にぶつけたようで、「いってぇ!」と叫んでいる。



 逃げるなら今しかない!そう思った私は、急いで馬車の外に出てマーサを探すために走り出した。


 するとマーサは、馬車から少し離れた場所で賊と戦っていた。すでに四、五人は血を流して倒れており、マーサは血の付いた小型ナイフを両手に持ち、残党を相手にしていた。


「マー…」


 と、言いかけて思い留まる。…ここでマーサに逃げるよう声を掛けたら、きっとマーサは私が馬車から出てきたことに驚いて、私を見るだろう。その一瞬の隙に、マーサが怪我でもしてしまったら…そう思ったら、動けなくなった。マーサの邪魔をしたいわけではない。でも、マーサを置いて自分一人で逃げるなんてこともできなかった。


「待ちやがれっ!!」


 そうしているうちに、私を脅してきた二人組も復活したようで、こちらに向かって走ってくる。



 その時、思ったのだ。


 あぁ…私は、学園に入学する前に死ぬ運命だったのだと。だから、ゲームにもツバキ・セヘルスの情報が何一つ無かったのだ。


 せっかく大好きなゲームの世界に転生したのに。推しにも会えないまま、生涯を終えるなんて…心残りしかないじゃない。


「ロータスに…会いたい人生だったな……」


 そう呟いて目を閉じ、自らの死を覚悟した瞬間だった。



「大丈夫ですか?」


 心地の良い、聞き馴染みのある、優しい声…。


 俯いていた私が目を開けた先には、血を流して倒れている男二人組。…状況が理解できず、恐る恐る顔を上げる。


「遅くなってしまい、申し訳ありません。…お怪我はないですか?」


 心配そうに私を見つめる紫色の瞳。風になびくサラサラの黒髪に、兄とはまた違う騎士団服を身に纏った高身長の美青年…正しく、ロータス・ヴァーリエント。……私の推しだった。


「あっ…、はい…。だ、だいじょうぶ、デス…。あの、あ、ありがとう、ございます…。」


 唐突な推しの供給に、上手く話すことができなくなる。脳の処理が追い付かず、プチパニックを起こす。


 え?何でこんなところにロータスが?…任務中でたまたま近くを通りかかったのかな?え、いや…それよりも顔面強すぎない?ってか、声良。ゲームやってる時から思ってたけど、声…爽やかすぎじゃない?マジで癒しボイス。うわ、よく見たら足長っ!?顔も小さいし…スタイル良すぎじゃない?さすがに。え、これ夢じゃないよね?私の幻覚とか、そういうもんじゃないわよね?……いや、待って!?今はそれどころじゃない!


「…マーサは!?私のメイドのマーサはどうなりましたか!?」


 突然の推しにプチパニックを起こしていた頭をフル回転させ、今の状況を整理した。そうだ、今は推しに浸っている場合ではなかった。マーサが怪我をしていないかが最優先だ。


「…少し切り傷があるようですが、大事には至りませんでした。今はこちらの方で手当てしています。…それにしても、あの人数の盗賊相手にメイド一人で戦っていたんですよね?私たちが辿り着くまでよく持ち堪えてくれました。」


「…私が、マーサに言ったんです。自分の命には代えずに、生きて私を護ってと。……私のメイドは、有言実行できる、カッコいい人なんです。…手当てしていただき、本当にありがとうございます。」


 マーサのことになると、ロータスの前でも自信満々に話すことができた。…それだけ、今の私にとってマーサは大事な存在なのだ。


「…そうなのですね。もうすぐで手当ても終わるかと思います。えっと…」


「セヘルス辺境伯の娘、ツバキと申します。」


「…!セヘルス辺境伯の!存じ上げず申し訳ありません…ツバキ嬢。」


「お気になさらないでください。…私は王都から離れた地で暮らしておりましたし、一人で王都へ来たのも今回が初めてでしたので…。」


「そうでしたか…。それなら尚のこと、盗賊の被害に遭われてさぞかし驚かれたことでしょう。この近辺の警備を強化するようにこちらからも伝えておきます。」


「ありがとうございます、ロータス卿。」


 そう言ってしまってから、ハッと気付く。

 

「…ツバキ嬢は、私のことをご存知なのですね。」


「あっ、そ、そうなんです!辺境伯の娘とは言えども、王都でご活躍されている方々のお名前は耳にする機会が多いですから。…それに!私の兄もロータス卿とは別部隊ですが騎士団所属ですので…お話は聞かせてもらっています。」


「…そうでしたね。ヘデラ卿に妹さんがいるのは伺っていたので知っていたのですが、まさかツバキ嬢だとは…。」


 唐突についた嘘にしては、我ながら完璧に誤魔化せたのではないだろうか。…良かった、兄が騎士団所属で。…兄上には感謝しかないわ。


「そうだ…王都に用事とのことでしたが、これからどちらまで行かれますか?」


「今日はもう遅いですし…、色々ありましたので、この辺の宿泊施設に泊まろうかと思います。最終目的地は王立学園ですね。」


「そうだったんですね!…ツバキ嬢。良ければ学園に着くまでの間、護衛を任せていただけませんか?警備は勿論強化させていただきますが、やはり女性2人に御者1人だと危ないと思いまして…。」


 突然のロータスの提案に思考が止まる。


2025.1.5


忙しくて更新遅くなってすみません…。

あけましておめでとうございます!今後とも応援よろしくお願いします!

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