表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/15

王都への道程

 次の日。


 いつもなら兄と朝食の時間は別みたいだったけど、今日は私の見送りをしたいということで、遅めの出勤にしたらしい。


 そのおかげで、私も両親から圧をかけられることなく、平和な朝を過ごすことができた。…ウザいとか面倒とか思ってごめんねと、心の中で謝罪をしておいた。



 朝食を食べたらすぐに出かける準備をした。ここは王都から遠く離れた辺境伯領。学園までは馬車で5日程かかるらしい。…馬車に乗るのは初めてなのでワクワクする一方で、前世のように電車や新幹線、飛行機などがあれば便利なのにな…と思う気持ちの方が強かった。


 支度が終わった私は、マーサと一緒に外に出た。すでに両親と兄が馬車の近くで待っており、兄に至っては…涙ぐんでいた。


「ツバキぃぃ…やはり兄上は寂しいぞ…」


「…今生の別れでもないんですから、心配しなくても大丈夫ですよ。」


「でもな…」


「私は、キリッとしているお兄様が大好きです!カッコよくお見送りしてくれた方が嬉しいです!」


 そう言った途端、顔つきが変わった兄。…私は兄の仕事姿を見たことはないけれど、いつもこうやって仕事をしているんだろう。さすがは騎士団所属…ちゃんとカッコいいじゃない。


「ツバキ、気をつけて行ってくるんだぞ。」


「はい、お兄様。…お父様もお母様も、行ってきますわ。」


「あぁ、くれぐれも道中気をつけてな。」


「何かあればいつでも連絡ちょうだいね。」


「わかりました。…じゃあ馬車を出してちょうだい。」


 御者にそう声を掛けると、馬車が動き出した。馬車の中から少しだけ顔を出し、家族へ向けて手を振った。兄だけが全力で手を振り返している姿を見て、思わずフッと笑ってしまった。


 馬車の中ではマーサと二人きり。…信頼できる人と一緒なのは本当に心強い。


「マーサ。改めてよろしくね。」


「…こちらこそよろしくお願いいたします。今日からは護衛兼メイドだと思ってくだされば幸いです。」


「護衛?…え、何?もしかして護衛もできちゃうの…?」


「はい、一応ですが。簡単な護身術程度は身についております。…もし何かございましても、私が命に代えてもお嬢様をお護りすることを約束します。」


 かっ…カッコいいぃ…!え、なにこのメイド…カッコ良すぎて普通に惚れそうなんですけど。


「…マーサがいなくなったら私が困るから、命には代えないで。だからね、マーサ。生きて、私を護ってちょうだい。」


 そんな事を言う私に、マーサがフッと余裕そうな笑みを浮かべる。


「お嬢様の、仰せのままに。」


 くぅぅぅ…カッコ良すぎるって。何なら攻略キャラよりカッコいいこと言っちゃってない?大丈夫そう?


「…頼りにしてるわ。あ、そうだ!これからの日程を聞いておきたいのだけれども…いいかしら?」


「勿論です。…予定としては、4日後のお昼過ぎに王都へ到着し、そのまま王立学園へ向かうことになっております。道中では適宜休憩を取りながら、夜には到着した町で一晩宿屋に泊まり、朝食を食べたらまた出発することになります。」


 そう言いながら、マーサが徐に簡易的な地図を取り出した。


「予定通りに馬車が進みましたら、今日はセヘルス辺境伯領であるアンデンシア、明日はプロシャンス、明後日がスカジャット、そして明々後日はフェリンツェ地域に宿泊することになります。ただ、天候や馬の体調などにより日程が変化する恐れもありますので、ご了承ください。」


「わかったわ。ありがとう、マーサ。」


 広げられた地図を見ながら、改めて自分が辺境伯の出身であることを自覚する。王都から見ると西の外れにある広大な土地であるアンデンシア。様々な地域を横断しなければ王都には到着できないことが容易にわかる。


 ゲームの舞台は基本的に王都中心であるため、こんなにも様々な地域が存在するとは思ってもみなかった。…ここに来て、初出しの情報である。


「いえ。…もし、体調が優れないなどございましたらお声掛けください。馬車を停めて休憩させますので。」


「わかったわ。」



 それから私とマーサ、そして御者は何のトラブルもなく4日目を迎え、無事フェリンツェ地域に足を踏み入れた。馬車の乗り心地というものは思っていた以上に悪く、乗り心地だけを考慮すれば、夜行バスに乗った方がマシと思えるほどだった。…ただ、昼は自分の好きな時間に休憩を挟むことができるし、夜はベッドで快適な睡眠を取ることができたので、まぁ…プラマイゼロ、くらいにはしておこうかしら。


 そんな事を呑気に思っていた時だった。急に馬車が止まり、馬の鳴き声が馬車の中まで聞こえてきた。


「どうしたのかしら…?」


「…確認して参ります。お嬢様はできるだけ態勢を低くして、馬車の中から絶対に出ないでください。」


「…わかったわ。」


 サッと飛び出していったマーサを見送り、言われた通り態勢を低くしてジッと待ってみた。…けれど、マーサはなかなか帰ってこない。何なら、争うような声が聞こえてくる。


「マーサ…?大丈夫、なのよね…?」


 思わず、自分の口からそんな言葉が漏れた。その瞬間、マーサの声が響いた。


「お嬢様っ!!絶対に馬車の扉を開けてはいけません!!盗賊です!!」


 盗賊…!?マーサの言葉に慌てて扉に近付くと、二人の男がこちらに走ってくる姿が目に入った。咄嗟に扉が開かないように、内側に向けて全力で引っ張る。


「お嬢さん、抵抗しないでくれたら五体満足に返してあげるからさぁ?…ここ、開けろよ。」


 その言葉には反応せず、扉を引っ張り続ける。…マーサが私のために頑張ってくれているのだ。私だって自分の身くらい自分で護らなければ。


「おい、無視してんじゃねぇぞ!」


 馬車をガンッと蹴られ、思わず手を離しそうになったけど、それでも私は扉を引っ張り続けた。


「…仕方ねぇ、強行突破だ。」


 一人の男がそう言うともう一人も頷き、そのまま馬車の扉を力任せに引っ張り出した。あまりの力の強さに、扉が少しだけ開き、隙間ができる。このままでは扉の綱引きに負けてしまう…そう思った私は、パッと扉から手を離した。

2024.12.25


メリークリスマス!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ