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別れ話

「莉緒、別れてくれ。」



 別れ話は突然……というわけでもなく。


 いずれは、私の方から切り出そうとしていたものだった。


「何、浮気相手が妊娠でもした?」


 別にカマをかけた訳でもない。目の前のクズがしでかしそうな事を予測しただけだ。


 驚いたのか、図星だったのか目を丸くさせたクズが、恐る恐る口を開く。


「知ってた…のか?」


「浮気してたのはね。…でも、まさか浮気相手との子がデキたとは思ってなかったけど。」


「莉緒!お前…!俺のスマホ勝手に見たんだろ!?」


 急に激昂してくる目の前のクズに呆れて物も言えない。


「…アンタと最後に会ったのいつだと思ってるの?」


「それは……」


「私がわざわざ時間作っても、飲み会が~とか商談が~とかテキトーな嘘ばっかりついて、会わなかったのはどちらさんでしたっけね?」


「…っ、じゃあ何で知ってんだよ!説明しろよ!」


「……何で、私がアンタみたいなクズに説明しなきゃいけないわけ?まずはアンタが浮気した理由を説明しなさいよ。…どうせ、可愛いくて若い子に誑かされて、理性失ったんでしょ?猿並みね。」


 盛大に煽ってやると、クズは顔を赤くして、さらに激昂。ここがカフェだということも忘れて、思いっきり立ち上がったことで椅子が倒れる。


「黙って聞いていればお前は!!…大学の頃は綺麗で魅力的な女で、隣にいるだけで人が集まるような存在だったのに!今はどうだ?大学時代の友人も、今のお前を見たら心底ガッカリするだろうな!俺もお前にはガッカリしてんだよ、莉緒。…だから浮気した。それの何が悪い?」


 開き直って早口で捲し立てるクズを見て、何とも言えない気持ちになった。


 この感情は怒り?哀しみ?…いや、どれでもない。完全な無だ。

 そして、コイツを好きだと思って、5年間も付き合ってきた自分に対する恥…。


 コップを掴みかけ、慌ててその手を引っ込めた。ここでこのクズに水をかけても、コイツは反省なんてしないし、それよりも店員に片付けさせるのは申し訳ない、という気持ちの方が大きかった。


 そんな事を考えられる余裕があるくらい、私の頭は何の淀みもなくスッキリとしていた。


「別に。アンタが正真正銘のクズだって結婚する前に知れて良かったわ。…まぁ、せいぜいお幸せに。」


 私はそう言うと、2人分のコーヒー代には十分足りるお金をドンッと力強く机に置くと、そのまま振り返らずにカフェをあとにした。



「あー、もしもし?沙耶香?…うんうん。お陰様で、あのクズと別れられたわ。ありがとう。うん?あー、最後の最後までクズすぎて笑っちゃったわ。…え?今日うち来て飲まないかって?行く行く!美味しいお酒持って行くわね。はーい、じゃあ夜に。」


 電話を切った私、椿(つばき)莉緒(りお)は清々しい気持ちで、近くの酒屋へ寄った。


 美味しそうなスパークリングワインを探しながら、クズとの長い長い付き合いを思い返し、無駄な時間を過ごしたなと改めて感じ、ため息をつく。


 アイツと出会ったのは大学1年の頃。サークルで一緒になって、遊ぶ機会が増えて…気付けば大学3年の頃には付き合い始めた。


 ただ、違和感を感じ始めたのは4年になってから。就活が本格的に始まると、そもそも大学で会う回数も減り、自然と連絡をする回数も減った。


 たまに会っても何となく感じる居心地の悪さ。そんな感情に気付かないフリをしたまま、私とアイツは社会人になった。


 ただ、私が望んで入社した企業は、所謂ブラックで…毎日残業、休日出勤が当たり前だった。


 勿論、自分の時間なんて作れたもんじゃない。美容院にもエステにもネイルにもオシャレなランチすら行けるわけがなく、自分の家にはシャワーを浴びて寝に帰るだけの日々が続いた。


 そんな暮らしをしていたので、アイツと会うのは良くて半年に1回…酷い時には1年近く間が空いてしまう時もあった。


 …だから、親友である土岐沙耶香(ときさやか)が浮気の証拠を見つけてくれた時も、しょうがないかと割り切っている自分もいた。


 ただ私も人間なわけで。私が死に物狂いで働いて、やっと勝ち取った休みをわざわざアイツに使おうと思い連絡したら断られ、呑気に浮気相手とデート。そして、その浮気相手はSNSで『彼氏とデート♡』と顔写真付きで投稿した。


 軽く殺意が芽生えた、と同時に…コイツはどこまでクズなのか確かめたくなった。


 だから、仕事が休みでもないのに意味もなく誘ってみたこともあったけど…見事に全スルー。…その瞬間、私は何でコイツを好きだったのかもわからなくなった。


 そして、今日だ。アイツが言わなければ私が言おうと思っていたタイミングだったから丁度良かった。…まぁ、どうせなら私から振ってやりたかったけど。今はもうそんな事どうでもいい。


 美味しそうなスパークリングワインを片手にレジへと向かう。


 そうよ、今日はクズ男と別れた記念日!パーッと飲んで、綺麗さっぱり忘れて、新しい道を切り拓くんだから!


 そう思い直し、気持ちを切り替えた私は会計を済ませると、その足でコンビニへ向かい、おつまみを買って沙耶香の家へと向かった。

初投稿&初転生ものです!

応援よろしくお願いします!


2024.12.1 開始

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