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地球のために  作者: 須賀マサキ


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第十三話 夏休みの終わりに

 波乱万丈の夏休みが終わり、今日から新学期が始まる。

 ぼくはいつものように家の用事を済ませ、学校に向かった。


 交差点で立ち止まらずそのまま学校に向かおうとしたら、悪ガキ軍団がぼくを見つけてまとわりついてきた。

「ハッちゃん、おはよう。今日から新学期だね」

「しばらく見かけなかったけど、元気だった?」

 この子たちにからかわれるのを恐れて、夏休みの間ぼくは学童保育が始まる時間帯を選んで部活動に通った。授業と違って遅刻なんてないからね。


 四人を見送っていると、後ろから不意にぽんっと肩を叩かれた。

「ハヤト、おはよう」

 英嗣(ヒデ)だ。いつも遅刻ギリギリに登校するので、朝は一緒になったことはない。

「おはよう、九月になったのに暑いね。こんなに暑い日が続いてるんだからさ、夏休みを延長してもらいたよ」

 おどけて言うと、いつもクールな英嗣(ヒデ)が、フッと口元に笑みを浮かべる。


 めずらしいこともあるものだと思っていると、

「安心したよ」

 と目を細めた。

 そうか。今日から麻衣を避けられないぼくを気遣って、一緒に登校しようと待っていてくれたんだね。


「なんだよ、急に。失恋なんて大したことないさ。ひとりで登校できて、清々(せいせい)してるくらいだよ」

 ぼくは(きびす)を返し、早足で歩く。

「おい、ハヤト。早起きして待っていたのに、その態度はないぜ」

 あわてて追いかけてくる英嗣(ヒデ)の気配を感じる。あの口調だと笑顔いっぱいに違いない。


 仲間の物言わぬ気配りが、今のぼくには泣きたいくらいに嬉しかった。

 以心伝心。バンドメンバーの絆は固い。



   ☆  ☆  ☆



 結局「地球のために」という宿題は、ぼくには難しすぎるテーマだった。

 兄さんが帰ってからは、麻衣のことを忘れたくて、朝から晩まで音楽に浸っていた。

 そして気がついたときは、夏休みはあと二日しか残っていなかった。


 翔太(ショウ)に与えられた使命である「打倒、倉田先輩!」を満たす作文を書くどころか、英語や社会の問題集を仕上げるのに、ほとんど徹夜で始業式の朝を迎える。


 作文はどうなったかって?

 難しいテーマを選ぶのはやめて、地球温暖化を防ぐためにできることを考えて書いた。悔しいけれど、麻衣が倉田先輩にアドバイスされた内容と、結果的に同じになった。


 でもあの作文を書くために考えた時間は無駄じゃなかったと確信している。テーマを考えていたおかげで、自分の将来について思いを馳せることができたからだ。


 スーパーヒーローになれないぼくができることは限られている。

 でもそれは今のぼくには難しいっていうだけで、将来までも否定されるものではない。


 もっと自分を磨き、成長させる。そのためには学校の勉強だけじゃなく、多くのことを学んで、まずは自分が成長しなくてはいけない。

 今はまだ頼りない男だけど、絶対に立派な人物になってみせる。そんな目標を見つけられたから、あの宿題は無駄じゃなかった。


 失敗を繰り返しながら成長することも、兄さんとの勉強を通して学べた。

 失恋は辛い体験だったけれど、麻衣は今日も同じクラスで元気に活躍している。同じ音楽仲間として、吹奏楽の全国大会には応援に行きたい。

 それまでに気持ちに整理がつくといいけど。

 でも心配はしていない。ぼくには頼りになる仲間がいるんだから。


 いろいろな出来事のあった夏休みが終わっても、ぼくを取り巻くものは変わらない。

 でも少しだけれどぼくは成長したと実感している。そう考えれば、失恋も悪いものではない。


 音楽の幅も広がった。今のぼくなら失恋ソングはだれにも負けないよ。

 苦い経験を重ねるほど、人間は成長するものだ。


 退屈な始業式が終わったら、軽音部の活動だ。

 地球のためには程遠いけれど、人の心を動かせる音楽を作れると信じて、今日もぼくらはバンド活動を続ける。

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