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第6話 夜会のはじまり

 そして迎えた王家主催の夜会。サブリナ様の目がギラギラと光っている中、主役であるフェルナン陛下は、私をエスコートして堂々と会場入りをした。  


すると、聞こえる聞こえる。女嫌いで有名なフェルナン陛下が連れているあのご令嬢は何者なのかと、あちらこちらで貴族たちの憶測が飛び交い、その正体が従者の聖騎士であると知っている者たちは驚きの声を上げているのが。


「あの美しいご令嬢はどこの誰だろう……?」

「まさかあれがアルヴァロ・ズッキーニ……⁉」

「きぃぃっ! なんて大きさなの! メロンかと思いましたわ!」


 んなわけねぇだろとつっこみたくなるが、私は淑女らしくにこやかに微笑みながら、フェルナン陛下の隣を優雅に歩いていた。いや、優雅に見えるように必死に歩いていた。油断するとコルセットで締上げられた胴から臓器が飛び出しそうだし、ドレスの裾か陛下の足を踏んづけてしまいそうになるので、一秒たりとも気を抜くことができないのだ。


 しかし、どうやら私の頑張り第一段階は成功したようだ。

 人の印象を左右するのは九割が見た目だという。ならば私は、人の目に美しくたおやかに映るようにと、外見を磨きに磨きまくったのだ。

 

 幸い、かつての極貧生活とは異なり、現在陛下の護衛騎士を務めている私は高収入。陛下に頼んで有給休暇を使わせていただき、金にものを言わせて、この夜会までの間に宮廷美容家のサロンに通った。全身のエステやマッサージ、流行りの化粧も教わり、肌やドレスに合うアクセサリーについても学ばせてもらった。

 男装をしてきたこの人生で、まさかこれほど女性らしく華やかな恰好をする日が来るとは思っていなかったのだが、我ながら美しく仕上がったと自負している。


(これなら陛下の隣にいても、認めてもらえるよね?)


 私がドキドキしながらフェルナン陛下のご尊顔を拝もうとすると、彼もこちらを見ていたらしく、ぱちりと目が合ってしまう。美しい金色の瞳に見つめられ、私の心臓の鼓動はいっそう加速して、思わず言葉を失ってしまう。


「休みの間、何をしていたのかと思えば、ずいぶんと美しくなっていて驚いたぞ」


 フェルナン陛下の指が、私の耳飾りをちょこんといたずらっぽく触る。

 私は陛下に美しいと言われたことが嬉しくて、つい淑女の仮面が剥がれてニヨニヨしそうになってしまう。

 危ない危ない。だらしない顔を晒すわけにはいかないと、私はツンとお澄ましモードでにこりと目を細めた。


「サブリナ様にご納得いただけるためにも、ちゃんと女性らしく振る舞っておく必要があります。それにここは公の場。陛下がろくでもない女を連れていると噂になれば、今後の政治に響きかねませんからね」

「さすがは俺の従者だな。……と、言いたいところだが」


 ちょっぴり偉そうに語っていた私の頬を、フェルナン陛下の指がドゥスゥッと突いて来た。


「いった!! 地味アクションのわりに痛いんですけど! 化粧崩れるんですけど!」


 私が驚きながら抗議の声を上げると、フェルナン陛下は「だって」と口を尖らせていた。まるで拗ねる子どものようだ。


「アルヴァロが綺麗になってくれたのは嬉しいが、ここ数日俺をほったらかしだったじゃないか。寂しかったぞ」


(さ……、寂しんBOYか!)


 きゅんきゅんして、胸が苦しい。私が仕事を休んでいたから寂しかったと言ってくださるなんて、自分はなんて果報者なんだろう。もう一生仕事休まない! 陛下が労働組合から訴えられても知らないぞ! と、私が社畜になる覚悟を決めていると。


「陛下……。私……、私も……」


 エステされながら、ずっと会いたいと思ってましたと言おうとするが、胸が苦しくて言葉が出てこない。それどころか息が吐けない、吸えない、めまいがする。


「あ……、かは……っ」

「アルヴァロ⁉ どうした⁉」


 顔が真っ白になり、胸を押さえてよろけた私をフェルナン陛下が支えてくれた。けれど、息苦しさは増す一方だ。


(やば……。コルセット、締めすぎた……)


 そう伝えたくても声が出ず、私はコルセット死を覚悟した。明日の朝刊の一面は、『女体化の聖騎士、コルセットで死す』に違いない。できればフェルナン陛下をお守りして死にたかったが、彼の腕の中で眠ることができるのならば、それも悪くないなぁなどと、私が霞む視界の中で陛下の姿を捜していると――。

「いけませんわ! こちらの部屋でコルセットを緩めましょう!」


 目の前に現れた女性と思しきもやもやとした紫の人影が、私の手をぐいと引いた。


(そう! コルセットなんだよ!!)


 救世主が現れた、と私の頭にコルセット死回避の文字が浮かぶ。

 フェルナン陛下が何か言おうとしたが、事は一刻を争っていたので、私は必死に声を振り絞り、「ちょ……と、いってき、ます」とその紫の人の手に引かれるがまま、会場を後にしたのだった。


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