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第14話 勢いに身を任せ

アルヴァロ視点に戻ります。クライマックスが近づいてまいりました。

 時は少し戻り――。


 他の公園利用者の迷惑になってはいけないと思った私は、チンピラ三人組の後に大人しくついて、人気のない茂みに来ていた。

 黙って聞いていると、彼らには雇い主がおり、雇い主がどうしても私に復讐がしたいと言っているとのことだった。といっても私は陛下のために日々たくさんの不届き者を成敗しているため、いったい誰の指金かは検討がつかない。職業柄、恨まれることはたくさんしてきたのだ。


(まぁ、誰でもかまわないけど)


 どうやらチンピラ三人組は、私の正体について雇い主から詳しく聞いていないらしい。

華奢で可憐な貴族令嬢の装いの私を見て、「ちょっと味見させてもらおうぜ」、「お楽しみの時間だ」、「可愛がってやるよ」と下衆な台詞を吐いているので、まさか誘拐した相手が国一番の聖騎士が女体化した(ことになっている)姿だとは思いも寄らないだろう。そう思うと、なんだか気の毒になってしまう。


「でも、今、仕事中だから。パパっと終わらせて、視察に戻らせて」


 同情するなら拳をあげよう。

 私は、剣がなくとも十分強い。寧ろ、型にはまらぬ自己流格闘技の方が、自信があるくらいで――、そんなことを思いながら、私の拳がチンピラ三人組に向かって炸裂した。

 そして、闇落ち時代が蘇るような荒々しさで敵を秒殺。


「はーっ! 胸、ジャマ!!」


 サラシがあれば、もっと動きやすいのにと思いながら、私が指をバキバキと鳴らしていると。


「アルヴァロ……!」


 私を必死に探してくれていたらしい、フェルナン陛下が息を切らして現れた。

 彼は私の乱れた衣服(乱闘で破れた)と露になった肌を見るなり、ひどく青ざめた顔に変わった。


「すまない、アルヴァロ……。俺がお前を一人にしたばかりに……」

「いえいえいえ! 何かされる前にぶちのめしましたので! 勝手な想像しないでください!」


 指をバキバキさせていたあたりは見られていないことを願いながら、私は必死に身の清らかさをアピールした。傷モノ扱いはごめんだ。


(だって、私強いから! 性別も元から女だし! 戦闘力落ちてないし!)


「心配なさらずとも、私は最強の従者ですよ? 陛下が一番ご存知でしょう」

「あぁ、そうだ。そうなのだが……」


 何か言いたげなフェルナン陛下を見て、私は小首を傾げる。いつも何でもかんでもはっきりと言う人なのに、いったいどうしたのだろう。


「陛下? 何か変なものでも食べました?」


 私はフェルナン陛下に近づき、ぐっと詰め寄った。この人は毒身役を通さずにパパっとものを食べてしまう癖があるので、いつも私が見張っているのだ。もしや、私がチンピラたちを相手にしている間に何か買い食いを――?


 するとフェルナン陛下が「近い! 近いぞ!」と、急に顔を背けた。恥ずかしそうに顔を赤くして、見ないでくれと言わんばかりに。


「えっ」


 もしかしなくても、フェルナン陛下が照れている。こんな陛下、今まで見たことがなかった。

 破れた服のせいだろうか。常に堂々としている彼には、恥ずかしいとか照れるといった感情は存在しないかと思っていたのに、まさかこれほど可愛い顔をするなんて。


 急に胸がぎゅんっと痛くなる。

 女嫌いの国王のくせに、男装女体化従者の私にこんな可愛い顔を向けるなんて残酷すぎる。

この表情は私だけのものにはできない。女嫌いが治ったら、陛下はどこぞの貴族令嬢を娶ってしまうのだ。きっと相手は、嫌われたくなくて男だと偽っているような浅ましい女でも、素手で悪漢をぶちのめすような乱暴な女でもない。たおやかで守りたくなるような女性に違いない。


 そして従者の私は、それを一番近くから見ていなければならない。


 どんな形であっても陛下が幸せならそれでいい、なんてどの口が言っていたのだろう。


「ずるい……。ずるいですよ、陛下」


 私はいつだって勢いに身を任せる。

 近所のボンボンを殴るのも、騎士を志したのも、男装することを決めたのも、【女体化】の呪いを受けていることにしたのも全部。

 今、フェルナン陛下の頬を両手で包み、口づけをしようとしていることも――。


「女嫌いの治療ですから、じっとしていてくださいね……」


 私の唇がフェルナン陛下の唇に近づく。

 触れ合う前から感じる温度に鼓動が早くなり、そして――。


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