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第13 惚れてまうやろ!

フェルナン陛下視点の話です。

「ふんんんんんッ‼」


 俺、フェルナン・フォン・イフリートは、森林公園のど真ん中で気合の雄叫びと共に握り締めた拳を強く胸に打ち付けた。

 周囲の目? そんなものは気にしている場合ではない。


(危なかった。正気を取り戻せたぞ)


 胸の痛みで頭が冷静になり、俺はほっと息を吐き出す。

 その理由は、うっかり従者に惚れてしまうところだったからだ。


(デートが楽しくて我を忘れてしまいかけた。アルヴァロは、どこかあの子に似ていて困る……)


 公園に来ている民たちが遠巻きにこちらを見つめる中、俺はレモネードを二つ購入し、いそいそと従者アルヴァロのもとを目指す。そのアルヴァロが問題だった。


 金色の柔らかそうな髪に宝石のような翠眼を持つその従者は、あどけない少年のような顔をしている癖に、体の主張はえらく激しい。

 そんなアンバランスさは【女体化の呪い】によるためだろうが、むしろそこがイイと思ってしまうなんて、俺はなんて酷い主なんだろう。まるで変態じゃないか。


 一刻も早く呪いを解いてやらなければならない。

 いつも傍で支えてくれて、時に従者として、時に友人のように接してくれるアルヴァロ――想い人がいるという彼のために。


(アルヴァロ。お前もきっと仲良くなれると思うんだ。あの子――十年前修道院で出会ったあの少女は、お前に似て強くてかっこいいから……)


 そんなことを考えながら、俺はアルヴァロの待っている池のほとりに戻って来た。

 しかし、そこにアルヴァロの姿はなく、残されていたのはへし折られた婦人物の日傘だけ。

 それは、女性の装いをしてくれたアルヴァロが差していたはずの日傘だった。


「アルヴァロ! どこだ、アルヴァロ!」


 血の気が引き、嫌な汗が流れる。


(俺はなんて馬鹿なことを……!)


 男の聖騎士アルヴァロならば、単独行動だって隠密行動だって任せられる。

 だが、今彼は女体化しているし、貴族令嬢の装いをしている。その上剣も持たず丸腰だ。

 美しく可憐で、一人で留守番中のアルヴァロを皆が優しく見守ってくれるような世の中であれば、警官はいらないのだ。


 何者かに連れさらわれたであろうアルヴァロを探すため、俺はレモネードを放り出して走り出す。


 まだそう遠くには行っていないはずと願いながら、100m走2秒の足で必死に森林公園を駆け回り――。


「……いやぁぁぁッ!」


(この声は!)


 聞き覚えのある声がした方へと走ると、暗く人気のない茂みから何かが飛んできた。


「ぐえっ!」


 何か――素行の悪そうなチンピラ男が、潰れた蛙のように地面に叩きつけられた瞬間だった。


「せいやぁぁぁッ!」


 気合の怒号と共に、さらに「ぐえっ!」、「ぐえっ!」と2名様が追加される。


 俺は目を丸くしながら、チンピラ男たちをぶっ飛ばした声の主を見つめた。


「はーっ! 胸、ジャマ!」


 そう言いながら指をバキバキ鳴らしていたのは、アルヴァロだった。

 美しいご令嬢でもなく、優秀な聖騎士でもなく、荒々しい強さと気高さを隠さないその姿はまるで――。


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― 新着の感想 ―
[良い点] さらってはイカン相手に手を出した賊の末路…(^▽^;)
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