Georgia on My Mind <こんな故郷の片隅で>
電気を点けなければ、ちょっと伏魔殿っぽいのが給湯室。
そこで何が調合されていても
おかしくはない。
私の生業の中で……
一日に何本も食べていると
さすがにお腹がいっぱいになってくる。
それは享楽という盤の市松模様の黒いところ
そうなると、行為は咀嚼となり
例えば、今、両腕を埋めている枕が揺れるのを
目の端で残像として捉えてしまう……
市松模様の白が来るまで。
あぁ
吸いたいのは
タバコ
肺の奥にしみる
ガツン!としたやつ
。。。。。
こんなフラッシュバッグを見てしまった。
現実は、バイトで派遣された仕事先である『オフィスの給湯室』
なぜこんなフラッシュバックを見たのか??
ライトグリーンの箱からタバコを1本抜いて、
『LV』を模したデザインのジェルネイルで挟んで火を点ける
バカげた女が目に入ったからだ。
そして
その女は繋がらない会話の報酬の中に居た。
「ってか、全然最近イケてないし…」
「今日みたいに、何人も人が居るのが珍しくなったからね」
「今度、テレワークの時も1時間に1回Z●●mやるってさ」
「何考えてんだろ?」
「ハゲの考えることなんてエロいことに決まってんじゃん」
女はくっちゃべりながら……手に持った吸い掛けのタバコの灰を当然の事の様に急須の中へ落とす。
「そこのお茶缶取って!」
狭い空間にこの手の女が数人いると
彼女達が放つ“パヒューム”がぶつかって気持ちの悪い喧嘩となる。
運悪く、私が修理中の『高機能オゾンミスト発生装置』の上に、金色の玉露の缶が置いてあったものだから、私は“パヒュームの喧嘩”のとばっちりを食ってしまい、げんなりとしていた。
今の私はいつもの“風俗嬢”では無く……
バイトとは言え“修理業者”として作業着で機械の胴体の中を探っている。
今日は指を切らずに目当ての基板を引き出せた。
と、給湯室の電器ポットのアラームが鳴る。
こちらからは見えないが、さっきの女がタバコの灰を落とした急須の中に玉露をザラザラと投入して、上から熱湯をぶっかけているらしい。
玉露に100℃のお湯をそのまま注ぐなんてもったいない話だが、元々タバコの灰混じりのお茶だ。
淹れる者も戴く者もそれ相応というところか
その彼女たちの目には、私は単なる“無機質的物体”としか映っていない様なので
彼女たちは明け透けで嚙み合わない会話を再開した。
「で、最近イケてないのよ」
「カレシは?」
「アレは…ヤルこと、ルーティンだしさ」
「ルーティンだっていいじゃん。砂が乾くより」
「私は今はウザくて自分で水やる方がイイ」
「こうたびたび宣言が出るとさあ 何もできんよね」
「アンタ、こないだ康子と駅前のロータリーで缶チュやってたでしょ?」
「見られた? 店閉まってるから、まるで中高生のガキになってんのよね」
「ガキは缶チュやったら補導されるって」
「歩道で?」
「つまんね~ それオヤジベタだから」
「じゃあオンライン合コンは?」
「なにそれ?」
「あ~なんかそういうサイトいっぱいあるよね」
「確かに場所選ばないし、ウケそう」
「私はこないだツレの関係で初参加したんだけどさ…」
「初参加して?」
「お持ち帰りされたっていうか、した」
「えっ?」
「どういう事?」
こちらには実害は無い筈だが、物事の成就を妨げそうに思えるその空気を私の手元から遠ざけたくて……
私は
手に持ったハンダゴテの先で溶かされたハンダを
フッ!と吹いた。
その“ひと”の息遣いに
彼女たちは話を止め、こちらを見る。
さて、物体としての認識を止めるかどうか……
しかし
「すみませ~ん!お茶お願いします」
と、外野が入ってきたので彼女たちは散開して行った。
後は
私と機械の二人っきり
物体としての二人は、『抱き合い』、『対話』する。
これこそ
私に似つかわしい。
いつも何らかの“曲”に侵されている私の頭の中で“Georgia on My Mind”が静かに流れている。
今、私は、こいつとチークを踊っているみたいだ!
気が付けばここのフロアカーペットも……
ブルーグレーの濃淡市松だった。
このお話は、代表作『こんな故郷の片隅で 終点とその後』よりずっと前の冴子さんのお話です。
元々18禁のところで投稿していた物を手直しして掲載しました。
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