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気付かない知らせ

 「おっちゃん、あがらせてもらうぜ」


 「失礼しま~す」


 まだまだ田舎のここでは、玄関に施錠はしないのだ。


 二人の少年は居間を抜けて、この家で唯一エアコンのある部屋に入りスイッチを入れた。


 「ふぃ~涼しい」


 「生き返るね」


 「にしても、おっちゃん居ないんかな?」


 「珍しいね。いつも用意して待っていてくれるのにね」


 用意してあるとは将棋のことで、縁あって三人は同じ趣味だった事がわかったのだ。


 悠真と優斗は中学生で、最近、優斗が転校して来てすぐに、優斗の父親の葬儀が行われたのがきっかけとなった。


 父親の静養の為に山深いこの田舎に来た筈が、朝の散策の途中で、父親が熊に襲われてしまったと言う話しなのだ。


 集落の皆で捜索して、それから、酷く刻まれた遺体を発見した後、葬儀となりそこで、悠真とおっちゃんとは遠い親戚だと判明したのだ。


 以来、優斗を慰める目的もあったが、誰かと対局したり教わったりすることで、伸び盛りの少年二人は、メキメキと腕を上げこの集まりが楽しくてしょうがなくなってしまったのだ。


 「先に一戦しようぜ。俺、やぐらを試したいんだ」


 「言っちゃっていいの?」


 「あ、えっ? 今、俺何か言ったか?」


 「じゃあ、僕もやぐらやってみよう」


 「よし。どっちが強いか勝負だ優斗」


 「負けないよ」


 早指しの悠真に熟考型の優斗。


 そうは言っても、将棋は時間のかかる戦い。


 力が亀甲している事もあり、中々に時間がかかってしまっていた。


 終わってからも、勝負を振り返って考察するので、気付いた時には、庭には西日が射していた。


 「あれ? おっちゃん帰って来ないな」


 「車があるから、畑にでも行ったのかと思ったけど、何かあったのかも……」


 突然の父親の死があったばかりで、表情が暗くなる優斗。


 「あのおっちゃんの事だから、畑の柵でも直してんじゃねぇの?」


 「うん、……そうだね」


 少年二人は、暗くならないうちにと、隣の畑まで走って出た。


 そう広くはない、と言うか、一目見れば作業していない事がわかる畑だ。


 それを大声を上げて一緒に探す二人。


 「おっちゃ~ん」


 「おじさん何処?」


 悠真の背中に貼り付く優斗がビクビクし始めたところで、一旦戻る事にした二人。




 「おっちゃん、帰ってきたぁ?」


 すると、さっきまでシーンとしていた居間の奥から、おじさんがいつも聞いていたラジオの雑音がした。


 ピーキュルキュル…ジジ。


 「なんだ、帰ってるじゃん」


 「良かったぁ」


 外が暗くなってしまったのもあって、二人は急いでエアコンのある部屋を開けたのだが……。


 「誰もいない?」


 「お風呂かなぁ?」


 確かに奥の方からラジオの雑音がしている。


 「おっちゃ~ん」


 ガタガタする戸を横にスライドすると、ついていた明かりが突然パット消えた。


 「うわぁ、何」


 「痛っ。悠真がスイッチでも触っちゃったんじゃないの?」


 怯えて下がってきた悠真に足を踏まれ、痛い方が勝った優斗は、憎まれ口をきいている。


 「ちが、開けたら電気が……急に……」


 説明しようとする悠真と、足を擦っていた優斗は、そこからブツブツと何かを唱える声を聞いた。


 ……妙……蓮華……南……ゆう………みょぅ……。


 「「う、う、うわぁ!」」


 一心不乱にエアコンのある部屋に逃げ込んだ。


 「い、今の何?」


 「知らねぇよ」


 「とにかく、帰ろう悠真。帰って、おじさんを探してもらおう」


 「そ、そうだな。そうしよう」


 それ以上思い出したくはないのか、二人は、そのままエアコンのスイッチを切って帰ろうとした。


 ところが、酷く焦げたような異臭がして、見ればエアコンからは、何かがボタボタと垂れ落ちていて。


 「悠真ーーっ!」





 悠真は、エアコンのコントローラーを握った反対の手で絶叫する優斗の腕を掴み外に出ようとした。


 靴を履くのもそこそこに玄関を開けようと手を伸ばし……。



 「ゆ、悠真……僕の靴が何かで濡れているみたいで」


 グンと背中を引っ張られたのもあって、思わず振り返ったその顔に。


 ピチャッ。




 「ヒィヤア!」


 「悠真、どした……」




 少年二人が見上げる先。


 大きな梁から下がった獣のような毛の生えた傘が揺れていた。


 「さ、さっきから何かが変だよね」


 「優斗、早く……早く靴を……」



 まだ正気でいる悠真は、あと少しだと気を張っていた。




 カラカラカラ。


 


 だが、そこまでだった。


 玄関の戸が突然開き、何者かが振り上げた光る何か。


 咄嗟に持っていたリモコンで防ごうとして落とし、必死にその何者かの袖を掴んだ。


 が、それは、悠真の額を切り裂き、かがんでいた優斗へと押されて倒されて終わった。


 「わーーーっ!」


 痛さとパニックで暴れる悠真に優斗は優斗で恐怖からしがみついていた。


 しかし、その間に、その何者かは消えてしまっていた。

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