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喫茶店サブラン  作者: 黒花
2/2

常連客の宝物

 カラン…と店の扉が開く。



 おや、おかしいな。確かに今ドアベルは鳴り、扉は開いたはずなのに。視線を向けるもお客様の顔が見えない。


 どうやら店員たちも気付いていないようだ。


 だが私は、笑みを浮かべて待つ。


 実は、これはとある彼女のご来店の合図だからだ。



「こんにちは、いらっしゃい。


 どうぞ、お好きな席に座ってくださいな」


「おじさん、あの新しいお茶をひとつお願いします」



 途端に目の前に現れる、桃色の髪。そこから覗くのは天然鉱石のような深い青い瞳。手元には金色の飾りが光る。



「今日はお休みですか、姫様」


「うん、だから来たんだ」


 笑うその顔は、昔の常連客を思い出す。

 青い瞳の彼女と、桃色の髪の彼をだ。


 彼女と同じように、いつもふらりと現れていた二人。初めて二人が姿を見せた時は、驚いたものだ。懐かしい。



「もう十年なんだね……」


 店内に飾っていた花を眺めた彼女は、ぽつりと呟いた。

 今年十八歳となった彼女。赤ん坊の頃から知っている彼女は、ここ数ヶ月で一段と綺麗になったと思う。彼女から多くは語られないが、時折見せる笑顔には、鮮やかな色が加わったような気がするのだ。



 叶うものなら、十年前に、命を落としたあの常連客二人に、見せたい。



「さて、お待たせしたね。新しい豆の茶になります」

「わあ……やっぱりこの香り、好き」



 目を輝かせてカップを覗き込む姿は、幼い頃から変わらない明るい笑顔だ。これからも変わらずにいてほしいと、心から願う。



『今日は私たちの宝物も一緒に来たのよ』

『この子もゆくゆくは、この店の常連客になってほしいんです』


 二人に抱かれた小さな赤子。


『貴方の火魔法は、とても素敵よ』

『もしも、私たちが先に立つ事があれば、その時は君の火で燃やしてくれないか』


 眠る子の側で告された、二人の想い。


 

 十年経った今も、こうして茶を用意する度に、火を着けて消す度に、鮮明に思い出す。



 おじさん、と声を掛けられてはっと顔を上げた。



「今日はもう一杯貰おうと思うの。


 あとね、相談したいことがあるの」



 常連客のあの二人が残した宝物。


 ずっと私が大切に預かっているからな。



「もちろんです。どんなことでしょうか、姫様」



 彼女に笑いかけると、私は再び目の前で火を着けた。

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