繰り返される、あの夢の意味を僕は知った。
暗闇。
僕は暗闇に1人。
身体を動かすことはできない。
目は開けているのか開けていないのか、それさえもわからない。
遠くで微かに声が聞こえるばかり。
暗闇に1人でいるのに、何故か怖くはなかった。
何故か満足していた。
わからない、わからない。
それがなぜなのか、僕にはわからない。
少しずつ、辺りが明るくなっていく。
それと共に、声は聞こえなくなっていく。
光が差してくる。眩しい。
[ピピピピピピピピ]
目覚まし時計が朝を告げる。
「.....ん」
僕は目覚まし時計を止めて、ベッドから降りる。
「また、変な夢」
ぽつりと呟いたその直後、ドアをノックする音が部屋に響いた。
「お兄ちゃん、朝ごはんだよ」
2つ下の妹、花楓の声だ。
「へーいよ~」
僕の妹はしっかり者で、朝ごはんも作ってくれるし、勉強もできるし面倒見もいい。そして何より羨ましいのが彼氏持ちという点である。彼氏持ちという点である。大事だから二回いった。彼氏め、許さんぞ。
「何ぼーっとしてるのさ、早く食べなよ」
「ああ、悪い悪い」
僕は用意されたご飯を口へと運んでいく。
別の日。
また暗闇。
また僕は暗闇に1人。
身体を動かすことはできない。
目は開けているのか開けていないのか、それさえもわからない。
遠くで微かに声が聞こえていたのが、今回は少しだけ大きく聞こえる。声がする。聞き覚えのある声がした。
そしてまた暗闇に1人でいるのに、何故か怖くはなかった。
そして何故か満足していた。
わからない、わからない。
それがなぜなのか、僕にはわからない。
少しずつ、辺りが明るくなっていく。
それと共に、声は聞こえなくなっていく。
光が差してくる。眩しい。
そして目覚める。
「ホント、なんなんだよ。」
わっけわかんない夢から覚めた僕は顔を洗いに行こうと、部屋から出る。
「あ、お兄ちゃん起きた。今から起こしに行こうとしてたけど、今日は起きたんだね。」
ドアを開けると花楓がそこにいた。
「ああ、ちょっとな。顔洗ったらすぐ行くわ」
それだけ言って僕は洗面所へと向かっていった。
「ねね、お兄ちゃん」
朝ごはんを口へと運んでいる最中、花楓が話しかけてきた。
「今度の土曜日、でかけよ~、ちょっと彼氏にプレゼントしたいんだけどさぁ、男の子って何あげればいいのかわかんないからさ。」
「知らん。適当でいいだろ」
「お兄ちゃん、いいの?毎朝朝ごはん作って、起こしに行ってるのは誰だろうなー」
花楓さんお顔が怖いぞ。妹こわっ!
「.....わかりました花楓様。あなた様と共にクソ彼氏のプレゼント買いましょう」
花楓はにぱっと笑って見せた。
「わーい!」
いつまで経っても子供っぽくはしゃぐところは変わらないな、なんてはしゃぐ花楓を見て思ったりした。
金曜日の夜。
暗闇ではなく、強い光で満ちていた。
大きなビルが建ち並んでいる。
隣には、妹の花楓。にこにこと微笑んでいる。
僕達は歩いていた。
交差点で止まる。たくさんの人々の中、近くの男の人達がふざけていて、その中の1人が花楓に当たった。
花楓がよろけて前に倒れる。
そこに1台のトラックが来る。
でも身体は動かなかった。
身体は僕の言うことを聞かなかった。
.....違う。
怖くて動けないんだ。動かないじゃない、動けないんだ。
どうすることもできず、そのまま花楓は―――――
「うわぁぁぁぁ!!!」
土曜日の朝が来た。
[ピピピピピピピピ]
僕は目覚めると、自分が汗だくなことに気がついた。気持ち悪いくらいにぐっしょりと濡れていた。
目覚まし時計を止めて、すぐに着替える。
「夢と同じ結果にしたらいけない。花楓を救おう。」
あんな、あんな結末、ダメだ。
ショッピングモールにて。
「お兄ちゃん、これはどうかな?」
「んー、男子がこれは無いな」
「んーじゃあこれは?」
「それは、よし」
花楓は満足そうにレジ持っていった。
モールから出た時、辺りは暗くなっていた。
「あー楽しかったぁ」
「僕はもう、はやく帰りたい...」
駅に向かって二人並んで歩く。
赤信号になり、止まっていると、ふと思い出した。
たくさんのビル。眩しい光。交差点。たくさんの人々。
夢と同じ状況。
そう気づいた時は遅く、夢の中と同じく男の人が花楓に当たる。
「花楓!!」
とっさに手を取るが、ダメだ、トラックが向かってきていた。
「おりゃぁぁ!!」
僕は花楓と入れ替わるかのようにぐるんと回転。代わりに僕が道路に出ていた。
これでいいんだ。これで。
僕はもう、助からない。トラックが悲鳴をあげる。ブレーキなんて効きやしない。
僕は暗闇の中にいた。
近くで人の声がする。花楓の声がする。
身体は動かない。
ああ、そういうことなのかと僕は悟った。
僕が見続けた夢はこういうことになるってことを知らせてたのか。でも、いいよ。花楓には彼氏がいるんだ。僕が代わりに死んだって構わない。花楓がいなくなるよりも、僕が死んだ方がいいに決まってる。花楓、ごめんよ。今まで苦労させたな、でもさ、最後くらい、妹を護れる兄貴にさせろよ。父さん母さん、花楓のことよろしく頼むよ、たまには家に帰ってこいよ。花楓、寂しがりだからさ。彼氏よ、花楓のこと、泣かせんなよ。
声が、遠退いていく。
強い光が差してくる。とても眩しい光。
これから僕はどこへ逝くのだろうか?
どうも、テストまで残り5日だというのに久しぶりのオリジナル短編小説書きました夜月桜麗、麗さんです。最愛の妹の為に命をかけた兄。カッコイイと思いませんか?人間は自分が一番可愛いと思っているので、命をかけて1人の人間を助けようなんてしません。口で「助ける」と言うだけで、いざとなったら見捨てるのが人間です。さて、貴方は大切な人の為に命をかけることはできるのでしょうか。それは誰にもわからない。起こらない限り、どうするかなんてわからない。人間はわからない生き物。
それではそろそろこの辺にしましょうか。
読んでくださり、ありがとうございます。ではまた会う日まで。