過保護
「えっと、さっきの続きなんだけど、私達は自分の空間に武器をしまっておくことができるの」
「?空間?」
「うーん・・亜助君の武器・・」
華ちゃんはどうしよう・・と悩んでいると
「亜助君はこの2つで良いですよ」
ポン!と魔法のように皇世が何かを出した。
「げ!またあっち行ってる」
せっかく2人から離したのにまた一瞬で戻ってしまった皇世を見て蓮はまたもや大きな溜息をついた。
「剣と・・縄?・・・重!」
手渡された亜助は武器を見て言った。
「皇世さ・・・先生も空間にこれしまってたの」
亜助がたずねた。
「いえ」
皇世は相変わらずニコニコしながら言った。
「意味わかんない・・」
「皇世は他の人とはちょっと違うからあんまり深く考えちゃだめ」
華ちゃんは困ったように言った。
「じゃ、空間の出し方なんだけど・・」
「華ちゃん、亜助君はまだ空間を作る基礎ができていないのでとりあえず実戦でいきましょう」
皇世が言った。
「・・どうせ華ちゃんには怪我させないようにするんなら最初から皇世さんがやりゃいーのに」
ゆっくり近づいてきた蓮が言った。
「午後からは私は用事があるので必ず蓮君が亜助君に教えてあげて下さいね」
「手出しすると後々華ちゃんの為にならねんじゃないすか」
蓮はぽつりと言った。
華ちゃんはあえて竹刀を選んで亜助に言った。
「それを使って私と勝負だよ」
「え・・竹刀・・」
「まぁそうなんだけど・・亜助君を舐めてる訳じゃないから気を悪くしないでね」
華ちゃんは少し申し訳なさそうに言った。
(ハオさんがいるから多少怪我しても大丈夫・・ってことかな・・)
亜助は縄の使い道がよくわからないので縄を右手に。剣は利き手の左に持った。
「剣道部の助っ人した事あるんで俺から行くっすよ」
亜助は剣を構えた。
(!!)
自分から打ち込もうとしたが竹刀を構えて待っている華ちゃんに隙がない。
(嘘・・何これ)
亜助は戸惑ったがじっとしている訳にもいかないので持ち前の速さで華ちゃんにとびかかった。
ーーーパァーーーン!!
亜助の剣を華ちゃんは竹刀で払った。
(!!ただの竹刀じゃない?!)
「ぐぁ!!」
払った後すぐに華ちゃんは体勢を低くし、身体を捻って亜助の横腹を打った。
亜助は宙を舞った。
(!!)
ダァーーーーン!!!
宙を舞った亜助の更に上から今度は亜助の肩を打ち下ろし、亜助は地面に叩きつけられた。
地面は大きく割れた。
「・・亜助君、体力だけで戦っちゃだめ。身体能力と妖力を合わせなきゃ・・」
「妖力なんて・・どうやって・・」
なんとか起き上がった亜助は言った。
「手を出して」
「手?」
亜助は華ちゃんの真似をして両方の手のひらを出した。
目を閉じて集中した華ちゃんの手は藍色のオーラのようなもので覆われた。
「これが妖力だよ。訓練すればもっと沢山使えるよ」
華ちゃんはにっこり笑った。
「・・気功とかそういうの?」
「うーん・・カテゴリはそうかな」
華ちゃんは困ったように笑った。
華ちゃんはそっと亜助の手を包むように触れた。
「不思議な感じ・・・・いで!!」
「皇世!!」
突然亜助の腕を掴んで無理やり引き剥がした皇世に驚いた華ちゃんが言った。
「・・何してるんです」
亜助を見る皇世の目はすわっていた。
(怖い怖い!何急に!!)
「・・・邪魔すんなら屋敷に戻ってて下さいって」
また蓮はめんどくさそうに言いに来た。
「蓮君!!今の見ました?!可愛い華ちゃんの手を握ったんですよ!!そんなの絶対に許せないじゃないですか!!修行するなんて言って結局華ちゃんの手を触るのが目的だったんですか亜助君は!!」
(え・・何この人)
亜助は普段の落ち着きを払った皇世からは想像できない豹変ぶりに唖然とした。
「どう見ても華ちゃんから手出してましたけどね」
蓮は耳をほじりながら心底めんどくさそうに言った。
「・・・華ちゃんから手出した?」
(・・やっべ)
蓮は話の通じない皇世の殺気を感じた。
「皇世!もう!何で邪魔するのよぉ!」
華ちゃんはとても困ったように言った。
「!!!邪魔?!」
華ちゃんに言われた皇世は滝のような涙を流した。
「華ちゃんまで何てこと言うんですか!私は華ちゃんのために・・」
「?うん。それはいつも嬉しいんだけど・・今は亜助君に教えなきゃでしょ」
華ちゃんは何が自分のためなのかはわからなかったが泣いている皇世を説得した。
「わかりました。華ちゃんがそう言うなら・・でも触れ合いながら教えるのは禁止です。妖力については私が亜助君に教えます」
皇世はポン!とまた目の前にハンカチを出して涙をふいた。そしてまたポン!とそのハンカチを消した。
(・・マジシャン?)
亜助はポカンと眺めて思った。
(最初からそうしとけっての)
蓮は思った。
「亜助君」
「あ!ハイ!」
「ココ。まず集中して下さい」
皇世は人差し指で亜助の眉間の少し上を押さえた。
「ここ?」
亜助は眉間に当てられた指を見上げた。
「あなたに与えられた妖力はとても僅かです。集中しなければ引き出すことはできませんよ」
「・・集中・・」
亜助は先程の華ちゃんを思い出し、目を閉じた。
「何か見えますか」
しばらくして亜助は目を閉じた暗闇の中で指を当てられた部分にチリっと一瞬火花のようなものが見えた。
ほんの一瞬だがその一瞬を何度も繰り返し、やがてマッチでつけたような小さな炎が見えた。
「・・火」
小さな声で亜助が言った。
「あなたに宿っている妖力はその炎です。ゆっくりとその炎を左手に移動させてください」
皇世は人差し指で炎の道標を作るように亜助の体を左手までゆっくりなぞった。
(・・やはり要領は良さそうですね)
皇世は目を細めた。
「あ!消えた!もっかい!!」
亜助は何度も額に炎を灯すことからやり直し、なんとかそれを左手まで持っていった。
「・・・あれ」
目を開けた亜助だが自分の手に炎はない。
「まだ体外には出せないようですね」
「・・どうすれば・・」
「それを実戦で見出して下さい。体外に出し、武器に妖力を与えて下さい」
人差し指を立ててにっこり笑って亜助に言った後、華ちゃんの手を両手で握って言った。
「妖力の説明は終わりましたから後は亜助君をボコボコにすることだけに徹して下さいね」
「??うん。ありがとう。やっぱり教えるの上手だね」
華ちゃんは素直に感謝を伝えて笑った。
(あー可愛い!!!)
皇世はまた涙を浮かべた。