討伐隊員候補
「亜助君は輪廻転生だとかパラレルワールドなんてものは信じますか」
次野は後部座席に座る亜助に言った。
「なに?スピリチュアル的な話?」
「まぁ少し違いますが・・・」
「信じるも信じないも俺、小っちゃい頃から身体能力に異常感じてたし妖怪?妖魔?ってのも普通は信じられないことじゃんか。だから今更何か言われても嘘だとは思わないっす」
「そうですか。私も詳しい事はわかりませんが、皇世様のような人外レベルの討伐師様方にはどうやら神の領域なる力がおありのようでしてどんな世界でも・・前世や輪廻転生、パラレルワールドなる世界でも何かしらの縁で繋がるものがあると・・」
「神・・」
亜助は先程目にした皇世の纏う空気に触れ、あっけなく散った妖魔を思い出した。
「家族を亡くされてすぐに・・亜助君はこちらの組織に入ることに抵抗はないんですか」
「だからさー、、その組織とか今の状況とか全くわかんないから教えてほしいんっすけどー!」
亜助は身を乗り出した。
「あ、、ごめんなさい。では説明させていただきます」
「よろしくっす」
「この世界には先程亜助君もご覧になられた妖魔と呼ばれる厄介なものが存在しております。妖魔にはランク付けがされており先程のE級というのはその・・1番下級の妖魔でございます」
「え・・俺めっちゃカッコ悪いじゃん・・」
「いえ、そんなことはございません。先程拝見しました亜助君の身体能力は人間の域を遥かに超えていらっしゃいました・・ですが身体能力がどれほど優れていても妖魔を倒すための能力が無ければあれらを始末することはできません」
「その能力が俺にはないってことなの」
「いえ、皇世様が亜助君にはほんの少し能力があるとおっしゃっていましたので・・」
「能力あんのに1番弱っちいのが始末できなかったってことか・・」
「皇世様は見込みの無い人をわざわざ組織に招くことはしませんので何か策があると思われます」
「そっか」
「亜助君は度胸がお有りのようですがこれからの任務は想像を絶するほど過酷です。私には能力はありませんので現場検証やこうしたお手伝いしかできない立場の人間ですがそれでも何度も心が折れました」
「ねぇ、じいちゃんとばあちゃんに妖魔が憑いてた。それって妖魔に殺されたってことなの」
亜助は拳を握り締めた。
「いえ、亜助君のご家族に憑いていたのはE級の妖魔です・・それが一体ずつでは人を殺すまでの力はありません」
「そっか」
「ですが・・長い間取り憑かれていたのなら少しずつですが死を呼び寄せます」
「そっか」
「亜助君は親族でも何でもない赤の他人の為に命をかける・・なんてことができますでしょうか」
「俺、もう赤の他人しかこの世にいないし・・でも今はまだ想像もできてないから言い切れないす」
「この世の中は本当に理不尽極まりない・・言い方を悪くすれば能力のないお偉いさんに駒のように使われる・・ということになります」
「・・嫌な役割すね」
「全くです。ですから私は精一杯あなた方のお役に立ちたい・・・何の能力を持たない私にはそんな事くらいしかできません・・」
「次野さん良い人ですね」
亜助は笑った。
「さあ、着きましたよ」
「何ここ。東京すよね?」
到着したのは人気のない山奥に佇む大きな屋敷だった。
「討伐隊員の為のお屋敷です」
「討伐隊員って妖魔殺す隊員ってことか・・そんな何人もいるんすか」
「はい。ですが妖魔を根絶するにはまだまだ足りません」
もう寝静まっているのか屋敷の中はしんとしていた。
ガチャーー
「こちら、好きにお使い下さい」
案内された部屋はまぁまぁ清潔で居心地も良さそうだった。
「明日の朝、またお声かけしますので本日はゆっくりとお休み下さい」
部屋を出ようとした次野は亜助に背を向けたまま言った。
「決めるのはあなたです。あなたには辞退する権利は当然あるのだとお忘れなく」
「ありがと次野さん」
次野は深く頭を下げて部屋を出た。
体一つで来た亜助は特に荷物もないのでそのままベットへ寝転がった。