神々の戦い・勝利者など存在しない
『機動戦艦から始まる、現代の錬金術師』は不定期更新です。
全て終わったのか?
神の機動戦艦は、もう存在しないのか?
いや、念には念を入れないとならないよな。
「あれ、俺、泣いていたのか……」
頬を伝っていた涙が乾き始めている。
とにかく、このコクピットポットだけでは、地球までの通信など不可能。
そろそろヒルデガルドも、稼働できるはずだよな?
「ヒルデガルド、聞こえるか?」
『はい、私はミサキさまのおそばに存在します』
「ポットごと回収してくれるか? それと神の機動戦艦の残骸のある場所まで移動してくれ」
『イエス・マイロード。たしかにあれは危険です。まだ地球人類には過ぎた叡智となりますから』
「そこな。多少は時間が掛かるけど、目に見える残骸だけでも回収するぞ」
『かしこまりました』
分かっている。
こんなことは、後回しにしても構わないってことぐらいは。
それよりも、早く地球に降りないとならないことぐらいも。
アマノムラクモの被害状況の確認、地球の様子。
それらを全て、調べないとダメなことは。
けれど。
怖い
本当はどうなっているのか、全てが、本当に終わったのか。
だから、敵機動戦艦の残骸を全て回収する。
敵だったゴミ屑を、全て集める。
まとめて無限収納に収めて、敵がもう存在しないことを確認する。
一つ一つ、ゆっくりとでも構わない。
安心が欲しいから。
………
……
…
全ての残骸や回収が終わったのは、二日後。
ずっと、ただ黙々と、回収を行なっていた。
そして最後の残骸、天使型マーギア・リッターのパーツを無限収納に収めて、作業は完了した。
『マイロード。これで大方の作業は終了です。爆発の衝撃で高速で飛散した対象については回収は不可能です』
「そうだなぁ。それじゃあ……地球に帰るか」
『了解です。目標座標は何処に設定しますか?』
「北緯30度東経15度、アマノムラクモに帰還する」
『……イエス、マイロード……』
カリバーンのコクピットポットを抱えて、ヒルデガルドのマーギア・リッターがゆっくりと降下を始める。
大気圏突入時に燃え尽きないように、スラスターを全開にしてゆっくりと。
灰色の雲を貫くように降りると、そこは海原。
右も左も何も見えない。
そのまま、アマノムラクモが存在していた場所に降りていくと、海上にいくつかの船が見えている。
「ヒルデガルド、ズームできるか? カメラにリンクするから、画像をこっちに……いや、コクピットを開けてくれ、俺がそっちに移る」
『了解です』
──ガゴン
ヒルデガルド機のコクピットハッチが開き、中に入る。
そして、思わず息を呑む。
コクピットの後部が端曲がり潰れ、ささくれた内部フレームがヒルデガルドの胴体を切断している。
上半身のみでマーギア・リッターにアクセスし、ここまで動かしていたのだろう。
「マイロード、お見苦しいものを……」
「うっさいわ! ダメージを受けていたのなら、先に言え‼︎ 物質修復‼︎」
──シュゥゥゥゥ
コクピット内部にヒルデガルドのパーツが落ちていたのは、実に助かった。
すぐさま修復魔法でヒルデガルドを治すと、その頭にガツンと拳を落とす。
「俺の命令を最優先、それはわかる。けれど、俺の気持ちも理解しろ……」
「も、申し訳ございません」
「まあ、無事だったからいい。さて、何処の船だ」
──カチカチカチッ
カメラをズームにして、船体を確認する。
『アマノムラクモ所属、海上救命船ツクヨミ』
『ロシア海軍空母・アドミラル・クズネツフォ』
『アメリカ海軍空母・ロナルド・レーガン』
これ以外にも、俗に言うアマノムラクモ観測艦隊があちこちに見える。
そしてツクヨミの甲板では、ヒルデガルド機を確認したのだろう及川たち五名の国民の姿、負傷したサーバントたちの姿も見える。
「ふぅ……無事だったか」
「ツクヨミのロスヴァイゼより入電。ホムンクルスたちもツクヨミに搭載されています。オクタ・ワンが、ギリギリなんとか移動させて逃したそうです」
「お、オッケー。とりあえずはヨシ。一旦、ツクヨミに移る。マーギア・リッターは俺の無限収納に格納する」
それだけを告げて、俺はマーギア・リッターを降下させた。
ようやく、戻ってきたけれど、やらないとならないことが山のようにあるなぁ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
謎の存在、神を名乗る声。
それの出現と同時に、世界は滅亡の危機を迎えていた。
それを救ったのは、アマノムラクモ。
機動兵器マーギア・リッターにより地球全域に結界を施し、神を名乗る存在の攻撃を防いでいた。
神の第一波は防ぎ切ったものの、疲弊し切ったアマノムラクモでは、第二波を防ぎ切るだけの力はなかった。
多角形球状結界の点、フォースプロテクションを繋ぐマーギア・リッターが敵機に狙われる。
結界発生装置を搭載していた機体が破壊され、結界に綻びができると、その僅かな隙間から敵マーギア・リッターが結界内に侵入。
この時点で、アマノムラクモおよび地球の命運は、悉く尽きた。
それでもアマノムラクモのマーギア・リッター遊撃部隊により、結界装置を搭載した機体を狙う敵機の攻撃を防いでいたのだが、突然、敵は二手に分かれる。
結界装置を狙う敵。
そして、地球の各国を狙う敵。
それは、翼を広げて各国へと神速とも呼べる速度で飛来すると、無慈悲な攻撃を繰り返す。
ある国の首都は一撃の元に蒸発し、またある国は、海岸線がごっそりと削り取られた。
泣き騒ぎ、祈る人々を嘲笑うかのように、敵機は、破壊の限りを尽くし、蹂躙を続ける。
信じられないのは、これが、わずか数十分で起きたということ。
敵機動戦艦が出現して、僅か一時間で、世界は機能を停止した。
だが、突然敵機が機能を停止すると、まるで燃料が尽きたかのように次々と墜落していく。
事態は好転したかのように見えた。
世界各地で、墜落したマーギア・リッターを回収し、分析したいところではあるものの、それよりも未曾有の危機からの復興が第一条件。
そのようなものは後回しとし、今は国を立て直すのが、世界各国の急務でもあった。
死亡者数 :消滅した国家計算で、30億人以上
消滅した国家:確認可能な国家だけでも19以上
死傷者数 :不明
無傷の国家 :不明
ニューヨークの国連本部がすでに消滅しているため、一時的にスイス・ジュネーブの国連事務局が統括代行となり、世界各地からの被害報告をまとめている。
………
……
…
「……了解。今の所の被害はわかった」
ツクヨミの艦橋で、ミサキは及川たちからの報告を受けている。
「ミサキさま、アマノムラクモはどうなるのですか?」
「俺たちにできることはありますか?」
「なんでもやるから、命令してくれ」
波多野や王、劉もアマノムラクモ国民として、できることを探している。
けど、ミサキは腕を組んで、考えていた。
やらなければならないこと、やったほうがいいこと、やらなくていいこと。
「世界を再生する……けど、今は、ツクヨミで待機だなぁ。釣りでもなんでもいいから、食料を調達してくれるか?」
──ドサドサッ
無限収納から釣竿を取り出して広げると、そのほかに調味料やら小麦粉やらと、食料として使えるものを並べていく。
アメリカとロシアのショッピングマーケットを建物ごと無限収納に収めてあるので、インスタント食品やデイリー品、チルドグロサリーとかも大量にあるんだけど。
それに頼りまくるよりも、身体を動かしていた方が、まだ気が紛れるからなぁ。
「とりあえず、食べ物の確保。衣食住を用意する必要があるんだが、まずはそこから。衣は、俺の無限収納にあるから大丈夫だし、それほど困るものじゃない」
食もどうにかできるが、自分たちで確保できる分は確保してもらう。
そして住。
これは、俺が用意するさ。
「わかりました」
「食料については任せてください」
「美味しい中華料理も、ラーメンも作れますから」
「そこは頼りにするよ。俺は、少し出かけてくるから……」
先に、損傷したサーバントの修復を行う。
ワルキューレで残ったのはヒルデガルドとロスヴァイゼの二人だけ、アマノムラクモの制御担当だった子たちは、アマノムラクモと共に海底に沈んだらしい。
フォースシールド、神の鉄槌に加えて、アマノムラクモの外装甲にも魔力を循環して防御したらしい。
結果、全てのフィールドは吹き飛び、装甲が貫通。
魔導ジェネレーターが爆発して真っ二つになり、海底に沈んだ。
ただ、機動戦艦の主砲の火力を全て止められたわけではないらしく、どこまで被害が広がっているのか確認しなくてはならない。
──シュウン
無限収納からヒルデガルド機を出すと、ミサキはヒルデガルドと共に搭乗し、海底に目掛けて沈降を始める。
アマノムラクモの最終沈没区域は、ここから北東であるため、海底調査も兼ねて、速やかに潜航して進んでいった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……」
言葉を失う。
海底に沈んでいるアマノムラクモ。
その周りには、機能停止したサーバントの姿も多数、確認できる。
「回収したいところだけど……もう少し、待っていてくれ」
──シュゥゥゥゥ
アマノムラクモに接近し、折れた場所から艦内に進む。
魔導頭脳がある区画に到着したが、トラス・ワンのあった場所は蒸発して残骸すら存在していない。
中央区画のオクタ・ワンは形こそ残っていたが、独立していた魔導ジェネレーターが半分ほど吹き飛んでいるので、修理しない限り稼働は不可能。
「サラスヴァティ型魔導ジェネレーターも、こうなるとオブジェでしかないか」
「そうですね。修復は可能ですか?」
「まあ、不可能かどうかと聞かれると、可能。ただ、ここじゃあ無理だよなぁ」
海底では、ミサキの息が続かない。
ヒルデガルド機では、ミサキの錬金術も外部に飛ばすことができない。
「様子はわかったから、先にカリバーンを作るしかないか」
「コクピットポットが残っていたのが幸いですね」
「まあな。ここを中心に物質修復の術式で再生させるしかないけどなぁ……」
材料はある。
宇宙空間で回収した騎士型と天使型、これがあるから部品には困らない……筈。
カリバーンさえ戻れば、時間が掛かるもののアマノムラクモは再生する。
けど。
地球は再生しない。
アマノムラクモの残骸の横にある、直径50mほどの空洞。
真っ直ぐに地球中心に向かって伸びているかと思うトンネル。
もう少し火力があったら、アマノムラクモが軽減できなかったら、おそらくは地球中心核まで撃ち抜かれていた可能性がある。
それでなくても、この穴の深さが分からない。
確実に、悪影響を起こすのは目に見えている。
そして、死んだ人々は、帰ってこない。
消滅した国家、変形した国土。
それらは、どうあがいても戻すことはできない。
「……ミサキさまの所為ではありません。全ては、神が悪いのです」
「けどさ。俺が、アマノムラクモでやって来なければ、神の怒りが爆発するのはもっと先だったと思うよ……だから、俺のせいでもあると思う」
結果論や感情論じゃなく、純粋に状況を把握して弾き出した結論。
俺の、アマノムラクモの存在が起爆剤になったことは間違いはないから。
「ですが、死者は生き返りません。それこそ、神に対する冒涜ですと、人々は仰るでしょう」
「錬金術じゃ、死者の蘇生は無理。カリバーンの神の右手でも、魂の再生はできない。けど、いくつか、どうにかできるが可能性はある」
「それは?」
「まだ秘密。アマノムラクモが再生しない限りは、オクタ・ワンにも聞くことができないからね」
切り札というわけではなく、オクタ・ワンにもアドバイスを貰いたい。
「ヒルデガルド、周辺のサーバントたちを回収できる分だけ、回収してくれるか?」
「精密作業用マニュピレーターに換装する必要があります。パワーコントロールが難しいかと」
潰さないようにつまみ上げるのは、やっぱり無理か。
「うん、カリバーンを治すところから始めよう。オクタ・ワン、みんな、もう少しだけ待っていてくれな」
静かに黙祷を捧げてから、俺はツクヨミへと戻ることにした。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。











