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【完結】機動戦艦から始まる、現代の錬金術師  作者: 呑兵衛和尚
一つ目の物語〜機動戦艦・出現編〜

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追悼と責任と

『機動戦艦から始まる、現代の錬金術師』は不定期更新です。

 某月某日。


 アドルフ率いる第三帝国による大戦が終わり、世界各国はその戦いによってつけられた大きな傷からの回復を始める。


 国連本部では、この戦争による被害者を追悼するための合同追悼式典が行われ、初めて、アマノムラクモの代表であるミサキ・テンドウが公の場に、姿を表した。

 これまでも何度か、視察団の前に出たり音声による会談などは行われていたのだが、国連本部の総会会議場に『国家代表』として姿を表したのは、公式では初めてである。


「……今回の、アドルフ・ヒトラー率いる第三帝国との戦いにおいて、勇敢にもその命を散らした多くの英霊に、哀悼の意を捧げます……」


 多くは語らない。

 だが、この戦いを終わらせることができたのは、アマノムラクモの力であることを、どの国の、誰もが知っている。

 それ故に、これ以上の国連加盟国ではないアマノムラクモからの話はなく、そのあとは作戦に参加した連合艦隊の所属国代表による挨拶が続けられる。


 そして二時間の追悼式典を終えると、ミサキは国連本部から立ち去った。

 第三帝国よりも強大なテクノロジー、それも、どの国でも破壊できなかった飛行船のバリアを破壊する攻撃力を、どの国も欲していたから。

 だから、ミサキはすぐに立ち去る。

 オーバーテクノロジーは、世界のバランスを破壊することを、今回の戦争で嫌というほど理解したから。


………

……


 アマノムラクモ居住区第三階層。

 観光区画であり、ホスピタル区画でもあるこの階層の一角には、小さな墓地が作られた。


「まあ、作られた魂だったけど、俺の仲間であり家族だったからさ。擬似魂だけでも残っていてくれれば、再生は可能なんだけど……これで我慢してくれよ」


 ミサキの前には、銀色のプレートが墓碑のように建てられている。

 破壊したアドルフの残骸から回収した、諜報員サーバントの肉体。それを錬成し直して、墓碑の代わりに立てているのである。

 ミサキの後ろには、全てのワルキューレとサーバントが集まり、同胞の死を悲しんでいる。

 ゴーレムゆえ、作られた命ゆえに、死は存在しないと思われているが、擬似魂の中には人格があり、精神が、心が宿っていた。

 だから、悲しさはある。

 

 その日は、アマノムラクモではじめての葬式が、静かにおこなわれた。

 

 

………

……


『ピッ……捕縛した第三帝国親衛隊から、麻酔薬のような物質を検出。及び脳波波長に乱れを確認、解析した結果、洗脳に近い脳波コントロールの痕跡が確認されました』


 俺は、今回の戦争で、他国の艦隊が突然暴走した理由を知りたかった。

 そのため、各国艦隊に突入してきた親衛隊を数名ほど捕縛し、アマノムラクモに連行してもらったのである。

 そのあとは、厳重な監視の中での治療と解析をトラス・ワンに依頼、一週間かけて調査分析を頼んだ。

 その最中に、国連事務総長からの連絡があり、今回の戦争被害者の追悼式典を行うので、アマノムラクモも参加して欲しいという連絡があり、今日、ようやくアマノムラクモに戻ってきたばかりだ。

 そして留守の間の報告の一発目が、親衛隊の洗脳について。


「……最悪だな。それで、被害者とそれ以外の人の見分けはつけられるのか?」

『ピッ……洗脳を受けた者たちは、特定波長を受けることで脳波の一部に乱れが生じます』

「解除方法は?」

『……現在、調査中。特定波長による脳の活動領域を中和する必要があり、ノイズキャンセラーのような魔導具を用いる必要があります』

『ピッ……現在の地球のテクノロジー、医療レベルでは不可能。アマノムラクモのラボもしくはホスピタル区画での療養により緩和可能かと』


 つまり、各国艦隊の主要搭乗員、上層部、もしくは各国中枢の議員関係者は、アマノムラクモでの治療を行わない限りは、いつまた暴走するか分からないということになる。

 

「こりゃあ、参ったなぁ。どこか一箇所に大勢の人を集めて、洗脳されていた人を炙り出す必要があるのか」

『ピッ……そのためのノイズコントローラーは、ミサキさまの錬金術で製作可能です。こちらが、必要な術式リストです』


 正面モニターには、オクタ・ワンによる魔導術式が出力されている。

 ゴーレムやサーバントを作り出すための術式とは違い、これは、俺にしか操れない超難易度の術式である。


 人間の生命や神秘部分に干渉するため、オクタ・ワンやトラス・ワンでは『神域に触れる行為』であるために実行不可能。

 俺以外には不可能な領域であることが、あっさりと理解できた。


「ふぅ……了解だ。ヒルデガルド、俺の研究室に材料を用意してくれるか?」

「イエス、マイロード。すぐにリストアップしていただけると助かります」

「了解。俺は一度、温泉に浸かってくるよ。禊じゃないけど、ようやく落ち着けるからな」


 ということで、必要な素材リストをヒルデガルドに手渡して、俺は一旦温泉へ。

 その後で、じっくりとノイズコントローラーと、ノイズキャンセラーの開発を始めるとしますか。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「今回の第三帝国相手の戦争において、自衛隊が力を尽くして日本を守るために活動していたのか、この場を借りて御礼申し上げます」


 日本国の臨時国会。

 最初に総理大臣が深々と一礼したことについて、あちこちからヤジが飛ぶ。

 自衛隊は違憲であるだの、何もできなかった自衛隊の存在は必要ないだの、これ見よがしなら叫ぶ野党たち。

 明日からの選挙ラストスパートでも、そこについて重点的にアピールしてくることは間違い無いだろう。

 でも、そんなものは全て無視しつつ、憲法第九条改定についての審議案を提出、選挙が終わり新政府に変わり次第、審議案については話し合いを始めることを与野党の大半は合意に至った。


 ここにきて、『話し合いによる解決』などというお花畑案は不可能だと野党の半分近くも理解、日本を守るという点においては、ほぼ全面協力で法案の改定を行うことになった。


………

……


「なんだよ、結局はアマノムラクモのいいところどりじゃないか?」

「それなら、とっととアマノムラクモがやったらよかったんだよ。もっと早く動いていれば、世界各国、こんなに被害が出ることはなかったんだよ」

「それよりも、ミサキとかいう代表が無能じゃね? 韓国がアマノムラクモを使っていたら、もっと早く戦争終わらせられたよな」

「本当に無能だわ、あんな無能が、巨大兵器を持つことがおかしいわ」

「そうだそうだ、アマノムラクモを韓国によこせば良いんだよ」

「それを主張しない政府もダメだよな……」


 韓国では、新大統領選挙を前に、ネット世界が騒がしくなっていた。

 結局、韓国は、第三帝国との戦争には参加していない。


『大統領選が終わるまでは、軍事行動にも参加することは控える』


 という声明を世界中に発信し、そのあとは国防に重点をおいて戦列には参加していなかった。

 結果、国民には何の被害もなく、いつもと変わらない日常を過ごしていた。


「はぁ……大統領になりたくないわ……」

「この状態の政府なんて、纏められる筈ないだろうが、頼むから他の候補が当選してくれよ」

「なんで政党代表として、俺が大統領選に出る必要があるんだよ……」


 どの政党代表も、表向きは笑顔で話をしているのだが、その腹の中では、次期大統領の席は他政党にとってくれと祈っている。

 それでなくても、対日政策をうまくコントロールしないと国民が納得しないことに加えて、対天政策まで盛り込まなくてはならないから。

 韓国国民は願っている。


 次の大統領こそ、日本を謝罪させることができると。

 アマノムラクモを韓国の属国とすることができると。

 

 そのための大統領を選ばなくてはならないと。


「……胃が痛い……」


 どの候補者も、胃薬を手放せなくなっている。

 それも、名前ばかりで全く効果のない韓国製ではなく、全てにおいて安心安全である日本製の胃薬を。



………

……



「アマノムラクモへの親書は届けられたかな?」


 ホワイトハウスでは、パワード大統領が事務次官にそう問いかけている。

 この度の連合艦隊に対する助力、第三帝国との戦争を終結させた功績を讃え、連合艦隊から勲章を贈ることにした。

 これは参加国合同により与えられる『栄誉称号』であり『栄誉勲章』でもある。

 これは合同追悼式典の後日、国連総会において決議された正式なものであり、可能ならばアマノムラクモのミサキ本人に受け取ってもらいたいと、親書が送られた。

 パワード大統領以外にも、ロシアのフーディン大統領や中国の欧阳オウイァン国家首席の名前も連名で書き記されている、前代未聞の親書である。


「現在、グアムに保管されています。アマノムラクモへの連絡については、グアムのアンダーセン空軍基地が窓口となっておりますので」

「そうだったな……できるならば、快い返答を貰いたいものだ。アメリカは、アマノムラクモと共に歩む道を選ばせてもらいたいからな」

「ええ。あの国は、我がアメリカの家族です」


 事務次官の言葉に、パワード大統領も笑顔で頷く。

 


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 グアム島。

 ニミッツ・ビーチ・パーク南西の浅瀬に係留されたアドミラル・グラーフ・シュペーは、各国艦隊から派遣された合同部隊により、厳重に監視されている。

 どの国も、この飛行船に搭載されているテクノロジーが、喉から手が出るほど欲しい。


 本来なら、ロシア艦隊はこの座標まで飛行船を運びたくはなかった。

 そのまま本国まで運びたかったのだが、連合艦隊司令長官は、グアムまで移送のち、どの国も遺恨を残さないようにと合同の調査班を編成することとなった。


 すでに飛行船内部に残された死体は全て運び出され、検死のち焼却処分が決定している。

 アドルフがこの世界に蘇ったことを考えるのならば、また再生される恐れがある第三帝国の兵士はできる限りこの世界に残さないようにしなくてはならない。


 それほどまでに、アドルフの蘇生は脅威であり、第三帝国が二度と甦らないようにしなくてはならなかったから。



「……見た感じですと、それほど古い技術ではありませんね。現代の駆逐艦、それも色々な国の技術の集大成というところでしょう」

「操縦システムはアメリカ、航行に必要なデータ及び衛星に干渉するためのシステムは日本というところですな」

「火器管制装置は中国とロシアのいいところ取り。あの主砲はドイツの技術を現代レベルで再現といったところですか」

「ええ。ですが、これは……」


 ぐちゃぐちゃな艦橋区画において、唯一無傷で残っている『バリアシステム』。

 煤に塗れていたらしい表面も海水によって洗い流され、まるで新品同様のような輝きを見せている。

 透明なガラスパーレートが嵌められているだけのコンソールだが、傷ひとつない。

 そして、その場の誰も、それが何であるのか理解できていなかった。


「この部分からは、我々の知らない技術を感じますが。どうするべきですか?」


 代表の一人が、その場に集まった研究員たちに問いかける。

 当然、答えは一つであり『本国に持ち帰って解析する』という返答しかない。

 だが、どの国が責任を持って解析するのか?

 解析後のデータは全て公開されるのか?

 その保証などどこにもない。

 解析しても、わからなかったと返答すれば良い。

 戻せと言われても、破壊してしまったと言えばいい。


 とにかく、本国からの連絡は『速やかに未知のテクノロジーを、回収せよ』である。

 結果、この日の調査は終了し、明日再び調査が再開されることとなる。

 もっとも、明日も何も進展はしないだろうと、どの国の研究員も考えていた。


誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。


この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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